不穏な動き、妖刀紅桜
今の江戸の町では、辻斬りが出回っている。狙われるのは浪人ばかり。死体は川から浮かび上がってきたり、血痕が残っていたり…実に、気味の悪い話だ。
そして昨夜も、また誰かが殺されたみたいだ。そんなこともあった次の日、万事屋銀ちゃんには珍しい人物が訪れて来ていた。






「……お茶です、」


「…………」

「………あのー、今日はどんな用件で?」


「……………」


「この子って…ヅラといつも一緒にいるエリザベス、だよね?」





……そう、エリザベスが来ていたのだった。万屋に来てから何も話さない、何もしない彼に万事屋のメンバーと菜子はただただ困るばかり。ちなみに菜子は仕事が終わったために万事屋に足を運んでいた。





「…何なんだよ、何しに来たんだよ。怒ってんの?なんか俺悪いことしたっけ?ねぇ」


「…ていうか、怒ってるのか笑ってるのかよくわからないんだけど…」


「や、笑ってたら笑ってたらで怖いってば!」






エリザベスに聞こえないように配慮して小声で話する銀時たち。彼が何を考え、ここへ来たのか……そもそもエリザベスが一体何者なのかそれすらわかっていない。





「新八〜お前のお茶が気に食わなかったネ。お客様はお茶派じゃなくてコーヒー派だったアル。全くだからお前は新一じゃなくて新八アル〜何あるか?八って」


「んなもん見分けつくかァァ!」


「俺はピンと来たぞ!見てみろ!お客様、口がコーヒー豆みたいだろーが!」


「ちょ、銀ちゃん!た、確かに似てるけどそれ絶対関係ないって!」





神楽と銀時にわけがわからず責められる新八を少しながら庇う菜子。…や、だって仕方ないよ。相手は何者なのかよくわからない人種なんだから。





「っコーヒーです!」


「…………」





試しにと、新八は渋々コーヒーを出してみた……が、やはり変化は見られなかった。





「おいなんだよ!全然変わんねぇじゃねぇか!!」





バシッ、と神楽の頭を思い切り叩きながら小言を言い出す銀時。神楽ちゃんは叩かれた頭をスリスリと撫でている。






「痛いね銀チャン!!」


「つか、銀さんだって口がコーヒー豆みたいとか言ってたじゃないですか!!」


「言ってません〜どら焼きを横から見た図と言いましたぁ〜」


「また銀ちゃんはそんな子供みたいなことを言って……!」




ギャーギャーと皆がモメ合い始める中、万屋の電話がジリリ……とベルの音を発した。
銀時はその場から逃げるかのように電話を取りに行く。…と、その間に神楽ちゃんと新八君は銀ちゃんの苺牛乳を勝手に出そうと計画を立て始める。





「おーう、俺ちょっくら出掛けてくるわ〜」


「ちょ、銀さん!逃げる気ですか!?」


「銀チャンだけずるいネ!」


「安心しろ神楽、菜子もちゃんと連れていくから」


「えぇ!?私も出かけるの!?って、ちょ待ってよ銀ちゃん!!」


「更に良くないアル!!」




しかし、銀時はそれ以降の二人の会話を一切に耳に入れず…菜子の手を取り、スタスタと逃げるかのように万屋から出たのだった。





「…もう、銀ちゃんよかったの?エリザベスのことを新八君と神楽ちゃんに任せちゃって……」


「いーのいーの、だって自分ちなのになんであんな息苦しい思いしなきゃなんねーんだよ。あの目見てたらなんかどっか吸い込まれそうだし」


「も〜銀ちゃんってば…!」




そう言いながらも、銀時の行動にホッとしている菜子。なぜならば菜子も銀時と同じようなことを考えていたからで。




「……で、今どこに向かってるの?仕事の依頼の電話みたいだったけど……」


「ん?あぁ…なんだっけ?」


「しっかりしてよ、ねぇ!!」


「あー……思い出した思い出した…確か町の刀鍛冶屋に呼ばれた気がするようなしないような……」


「あやふや!?」




しかし、今は銀時の言葉を信じるしかない。少し不安げになりながらも銀時の後を付いていく菜子。…と、どうやら銀時の記憶は確かなものだったみたいで。二人は刀鍛冶屋へと辿りついた。さすが刀鍛冶屋と言うだけあって、懸命に鉄を打つ職人さん、打たれ鳴り響く鉄の音がよく目立つ。……いや、もうそれは耳が痛くなるほどに。






「あの〜すいませ〜ん、万事屋ですけどぉ〜」




銀時が依頼主に声を掛けてみるが、鉄の音などに見事掻き消されてしまう。





「あの〜万事屋なんですけどォォ!!」


「あー!?なんだってぇぇ!?」


「万事屋ですけどォォ!!電話いただいて参りましたァァ!!」


「新聞ならいらねぇって言ってんだろうがァァ!!」


「え、一文字も合っていないんだけど……!!」





会話があまりにも成立しなさすぎて、頭が痛くなってきた菜子。銀時も銀時でだんだんとイラついて来たようだ。




「くそ…バーカバーカ!!どうせ聞こえねぇだろ…」


「ちょ、銀ちゃん!それはいくらなんでも………」




…と、菜子が銀時を止めに入ったその瞬間だった。ドゴッ…と鈍い音を立てながら、刀を打つハンマーが見事銀時の顔にストライクした。





「うぐっ……!」


「きゃー!銀ちゃんー!?」





そのまま倒れ、鼻から鼻時を垂らす銀時に菜子は半泣き状態で寄りついたのだった。





「や〜大変すまぬことをした!!仕事をしているとはゆえ手が滑ってしまった!申しわけない!!」


「いえいえ……ぜってぇ聞こえてただろテメー……」


「ぎ、銀ちゃんここは抑えて……!」





銀時も無事手当てをしてもらい、ようやく話を進めることが出来る。刀鍛冶屋の兄妹二人が並んで、こちらに向き合って座っている。…銀時は以前と変わらず不機嫌そうなのだが。





「申し遅れた!私達は兄妹で鍛冶屋を営んでおります!私は兄の鉄也!そしてこっちが……」


「……………」




兄、鉄也さんはそれはそれは凄い元気な(煩い)方で、声も普段から大きいようだ。…が、妹さんの方は打って変わって…静かで無口な人みたいで一言も言葉を発さず、プイッと顔を背けてしまった。





「こら鉄子!挨拶ぐらいしたらどうなんだ鉄子!坂田さんもお前のことをなんて言ったら困るだろ!鉄子!!」


「…や、お兄さんもう言っちゃてるから、デケー声で言っちゃってるから……」


「すみません坂田さん!こいつシャイなあんちきしょうなもんで!」


「や、いいえお気になさらず……!」


「それにしても廃刀令のご時世で刀鍛冶だなんて色々と大変そうですねぇ?」




菜子と銀時はなんとか彼、鉄也について行こうとするのだが………





「でね!今回貴方達に依頼したいというのはですねぇぇ!」


「菜子チャ〜ン?今の無視だよね?俺話題振ったのに完璧無視されたよね?」


「ぎ、銀ちゃん正気を保って…!!多分聞こえなかったんだよ、うん……」




(……多分って言うか、そうであってほしい)



「実は私達の父が作り上げた最高傑作【紅桜】が何者かに盗まれましてね!!」


「ほう…!【紅桜】とは一体なんですか!?」


「それを貴公等に探し出して頂きたい!!」


「あれぇぇ!まだ聞こえないのォォ!?」





男二人の会話は全く噛み合うどころか擦れもしない。菜子と妹の鉄子さんは思わず顔を見合わせて苦笑してしまった。





【紅桜】

その鋭き刃は岩をも斬り裂き、月明かりに照らすと淡い紅色に帯びる……その刀身は夜桜の如く妖しく美しい。鉄也の父が作り上げた最高傑作の業物……と言うわけらしいのだ。





「それは凄いッスね!で、盗んだ犯人に心辺りは…」


「しかし紅桜は人が容易に触れていいものではなく!!」


「お兄さん、人の話を聞こう!!どこ見てる?俺のこと見てる!?……もうやだ、銀さん疲れたって菜子チャ〜ン……」


「あ、ははは………」




…銀時じゃなくても彼との会話は確かに相当疲れるであろう。体力的にも精神的にも。





「あれは……【紅桜】は人の魂を吸う妖刀なんだ!!」





何でも話によると、先代が亡くなった後、紅桜に関わる人物は皆亡くなっていったのだと言う。菜子はまさかね……と銀時に笑い飛ばそうとしたのだ、が。





「そ、それって俺にも何か不吉なこと起こるかもしれないじゃないですかァァ!」






真剣に、本気に。ブルブルと体を震わせ、ビビッていた……そうだった、銀ちゃんはこの手の話が昔から大の苦手だったっけ……なんて懐かし頃の思い出が菜子の脳裏に流れた。





「どうかよろしくお願いします!!」


「聞けやァァァァ!!つかコイツ、俺とと会ってから一度も俺の話聞いてねぇよォォ!!」





銀時はもう堪忍袋の緒が切れる寸前まで来ていた。





「…はぁ、鉄子さん。騒がしくてごめんなさい!」


「………や、兄者も悪いんで気にしないで……」





騒がしい男どもとは打って変わって、女の子達は大人しく静かだ。互いに連れのことを謝罪している。





「……兄者と話をするときはもっと耳元に寄って、腹から声出さんと……」


「え、そうなの!?…じゃっ……お兄さァァァァん!!あのォォォ!!」





鉄子のアドバイス通りに銀時は鉄也の耳元で腹から声を出して話掛けた。…が、






「うるさぁぁぁぁいっ!!」

「うがっ!?」



バチーンッ…と乾いた音が辺りに響き……鉄也のストレートが諸に銀時の頬へと入った。






「きゃーっ!銀ちゃぁぁん!!」





今度は両方の穴から鼻血を流血させ、気を失う銀時を必死で呼び起こそうと泣きつく菜子なのでした。





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