お酒に溺れる
鉄の匂いが充満した。それは銀時と似蔵の傷口から零れる血からするものだった。






「…っ銀ちゃん!」




菜子は銀時の元へと駆け寄った。彼は似蔵に斬られ、肩から血をダラダラと流していた。…と、同時に似蔵がその場に倒れこんだ。勝負は一瞬だった。
銀時が一発目の斬り合いのときに似蔵の刀の刃を無くし、優勢に立ったのが勝敗の決めてだった。似蔵は銀時に破れ、その場に倒れていると言うわけだ。





「……似蔵、アンタ……っ」





菜子は似蔵に目をやると、彼女の視線に気付いたのかゆっくりと口を開いた。






「あぁ、…一応言っておくけど、今回の件にあの人は関わりないさ」





似蔵から出た言葉に、少し安心してしまう菜子。





「…菜子、やっぱそいつと知り合いみてーだな……」




二人の様子を眺めながら銀時が菜子の耳元で呟く。





「……少しだけ、ね」





その言葉を否定しない菜子に銀時がフッ、と息をつくと二人はこの場を後にしたのだった。その頃、勘七郎はどうなったかと言えば………





「勘七郎は、私と、勘太郎様の息子として育てます。……ですから、今度来るときは"橋田屋の社長"としてではなく、"孫が好きなお祖父ちゃん"として会いに来てください。
お茶くらいは出しますから……」


「……くっ………すまんかった……!」





社長が無事勘七郎ちゃんを母親に返し、お互い和解することが出来たのだった。その証に、二人はお互いの手を握り合った。

その日の夜…銀時たちは勘七郎ちゃんと母親を見送った後、いつもどおり万屋に帰った。…ちなみに、銀時と別れる際に勘七郎ちゃんがグズり、泣きだしたので別れるのが大変だったのは余談である。





「ハハッ!なんだか波乱万丈な一日だったね、今日は」


「全くだぜ…あー疲れた、もう年の銀さんにはキツいってーの」





ポンポン、と自分の肩を叩いていかにも肩凝ったみたいな素振りを見せる銀時。





「何言ってるアル銀チャン!その歳で未だジャンプ卒業出来ないくせにっ!」


「そうですよ、銀さんは万年中二の少年の心を持ち続けちゃってる人なんだから」


「中二!?よりによって世界で一番バカな時期の中二!?」





神楽ちゃんと新八君の言葉をモロに受け、大声を出す銀ちゃん。……確かに二人の言葉は当たっているから仕方ないけれど。





「ったく、今からは大人の時間だからテメー等ガキどもはさっさと寝ろ。」





拗ねた銀ちゃんが二人に追い払うかのように手を前に振る。…その態度に神楽ちゃんはブスッとした表情を浮かべる。




「いつまでもガキ扱いするなアル!銀チャンのくせに偉そうでむかつくアル!!」


「なんだと、テメ!ここの主は誰だと思って……」


「あーあー…僕達に給料を渡さないこの家の主は誰なんでしょうね?」


「さーて、酒でも飲むかなぁ〜」





新八の発言を軽くスルーし、二人に背を向けてしまう銀時……弱い。結局、あの後新八君も自宅の道場の方に帰っていき、神楽ちゃんも疲れたのかすぐに眠りに入ってしまった。
銀ちゃんはと言うと…





「あーやっぱこれがなきゃやってけねぇよなァ〜」


「もう、飲みすぎには注意してよ、銀ちゃん!」


「わぁーってるわぁーってる……」





一人、飲み潰れていた。菜子はそんな彼をほっとくわけにもいかず、相手をしてあげていた。






「な〜菜子も飲めよ〜銀さん一人酒とか虚しいじゃん?」


「私、あまりお酒得意じゃないの知ってるでしょ?すぐに酔っちゃうもん」


「いーじゃんーなっ?なっ?」


「もー……少しだけだからね?」




銀ちゃんにお酌してもらい、少しずつ酒を口に含んでいく菜子。先程彼女が言ったとおり、本当に酒に弱いらしく、意識はしっかりとしているもののすぐに頬が真っ赤に染まってしまった。





「それにしても……勘七郎ちゃん、可愛かったなぁ……ねぇ銀ちゃん?」


「はっ……これ以上ガキの面倒はこりごりだっつーの。俺ァ、あいつ等だけでいっぱいいっぱいだからぁ〜」




銀ちゃんは押し入れの中で蹲るかのように眠る神楽ちゃんを指を差す…口では文句をあーだこーだ言っているが、本当は楽しんでいるくせにと菜子は苦笑した。




「けど、可愛かったな……。赤ちゃん欲しくなっちゃった!」


「……え、……何なら今すぐにでも銀さんとの赤ちゃん作っちゃう?今ならアイツと同じ天パで銀髪の赤ん坊が生まれ……」


「そういう意味じゃなくて!」





先走る銀時の言葉を遮って、大声を上げる菜子。銀時が話さなくなったのを確認すると、彼女は再び話始めた。





「……なんか、勘七郎ちゃんのお母さんには悪いかもだけどさ………好きな人と一緒になれて、好きな人との子供が出来て………羨ましいなぁって思ったのー…!」


「……菜子…」




そう笑いながら話す菜子に、銀時は思わず見とれてしまった。




「だってさー……私には、もうそんな夢叶いそうもないもん……」



はは…と笑ってはいるが、それは菜子が無理して笑っているようにしか見えなくて…そんな姿が痛々しくて仕方なかった。





「……菜子、オメーやっぱ高杉のところに………」



帰りたいのか…銀時はそう言おうと思ったがその言葉を呑み込んだ。言ってはいけない気がした。彼女が愛する奴から離れて、ここまで辿ってきた道のりはそんな簡単なものではなくて、苦しくて涙するものだと思ったから。
俺なんかがそう簡単に口にしていいほどの思いじゃねェから。




「……ねっ、銀ちゃん……ちょっと話に付き合ってよー……」


「……あぁ、いいぜ?」


「……私ねー……今でも晋助のことが好きなのー…」





ぽつり、と話出した菜子は弱々しく銀時の羽織る着物の袖を掴んだ。





「好きで、好きでー……晋助のことしか考えらんないのー…」


「…テメーは昔からそういう奴だったろーが」


「…っへへ!……だけどねー……晋助のこと想うと……ここがね、きゅうって絞め付けられて…つらいのー……」




ギュッ、と心臓が掴まれたかのように……まるで呼吸を止められたかのように。





「好きすぎて……つらい、よ……」




だって、彼の進む道にはどう考えても私は邪魔だもの。追いつきたくても追いつけないんだもの。彼が待っててくれても、寄り添ってくれても………どこか、遠い気がするの。



「……なんでかなぁ…?」


「んー?」


「……なんで、晋助を…好きになっちゃったんだろ…」




彼じゃなきゃ、こんな苦しくて辛い想いなんかしなくても済んだのに。よりによって、なんであんな気難しい人に惹かれてしまったのだろうか。





「もっとさー……」


「もっと?」


「…銀ちゃんとか、好きになればよかったのに…」




そしたら、こんな想いもしなくて済んだかもしれないのに。




「馬鹿、だね……わたし……」





それだけ告げるとコクン、と首を前に揺らし意識を飛ばした。

……こんなこと、言うつもりはなかった。ただ、酒の勢いでついつい言ってしまった。
自分の奥深くにあった、本音を誰にも言っていくつもりもなかったのに…零してしまった、銀ちゃんに。どうにかなるもんじゃない、楽になるもんじゃない…わかっていたけど止められなかったの。

自分が一番傷ついているわけじゃない。この世にはもっともっと辛い思いして生きている人がたくさんいるのも百の承知。けど、弱い私には耐えられなかったんだ。
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