夜空に咲き誇る花火
綺麗な夜空の下、みんなで見た輝かしいあの花火を……私は一生忘れない。あの幸せだった一時を、私は一生忘れやしない。一生 忘れたりしないから。
「ほんと、こういうイベント事があると騒がしいわねぇ…」
「猫の手も借りたいぐらいですね…!」
「あら、菜子ちゃんてばお上手ね!」
あはは……と楽しげな雰囲気を出しながら仕事する手を動かす菜子と仲間の女中。今夜は歌舞伎町で花火大会が開かれる。そのせいでか街中もガヤガヤと騒がしい。だけど皆どこか嬉しそうな表情を浮かべている。
「皆の食事等はこのぐらいの量で構いませんかね?」
「あぁ、大丈夫だと思うよ!他に屋台やらで買ったりするだろうし……」
そして、この真撰組屯所内でもそうだった。真選組は毎年、この花火大会の守備を一任されているため、その準備やらに女中達も走り回っていた。
「私、この町の花火大会初めてなんです!」
「…あぁ、そう言えば菜子ちゃんはこの町に来てまだ一年も経っていないんだものね」
「それまでは各地転々としてましたからね……!」
…鬼兵隊から逃げるために、この国の端から端まで行き渡ったのだから。
「この町の花火大会は大層綺麗なのよー?菜子ちゃんも見に行かないとね〜」
「あぁ、それなら心配いりやせん。俺が責任持って連れて行きまさァ」
(……あれ、今の私じゃないよ……?)
「っ、総悟!」
いきなり女中さんとの会話に総悟が入ってきたので菜子は戸惑いを隠せない。
「あらあら〜菜子ちゃんてば沖田隊長とデート?さすがね〜……」
「ちょ、違っ……」
「当然でさァ、菜子は俺のなんでねィ」
菜子が否定の言葉を述べようと思ったが、総悟によってそれは出来なくなってしまう。
「……もー、結局誤解されちゃったよ…!」
「別にいいでさァ〜俺は」
「そんなこと言って……!」
結局あの後、女中さんにからかわれ、あの場にいられなくなった菜子は総悟を引っ張り出し、強引に屯所から出て来るハメになったのだった。
「それに、俺からしたら恋人同士に見えた方が嬉しいでさァ」
「…っ!……もうっ」
総悟の言葉が何だか照れくさくて、頬を赤くしながらも膨れる素振りを見せる菜子。そんな彼女にさらに愛しさが増す総悟は彼女の手を取り、優しく握ったのだった。
花火大会の会場に来ると、そこにはもう結構の人が場所取りに来ていた。
「まだまだ始まらないのに、すごい人の数ね……」
「暇人ばっかの証拠でさァ」
「や、総悟!その言い方は止めよう、失礼だから!ね?」
「菜子がそこまで言うんなら仕方ねぇなァ」
(……や、だってさ、総悟の発言が耳に入った人たちが睨み付けて来てるのがわかるもん!うぅ、その視線がモロに当たって痛いよー……)
「あ、あそこでさァ」
総悟が指差す方向には確かにでかでかと【真撰組詰め所】と書かれたテントが設置されていた。
「こ、こんにちはー!」
「あっ、菜子さん!?」
「うわー菜子さんだぁ!!」
中にはもちろん、隊士の人たちがいて……菜子がここにいることに驚きの声を上げる者もいた。
「…あぁ?菜子じゃねぇか、どしたんだ?」
トシも視界に菜子の姿が入ったようで、珍しいものを見るような表情をしながら近寄ってきた。
「まずは女中の皆さんから差し入れを持って来ました!」
「「「「おおおっ!!」」」」
風呂敷に包まれている箱を取出し、皆で作った差し入れを見せる。そこには数々の美味しそうなおかずやらが並ばれていて、隊士たちも嬉しそうな声を出す。
「わざわざ悪かったな、女中の皆さんにもお礼言っといてくれ」
「うんっ!……で、他にここに来た理由は………」
「俺が連れて来たんでさァ」
菜子が話し終わる前に、総悟がサラッと言い切ってしまう。
「はぁ!?…総悟、テメー一体何考えて……」
「好きな女を自分の傍に置いておきてェって言うのは男の性でさァ…それに、菜子は今巷じゃ真選組のマスコットキャラ的人気を持ってやす。花火見に来た奴らも俺達なんかより菜子の方が話掛けやすいでさァ」
「おおっさすが総悟だな!俺感動したよ!」
総悟の案に思わず頷き見せる近藤。
「ま、そんなんは俺が今適当に言っただけなんですけどねィ」
「総悟ーっテメー!!」
…が、近藤の感動もすぐに消え、代わりにトシの怒鳴り声が響いたのであった。まぁ、こんなグダグダな隊は真選組ぐらいしかないだろう。
しかし総悟が言っていたのは的確のものとなり、江戸の町の住民達は菜子に物事を尋ねに来たり、この間の火事のことを褒めに来たりしてきた。それを丁寧に受け答えし、にこやかに笑う菜子の姿は真撰組のイメージアップへとなっていく。
そんなこんなで、辺りは日が落ち、暗くなっていく。天気もよく、夜空は雲一つない星空が広がっている。花火を打ち上げるのには最高の条件だろう。
「ふふ、なんだかドキドキしてきちゃった……」
「菜子は本当に祭りとか好きなんですねィ。」
「……ある人の影響が大きいみたいっ!」
ほんと、私は彼の影響を受けすぎた。彼の影響を受けすぎていて、大切な何かをいつも見失っていた気がする。…そのときだった。パァン、パァン……と色鮮やかな花火が夜空に咲き誇った。
「わぁ……綺麗……!すごく、綺麗ね総悟…っ!」
「俺的には菜子の方が数倍綺麗でさァ」
「なっ……!」
総悟の思いがけない発言に、顔を赤く染め上げていく菜子。
「総悟、テメー…仕事中に口説いてんじゃねぇ!!」
その会話が聞こえたのか、トシが乱入して来た。
「邪魔すんじゃねェよ、土方コノヤロー」
「テメー、それが上司に対する態度かァァ!?」
「おや、俺ァ土方さんのこと上司だなんて見たこと一度もねェんですけどねィ」
「今すぐ切腹しやがれェェ!!」
「それは土方さんの方でさァ。俺が介錯してやるんで腹切って死ね土方」
「死ね沖田」
「死ね沖田、あ間違えた、土方」
「…ふふっ、もう二人ってば!!」
そして、いつもと変わらない総悟とトシの様子に笑わずにはいられなかった菜子。クスクス…と笑いながら、二人の様子を眺めている。
「あれ〜!?銀さんの大切な菜子じゃねぇか!?こんなチンピラ警察24時と何してんだよォォ!!」
「あ、銀ちゃん……!」
ふと気が付くと、銀ちゃん達万事屋のみんなも花火も見に来ていたみたいで…何故か真選組の詰め所で一緒に花火を見ていた。
「テメー万事屋ァァ!!おま、何してんだ!こんなところで!!」
「あ、大串君」
「誰が大串だァァ!!」
「あー煩い。そんな大声出してるから瞳孔開きっぱなしになんだろーが、トシ」
「テメーにトシだなんて呼ばれたくないんですけどォォォ!!つか瞳孔開いてんの関係ねぇから!!」
「まぁまぁトシもその辺にしてさ、せっかくだし、みんなで見ようよ?ね?」
「チッ、菜子がそういうんなら仕方ねぇな……」
菜子に上手いこと宥められ、トシは諦めたように煙草に火をつける。
「つか菜子、こんな奴等とつるむのはもう止めるアル。悪影響するネ」
「それはテメーだろ、チャイナ」
「お前みたいなサド野郎に言われたくないネ!!」
「そこも喧嘩しないっ!ね?」
……けどね、こんな何気ない日々がすごく充実していて楽しかったんだ。みんなで笑って、喧嘩して…ただ、楽しかったんだ。私の中でこんな日々が何気ない日常へと変わっていた。ずっと、続くんだろうなって思ってた。意識はしていなかったけれどそう願っていた。
こんな、何もない平和な日々が続くようにと。けどそんなの、続くはずがなかった。真っ赤な血が、鉄の匂いが、私を包んだ。私は、あの人の元へと。
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