オカマ嬢になりきります
「…ねぇ…何してんの?二人とも……」
「…げ、まじかよ…よりにもよって菜子に見られることになっちまうとは……菜子ちゃあーん、理由は聞かないでーお願いだからっマジでーじゃないと銀さん凹むからァァァ!!」
「……ハァ〜、銀ちゃんとヅラに女装の趣味があっただなんて………」
「ヅラじゃない、桂だ!…あ、今はヅラ子だった……」
もうこの際名前なんかどうでもいいって…と言う菜子の心の声は届かず。はぁ、と深い溜息を零しながら再び菜子は二人に視線をやる。
「…もう一度聞くけど…何してるの、二人とも…」
「ねっ、その軽蔑な眼差しは止めてくんないっ!?銀さん滅茶苦茶傷つくから止めてくんないっ!?銀さんのガラスのハートは粉々よ?つーか銀さんは無実だから!悪いのは全部ヅラだからァァ!!」
久々に屯所での仕事が休みになったため、街中をぶらぶらしていた菜子だったが、銀時と桂のオカマ姿を目撃してしまい、今に至る……というわけだ。
「や、だってヅラがいい稼ぎ口紹介してやるって言うからァ〜銀さん今月パチンコで滑ってピンチだったし〜仕方なくって言うかァ〜」
「……銀ちゃん、そのオカマ口調は止めて。つい鳥肌が………」
(……まぁ銀ちゃんはヅラに捕まって、ヅラはオカマキャバ嬢の店長に捕まってしまったらしく今に至るらしい。……もし、晋助が今のこの二人を見たらどうなるかな?
かつての同志の悲しいこの姿を……)
「…私、何も見なかったことにするね。それじゃあ……」
……と、この場を立ち去ろうとしたそのときだった。菜子はガシッと両肩が捕まれてしまった。
「ちょっと!!二人とも何するのよー離してってばー!!」
「ちょちょちょ、かつての同志を見捨てちゃうだなんて淋しいんじゃなーい?菜子ちゃーんっ?」
「そうだぞ、菜子。仲間なら協力をしてだな……」
「嫌よ、せっかくの休日なのに!それに、なんで…女の私よりも二人の方が綺麗なの…!?」
(これが何気一番傷つくよね。女の自分に自信喪失するよね……屈辱的だよね…)
「大丈夫大丈夫〜菜子ちゃんは十分可愛いから。銀さんがちゃーんとお嫁にもらっちゃうから。あ、婿入りの方が……花村銀時って結構よくね?」
「もう馬鹿!何言ってるのよ、てゆーか離してってばー!」
「暫しの辛抱だ、耐えてくれ」
「ヅラの馬鹿っ」
「ヅラではない、ヅラ子だっ!」
……結局、この二人がおとなしく帰してくれるはずもなく二人が働くオカマキャバ嬢に連行されたのだった。
「…へぇ〜この子がパー子とヅラ子の連れてきた新しい新人ちゃん?」
「そ〜なの〜顔も可愛いし、いい子だし、いいでしょアゴ美」
「誰がアゴ美だァァ!」
(…てゆーか、いつの間にか勝手に話が進んでいるけど…ここで働く気なんて全くないんだけど…そんなこと私、一言も言っていないのに!)
「あ、いや別に私そんな……」
「もう菜子ってばやる気満々らしい、アゴ代さん」
「テメー等!あたしのこと舐めてんだろォォ!!どこの親がそんな名前付けるかァァ!!」
(づ、ヅラ……!私の言葉をワザと遮ったよね?この人ォォ!!)
「それにしても、ホント綺麗な子ねぇ……男の子に見えないわァ」
「…はははは」
愛想笑いを浮かべる菜子。オカマの彼女の一言にヒヤヒヤである。…もっとも男に見えてしまったらそれはそれでかなりショックなのだが。
「ママぁ〜どうする〜?この子」
「……そうねェ」
この店のママ、西郷さんがギョロとした目で菜子を見抜く。…他のオカマの人達とは比べ物にならないくらい迫力がある。菜子は思わず顔を引きつらせた。
「…まぁ今日一日だけならいいわ。お金になりそうだしね〜この子………ただし、私以外の人に本当は女だってバレないようにしてよ〜?…」
「っ!」
西郷さんの最後の言葉に菜子は思わず体をビクつかせる。…どうやらこの人にはバレていたようだ。
「っ、私のこと…気付いてたんですか?」
去ろうとする西郷を呼び止め、問い掛ける。すると彼はちらりと此方に振り向いて堂々と言い放った。
「何年オカマやってると思うのよ、オカマの目を甘く見ていると痛い目遭うわよ〜」
…そう告げる西郷さんのニヤリと笑った顔は怖くて思わず体に寒気が走った。
と、言うことで……私は女なのにオカマのフリして働くこととなった。
「こら、菜子〜もっと腰振って踊んなさ〜い?せっかくお客様が見に来てくれてるのにぃ〜」
「は、はいぃ…!」
(そ、そんなのしたことないからわかんないんですけどー!!それ以前に恥ずかしいって!!)
「ヅラ子〜菜子に色々説明頼んだわよ〜」
「は〜い、アゴ代さん〜」
「アンタいい加減にしないとその顔、顎でカチ割るわよ?」
アゴ代、さんの言葉など軽くスルーして、ヅラと一緒に店の裏の方へと進む。
「いいか菜子?ここではお前も立派なオカマなんだ、ちゃんと給料もらえないぞ、全くお前は可愛い奴だな〜ハハハ」
「…そもそも女なのにオカマになり切れって言う方が無茶なんだよ、ヅラ…」
「だからヅラじゃないと何度言えばわかるんだ?ったく、これも銀時と高杉の悪影響のせいだな……」
ヅラの口から出た高杉の名前に、菜子は思わずあの雨の日のことが脳裏に蘇ってきた。
「…ねぇヅラ。今、攘夷浪士たちの動きってどういう状態なのかな…?」
「ん?どうしたのだ、急に」
「あのね……私数日前に、」
…と、菜子は真剣に話を続けようとした。…のだが、
「そうかっ!わかったぞ!」
「え?」
ヅラの叫び声によってそれは遮られた。
「そうかそうか…ようやく菜子も私の力になってくれる気になったのか!それは心強いことだ」
「え、いや、ちょ、違っ………」
「なぁに!心配することはない、そういうことなら私に任せておけ!泥船乗ったつもりでなっ!!」
「やややー泥船じゃ沈んじゃうから!」
暴走し出したヅラに菜子は慌てて口を挟む。そんなつもりなどないのに、ヅラは一人で勝手にその気である。
「我々の派閥はもう無駄な争いを無くし、穏健に話を進めようとしているのだが……まぁそう上手くいくはずもない。幕府の犬どもが追いかけ回してくるわ……」
(幕府の犬……あぁ、真選組のことね…確かにヅラに対する扱い方を見ていると確かにすごい……ところ構わずバズーカブッ放すし、町中追いかけ回すし…)
「まぁ他の派閥は穏健派と過激派と別れてきて、その内大きい争いがあるだろう…最も過激派の中で一番危険なのは、奴に変わりないがな」
「……晋助、か」
今、彼が何を考えているのか、企んでいるのか…全くわからない。予想もつかない。人並み外れた行動をするときもあるけれど、その行動には必ず意味があるから。…高杉晋助と言う男はそういう男なんだとわかっている者は数少ないだろうが。
「……やはり、奴が気になるか…」
「…嫌でも心配しちゃうよ、ホントに」
怪我はしないだろうか、今も元気にやっているのだろうか。つい最近会ったと言うのに、彼のこととなると心配や不安は消えそうもない。
「まぁ、奴が率いる鬼兵隊の動きが掴めたらすぐに菜子に伝えると約束しよう」
「ありがと、ヅラ」
「ヅラじゃない、今はヅラ子だと……」
……と、長々と話が始まりそうだったが、新たに客が来たとオカマ嬢に呼ばれたので私たちはホールの方へと戻った。…行った後に後悔したけれど。
「いらっしゃいま……せェェ!?」
客の顔を目にして思わず声を上げてしまいました。
「「「「なっ、菜子!?」」」」
「な、なっなんでここに真選組のみんなが……!?」
なーんと、新しいお客さんというのは真撰組の皆さんでした。近藤さんやトシ、総悟、山崎君……他、皆の隊士が驚いた表情を浮かべこっちを凝視してきている。
「そ、それはこっちの台詞だ……っ!なんでお前がこんなオカマ……」
「だ、だって!そこのパー子に強制連行されたんだもん…!」
ビシッと逃げようとしている銀ちゃんに、そうはさせるかと指を差す。
「……あ、」
「あ、じゃねェよ!この万事屋ァァ!!テメー菜子に何やらせてんだよォォ!」
逃げようとしていた銀ちゃんの胸元を取り、乱暴に上下左右に振り回すトシ。
「心配するな、責任持って俺が婿入りするからよ〜」
「なんでだよ!つーかそこは婿入りじゃなくて嫁にもらうとかそーいう台詞だろうがァァ!」
「ゴチャゴチャ煩ぇな、大串くーんっ?」
「誰が大串だァァ!!…大体、テメーも何してんだよ、こんなところで…とことんだらしねェ野郎だなァ…!」
チッ、と舌打ちを打ちながら煙草に火を点けるトシ。すると、あっけらかんとした口調とともに銀ちゃんは指を差す。
「パー子は〜そこのヅラ子に騙されて〜」
「そのオカマ口調止めろ。つーか誰だよヅラ子って……」
「銀ちゃん!!それは言っちゃ…!」
慌てて銀時を止めようとしたが既に遅し。銀時こと、パー子が指差す方向に目を向けると…トシは思いもよらない人物に思わず煙草を落としてしまう。
「桂ァァ!?」
「おー確かにそう言われれば桂に似てるかもなぁ〜この美人さん。まぁお妙さんほどじゃないけどなぁ〜」
「近藤さんっ!何寝呆けたことを言ってやがる!!こいつは本物の桂小太郎だ!!」
「………え、嘘ォォォ!?」
「チッ……バレては仕方がない……さーらばぁぁあ!!」
ドロン、と白い煙が辺りに出し、それを利用して逃げ出すヅラ。
「待ちやがれーかーつらァァ!!」
その後に続くように真選組が慌ただしく店を出ていく。
「……おい、お前も行くぞ」
「へ、ひゃっトシ!?」
ついでにと、菜子もトシによって店から引っ張られたのでした。
ちなみに真撰組の皆がオカマキャバ嬢に来た理由は、今日もお妙さんにフラれた近藤さんのヤケからだったと言う。
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