銀時、危機
あの後……菜子、新八、エリザベスの三人は噂の辻斬りが桂の行方を知っていると考え、直接辻斬りの犯人に聞こうという突発的な行動に出たのであった。夜…町が静まった。三人は物影に隠れながら辻斬りが現れるのを待っていた………が、
「ちわーっす、エリザベス先輩!!焼きそばパン買って来たッス!!」
「し、新八君……!」
ペコペコと、エリザベスに頭を下げる新八に菜子は思わず苦笑いを浮かべる。一体二人の間に何があったと言うのだろうか。
「俺が頼んだのはコロッケパンだ」
「いや、コロッケパン売り切れみたいだったんで似てそうなやつ買って来ましたァ、すいません〜!」
「え、…えぇ!?新八君、一体どうしちゃったの……?」
「…菜子さん、あまり気にしないで下さい……なんでもないんで……」
(や、君そうは言ってもさ……瞳に涙浮かんでるし、なんか辛そうだし。気にするなと言う方が無茶な話だってば)
「そ、それより……辻斬りの様子はどうっすか!?でもやっぱり無茶じゃないんですかねェ?辻斬り本人に桂さんのことを聞くだなんて……そもそもまだ犯人が辻斬りだと決まったわけでも………」
っと、新八が話を始めた瞬間だった。
「"……!"」
「ぎゃぁぁぁ!!」
なんと、ブォォォ…とエリザベスが新八に向かって思い切り剣を振るったではないか。
「え、エリザベスー!?何もそんなに焼きそばパン嫌がらなくてもいいんじゃ……」
「あ、謝ったじゃないですかぁ!!」
半泣き状態の新八を憐れに思った菜子は、彼の味方をするがどうやらパンのことではないみたいだ。
「"俺の背後に立つな"」
「うるせぇよ!!どっちか前かわからん体してるくせにィィ!!」
エリザベスの言葉に、新八は大声を上げた。……それにしても、ヅラは本当にどうしてしまったのだろうか。
菜子は彼が無事なのかどうか…ただそれだけが気がかりだった。簡単にやられるような人じゃないけれど、リサイクルショップで聞いた話によると辻斬りの刀は妙なものみたいだし…菜子の中で不安は募るばかりだ。
「オイ」
ふと、三人は誰かに声を掛けられた。例の辻斬りかと思った三人に、緊張が走ったが、
「奉行所の者だ、お前等、こんなところで何をしている?怪しい奴等め……!」
「ぶ、奉行所の人ですか……はぁー脅かさないでくださいよー……」
「ご、ごめんなさい…お騒がせしてしまって………」
町の見回りをしている奉行所の人だった。彼にちらちらと怪しいモノを見るような視線で見られるものの、なんとか何事も起きずに済みそうだとホッと一息。
「お前等わかってんの?最近ここらにはなァ………」
奉行所の人が話を続けようとした……が、様子はすぐに一変した。
(誰か違う人の気配…!…間違いない、この気配は……人斬りの気配……!)
菜子は自分達以外の者の気配に素早く気が付いたが、時既に遅し。
ブシャァァァ………と今目の前にいた奉行所の男は真っ赤な血を吹き出し、その場に倒れた。
『辻斬りが出るから危ないよ』
笠を深く被り、奉行所の男を斬り倒した……辻斬り本人が姿を現した。男はククク…と楽しそうに笑みを浮かべている。
「う、うわぁぁぁぁぁ!!」
新八は恐怖のあまり座りこみ、思い切り叫んだ。身体中に悪寒が走る。そんな彼は辻斬りのいい的状態。男が新八を斬ろうとしたが…
「新八君っ!!」
見ていられなくなった菜子は新八の前に出、彼を庇おうと敵に背を向ける。
「菜子さんっ!!!」
絶体絶命のピンチ…菜子は歯を食いしばり、今から降りかかる痛みに耐えようと強く瞼を閉じた。…しかし、それは回避された。どこからか、木刀が飛び出し、敵の刀を飛ばした。
「…オイオイ、妖刀探してこんなところまで来てみりゃ……どっかで見た事ある面じゃねェか!」
「ぎ、銀さん!!」
「銀ちゃんっ!?」
敵の刀を飛ばしたのは銀時の木刀だった。銀時は近くにあったゴミ箱の中で身を隠していたようだった。
「……って、菜子っ!?なんでお前こんなとこにいんの!?お母さん大人しく家で留守番していなさいって言いつけといたでしょ!いつからそんな不良になっちゃったの!?……お母さん、悲しい……」
「誰がお母さんよっ!!」
「今そんなこと言ってる場合じゃねぇだろうがァァァ!!」
銀時の発言に乗りこんでツッコミをする菜子と新八。…否、今ツッコんでおかないと話がおかしいことになるのは確かだ。
『ククク……嗅いだことのある匂いだねェ……』
辻斬りはゆっくりと笠を外した。辻斬りの犯人…それは…見知った顔だった。
「あ、アンタは……人斬り似蔵ォォ!?」
「似蔵…っ貴方……!」
「例の辻斬りはアンタの仕業だったのか!?…、それに銀さんも何故こんなところに……」
「目的は違えどアイツに用があるのは一緒みたいよ新八君〜」
新八の問いに銀時はいつもと変わらないくだけた口調で答える。…が、今はそんないい雰囲気などない。張り詰めた緊張感が漂う正反対の雰囲気だ。
「嬉しいねェ、わざわざ俺に会いに来てくれたってわけだ。……それに、あの人にも手土産が出来たしねェ……」
目の見えない似蔵だが、まるで見えているかのように菜子の方へと顔を向ける。
「……私は帰らないわよ…似蔵!」
「フ……それはどうだか。……それにしても、この刀は災いを呼ぶ妖刀だときいていたがね……どうやら強者を引き寄せるらしい……」
銀時に吹き飛ばされた刀を拾い、手に取る似蔵。刀は妖しく光を帯びている。
「桂にアンタたち二人。こうも会いたい奴に会わせてくれるとは俺にとっては吉兆を呼ぶ刀かもしれん」
似蔵の言葉に菜子、新八、エリザベスが瞳を大きく開けた。
「!!桂さん!?桂さんはどうした!?お前!」
「ヅラをどうしたの!?一体何を……!」
「…すまんことをしたねェ」
菜子たちの慌てぶりに似蔵はまた笑みを浮かべた。
「俺もおニューの刀を手に入れてはしゃいでたものでね、ついつい斬っちまった」
似蔵の言葉に、銀時は動じなかった。
「ヅラがテメーみてーなただの人殺しに負けるわけねーだろ」
「怒るなよ、悪かったと言っている。あ……そうだ」
ゴソゴソと似蔵が懐からあさって、あるものを取り出した。
「ホラ、せめて奴の形見だけでも返すよ」
「っ、!」
似蔵の手には……桂のトレードマークとも言える長く、綺麗な黒髪の束。それを目にして、新八とエリザベスは言葉を無くした。
「記念にとむしり取ってきたんだがアンタ等が持ってた方が奴も喜ぶだろう。…しかし、桂ってのは本当に男かィ?この滑らかな髪…まるで女のような………」
「何度も同じこと言わせんじゃねーよ。ヅラはテメーみてーな雑魚にやられるような奴じゃねーんだよ!」
人をからかうような態度ばかり取る似蔵に、銀時は木刀を振り上げた。銀時の目からは怒りの感情が読み取れる。似蔵はと言うと、銀時の木刀を上手いこと自分の刀で抑えた。
「っ、銀ちゃん!」
…なんでだろ、普通なら銀ちゃんが余裕で勝つって自信持って言えるのに…今の似蔵のあの不気味な笑みを見てると、嫌な予感がしてきた。とても、嫌な予感が…してやまない。
「クク…確かに、"俺"ならば敵うまいよ。しかし、奴を斬ったのは俺じゃない」
似蔵の刀からは気味の悪い物体がメキメキと伸びて来ている。刀に巻き付くように……まるで生きているかのように。
「俺はちょいと身体を貸しただけでね…なァ…【紅桜】よ」
「なっ!!」
予想外のことで銀時は戸惑わずにはいられなかった。
「っ、何…アレ……!」
アレは……似蔵が持ってるあの刀は間違いなく"刀"ではない。刀みたいに神聖なるものではない。
「銀ちゃんっ!!」
嫌な予感が的中してしまった。似蔵のあの笑みの理由はこれだったんだ。
「でふっ!!」
橋から真下の川に突き落とされる銀時。橋は真ん中に大きな穴を開けて半壊している。
銀時は川の水に濡れ、ずぶ濡れである。
「おかしいね……アンタ、もっと強くなかったかい?」
「……おかしいねオイ、アンタそれ……ホントに刀ですか?」
「ハッ……まだ余裕そうだねェ……そろそろ止めを……」
「止めなさい、似蔵!銀ちゃんに何する気!?」
橋の上から銀時の様子を見下すかように眺めている似蔵に、菜子は声を上げた。
「クク……なら、アンタが俺の相手をするって言うのかィ……?」
「なに、馬鹿なことを……!」
「…冗談さ、アンタに手出したことをあの人に知られりゃ俺の命はなくなるからね……」
「…っ!、まさか似蔵……これは彼の命令で……!?」
菜子の顔色が一気に真っ青になる。血の気が引く。……もし、そうならば……彼はかつての仲間、馴染みになんて酷いことをしてしまっているのだろうか。
「ったく、刀と言うより生き物みたいだったって冗談じゃねーよ。ありゃ生き物ってより……化け物じゃねーか!」
似蔵が橋から飛び降り、銀時に襲い掛かった。
水しぶきが酷く跳ねる中、二人は刀を交えていた。ふと、似蔵の隙を見た銀時が似蔵に足を掛け、転ばせた。似蔵の上に銀時が乗っている状態である。
「喧嘩は剣だけでやるもんじゃねーんだよ!!」
木刀でまた振り上げ、殴ろうとした銀時…だったが、あの化け物刀に木刀を掴まれてしまう。
「"喧嘩"じゃない…"殺し合い"だろうよ……!」
似蔵がそう告げた瞬間、銀時は木刀を壊され、その衝動に橋の柱へと吹き飛ばされた。
「ぐふぅっ!!……くっ、」
「銀ちゃああんっ!!」
「銀さんんん!!」
見ていられなかった。銀ちゃんが傷ついてボロボロになっていくところを。銀時の胸元からは先程の似蔵の攻撃により勢い良く真っ赤な血が溢れ出た。
「オイオイ、これやべ……」
そう、呟く暇もなく……銀時は体奥深くに剣を突き刺された。
「ぐっ……!」
銀時の口からは、真っ赤な血が吐き出された。
(やだ、うそ…!嘘だ、…嘘よ……!!銀ちゃんが……銀ちゃんがっ!!)
「後悔しているか?以前やり合ったときに何故殺しておかなかったと。俺を殺しておけばこんな目には遭わなかった……全てはアンタの甘さが招いた結果だ、白夜叉…」
誇らしげに笑いながら話す似蔵の姿は、目障りだった。
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