今の彼女は俺のもの
アイツからのいきなりの電話に、俺は少なからず戸惑った。





『よぉ、銀時……』





聞こえてきた声に、思わず息を呑んだ。





「……はいはい、万事屋銀ちゃんでーす。って、なんでテメーが番号知ってんだよ、高杉」


『細かいこと気にすんなよ。大体、俺とお前の仲だろ?』





ククク……と電話越しに奴の独特の笑い声が耳に入ってくる。





「言っておくがテメーの仕事は一切引き受けねぇよ?銀さんもう歳だし、無茶したくないし」


『そら、冷たいこった……まァ、用はんなことじゃねェ……忠告するだけだ』


「は?忠告だ?」





高杉の予想外の言葉に首傾げる銀時だが、次の瞬間に聞いた言葉に一瞬頭の中が真っ白になった。





『銀時……アイツは、菜子は返してもらうからなァ?』





その言葉は冗談でも偽りのものでもない…本気だ。





「……ハッ馬鹿馬鹿しい……何を根拠に、んなこと言えんだよ?」


『…銀時、先日雨が酷ェ夜があったなァ?』


「はっ?」





いきなり話が飛ぶので銀時はますます高杉の真意がわからなくなった。





「それが、何だって言うんだよ?」





あの日、あの夜。もちろん忘れてなんかねぇよ。まぁ、最近の出来事だと言うのもあったが……あの日の菜子が物凄く印象の強いものだったから忘れるはずがなかった。





『あの日、俺ァ江戸に来ていてよォ……菜子に会った』


「…まじでか」




口調は明るいものだったが、心境は余裕などなかった。あのとき、菜子の様子がおかしかったのも頷けた。




『まァ、俺が仲間に頼んで無理矢理俺の前に連れて来させたんだがな』




それも、頷ける。自ら距離を取ったのに、菜子から近寄るはずがない。





「……で、?」


『俺ァ、アイツを犯した』





嫌がる菜子を、拒否する菜子を…泣きながらやめてと懇願する菜子をこの手で犯した。が、アイツの本心を、俺ァ知ってんだよ。





『オメーにもわかんだろ、銀時。アイツの考えることなんかよー…』


「…わかりやすい奴だからなぁ、菜子は」





菜子は、高杉のため……自分のためにと察したのだ。高杉がこれ以上自分に構わなくならないよう、自分がこれ以上高杉に依存しないように、と。





『だが、それはもう時間の問題みてェだからなァ…菜子が俺無しでは生きられるはずがあるめェ。アイツをそんなふうに調教したのは、他でもなく俺だ。アイツと俺には切っても切れねェもんがあるんだよ、絶対になァ……』


「んな夢見てェなこと言ってんじゃねェよ、馬鹿馬鹿し……」


『ククク……テメー等の目の前から菜子が姿を消した瞬間、テメーがどんな表情を浮かべるのか楽しみなこった…』





そう告げられると、直ぐに電話は切られ、プープー…と電話の音が鳴り響く。





「……依存してんのはテメーの方だろうが、高杉」




菜子に依存しすぎて、おかしいのはテメーの方だろうが。大体菜子は、そう易々と自ら帰ってしまうような奴じゃねェ。アイツもアイツなりの武士道を持ち続けてんだ。それが簡単に折れちまうはずがねぇんだ。
……高杉が、そう仕向けるはずだ。菜子が嫌でも自分の元に帰ってくるように……な。

銀時は、なんとなくわかっていた。こんなのんびりと、菜子と過ごす時間には限りがあるものなのだと。今、彼女を腕の中へと閉じ込めてはいるが……それもほんのひとときに過ぎない。
ふと彼女のうなじに目をやると小さく赤い痣が数えきれないほどあった。高杉が付けたものだろう、まるで自分のものだと首輪を付けているみたいだ。

……俺達と菜子はいつも一緒にいた。幼少のときも、攘夷戦争のときも、そして………今。

けど菜子のこの細くて小さい体をずっとずっと支えてやったのは、紛れもなく、高杉だった。そして菜子も、必死に奴の後を追いかけていた。手を伸ばして、足早に、追い付くようにと。そして……いつも奴の傍で、優しく笑いかけるんだ。満面の笑みを。






「…っ銀ちゃん、痛いよ……?どしたの?」




ふと我に返った。苦しそうに自分に尋ねてくる菜子の姿を見て、少し腕の力を弱めた。





「……なんか、嫌なことでも遭ったの……?」


「大丈夫、銀さんカルシウム摂取してるから丈夫なんですぅ!」


「…もー、じゃあもう少しだけ、抱き締めといてあげるね……」





ふわり、と菜子が抱きついてきたと同時に淡い彼女の匂いが漂ってきた。
それが、銀時の胸を締め付けた。

……高杉さんよぉ〜、確かに菜子はお前のもんかもしんねぇ。今までテメーが一番菜子を支えてやったのかもしらねぇ。…けどよ、今、この腕の中にいる菜子は銀さんのものだから。これは、このときは、ぜってぇ譲んねぇから。銀さん、束縛するタイプだし〜。


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