軽くなった心
総悟の綺麗な顔が、すぐ目の前にあって…辺りは桜の花びらと香りが広がっていた。晋助以外の人との、初めてのキスだった。その事実に戸惑わずにはいられなかった。





「総悟…な、んで……?」


「好きなんでさァ、菜子のことが……」


「え……」




総悟に優しく抱き締められて、菜子は今、総悟の胸の中にすっぽり収まっている。





「…正直、今まで女なんてどーでもよかったんでさァ。煩ェし、うぜぇし、いい玩具ぐらいにしか思ってなかったんでさァ」


「お、玩具って……!」





総悟の口から出た言葉に目を見開く菜子。普通の発言ではない、





「けど、菜子は別でさァ」





いつも、ふとしたときに菜子は切なげな表情を浮かべていて…そんな彼女をずっと見つめていれば…いつのまにか、ほっとけない存在になっていた。知らず知らずのうちに心惹かれてしまっていた。






「だから、無理に笑ったりすんじゃねーぞ。俺ァそんな菜子を見たいわけじゃねェんだからよ」





ポン、と軽く頭を叩かれる菜子だが、いきなりの告白と口づけにいまいち頭が回らず、反応が出来ずにいた。





「今すぐ好きになれとか、そんな無茶苦茶なことは言いやせん。ただ、菜子の様子が変だったからつい気になっただけでさァ…」





ただ、一つハッキリと言えることがあった。





「心配、してくれたんだよね……総悟……」


「…悪ィかコノヤロー…」





照れ隠しなのか、総悟の様子がおかしくて、ついクスクスと笑ってしまった。





「…テメーこの俺がわざわざ心配してやってんのに笑うだなんていい度胸してるじゃねェかィ……」


「ご、ごめっ……けど、ありがとね……」





(…なんでかな?さっきまで重々しく考えていたことが軽くなった気がする。気が、楽になれたよ…)





「…ホント、ありがとね……」




総悟の胸元をぎゅ、と掴む菜子に総悟は一言。




「……菜子」


「ん?」


「このまま犯しちまっても構わねェですかィ?」


「あ〜もう仕事に戻らないとー」





総悟の一言で直ぐ様距離を取る菜子。





「チッ……次は必ず…仕留めてやりまさァ」


「次って何!?」





最後は笑い話しながら、二人は来たときと同じように屯所へと帰る。ただ、先程と違うのは、菜子の笑みが偽りのものから本当のものに変わったところだった。






「すみません女将さん、昨日といい、今日といい好き勝手なことばっかりしちゃって……」


「あら、菜子ちゃん。そのことについては話聞いてあるからいーのに」


「は、話って……?」





女将の言葉に首傾げ、聞きなおす菜子。





「沖田隊長からよっ!最近菜子ちゃん、疲れてるみたいだから今日少し休ませるために借りていくって」


「そ、総悟からそんな風に聞いていたんですか…?」





話付けといてくれたとは言っていたけど、まさか本当に話を回しているとは…予想外の事実に菜子は瞳を丸めた。





「愛されてるわね〜菜子ちゃん」


「そ、そんなんじゃ…!」





顔を赤くしながら否定する菜子に、ふふふ、と女将さんは優しく笑いながら菜子の肩を叩いた。
女将さんの話を聞いて、菜子は総悟に心配かけてしまったのだと改めて実感した。そして、彼の不器用な優しさがくすぐったく感じて、嬉しかった。
その日の総悟の夕食だけは菜子が奮発してハンバーグだったと言う。


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