交じり合う刀
「すみません、アポをもらっていない方は御通しすることが出来ません」
「は?アポ?」
橋田屋の受付嬢にそう告げられ、銀時は思わず首を傾げる。
「何?アポって?あ、林檎?アポゥ〜?」
「なんでそこだけイングリッシュなんだよ、コイツ」
「……ごめんなさい」
キレ始める受付嬢に、銀時の隣にいた菜子が思わず謝罪の言葉を述べた。
「……アレ、この子」
ふと受付嬢は銀時の背中にいる赤ん坊に目をやる。…見覚えのある子……そう、間違いない。橋田屋の社長の孫だ。
「って、ちょっとあのー!!」
……と、受付嬢が赤ん坊に夢中になっている間に銀時は菜子の手を掴み、勝手にエレベーターへと乗っていってしまった。
「……ちょっと、銀ちゃんっ!いくらなんでも強引すぎたんじゃ……!」
「だってわけわかんねーよ。アポゥなんて言われてもよ〜?銀さん、林檎なんか常備してねーし」
「だから林檎じゃないってば…」
菜子たちがエレベーターで上へと向かっている間に、上では大変な騒ぎになっていた。
「ひぃっ!!逃げろーっ!!」
新八、神楽、そしてここにバイトしている長谷川さん…通称マダオと、勘七郎の実の母親が浪人たちから逃れるために必死に駆け回っていたのだった。
「も、もう俺決めたァーっ!今日限りで煙草とお前等との付き合い止めるゥーっ!!」
「こんなときに何言ってるんですかァァ!!」
必死に叫びながら浪人達から逃げる新八たち。…それもそのはず。そこらの浪人ならまだしも、あっちにはあの盲目の人斬り似蔵がいるのだ。
目は見えないくせに、その他の身体器官は高機能。並外れたものではなく、気配で居場所がバレてしまう。
それに剣の腕も抜群なものである。斬られたらそれが最期だと思っても過言ではない。
「ひぃぃ!誰かァ、助けてェ!」
もう逃げ場はなく、完全に追い込まれてしまった。絶体絶命のピンチとなったそのときだった。新八たちの背中に当たる冷たい壁がガタン、と音を立てながら開かれた。
「えっ……?」
予想外なことに新八は思わず瞳を丸めた。
「はいアポゥ〜だぞーこれで社長さんに会わせてもらえるよな?」
「なぽ〜!」
「だ、だから銀ちゃんそれは林檎じゃなくて……!」
…どうやら、新八たちが壁だと思っていたのはエレベーターだった。そこから姿を表したのは林檎を片手に持つ銀時と、彼に困り果てている菜子に…
「勘七郎っ!!」
母親が泣き叫ぶかのように赤ん坊の名を叫んだ。亡くなった愛する人との間で生まれた小さな命。何よりも大切な我が子である。
「おぉっ勘七郎じゃないか!お前、早くその子をわしに渡すのだ!!」
社長の孫でもある、勘七郎。社長は大きく手を伸ばしてくる。……しかし、銀時はそれに応じなかった。
「……ほらよっ」
「あっ……!」
母親の方に勘七郎を授けた。
「むさ苦しいジジィの腕ん中にいるよりは母ちゃんのぺちゃパイ啜ってる方がマシだってよ」
「ちょっと!その言い方止めてくれない!?」
銀ちゃんの言い方に腹立てた勘七郎の母親は顔を真っ赤にして反論する。
「……ククク、また会うとは……嬉しい限りだねぇ……」
ふと、聞き覚えある声に銀時はピクリと眉を動かした。
「テメーは……っ!」
「おやおや、今回は手も空いているみたいだしねぇ…存分に戦えるね…ククク……」
「岡田、似蔵……!」
岡田似蔵だった。気味悪い笑い声を上げながら鼻が効くようにと鼻プッシュをしている。
「……けどその前に……」
ふと、似蔵の姿が視界から消えた。
「…おやおや?お母さん、駄目じゃない。しっかりと子供を抱いていなきゃ……」
「えっ…あ!?」
…かと思えば、一瞬で勘七郎を奪い、自分の腕の中に抱いている。
「ほらよ、社長サン?この子を抱いてさっさと行きな…」
「よくやったぞ似蔵!」
「待って!勘七郎を返して!!」
似蔵は社長に勘七郎を渡すと、社長は素早く立ち去って行く。その後を追うかのように母親が行く。
「っ銀さん!」
「銀チャン!!」
「テメー等は先行ってろ!!…すぐに追い付く…」
心配そうな表情を浮かべている新八君と神楽ちゃんを安心させるかのように手を振った。それを見た二人と長谷川さんはこの場から立ち去って行った。
「……で、菜子ちゃんはやっぱここにいるわけ?」
「銀ちゃんが無茶しないように見張っててあげるの」
「そんなに銀さんのこと心配?あーすげぇ菜子の愛感じる…」
「…って、そんなこと言ってる暇ないんじゃない?」
「お話はもうその辺でいいかい…?そろそろ…俺の相手してもらおうかっ!!」
剣を鞘から抜き、銀時に斬り掛かる似蔵。それを、銀時は木刀で押さえた。
「野郎に興味ねぇけど……フルコースで迎えてやらァ!!」
ガキン、と二人の刀が交じり合う。その様子を、菜子はただ見守るしかなかった。
「……銀ちゃんっ…!」
ただ、銀時が勝つことだけを祈りながら。
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