温かい、涙を拭う手
銀時の閉ざされていた瞼が開かれた。彼の視界に広がったのは見覚えのある天井と、





「あ、気が付きました?よかった〜」





見知りである、お妙の姿だった。






「全然動かないからこのまま死んじゃうのかしらって思ったのよ。大丈夫ですか?意識しっかりしてます?私のことわかります?」


「…まな板みたいな胸した女、でしょ?」





バキィィっと激しい物音が立つ。一瞬で銀時の顔に傷が生まれ、ボコボコにされてしまった。





「……お前、なんでココにいんの?」




「新ちゃんと菜子ちゃんに頼まれたんです。看病してあげてって」


「……なんで看病する人が薙刀持ってんの?」


「新ちゃんと菜子ちゃんに頼まれたんです〜絶対に安静にさせて、出かけようとしたら止めてくれって」






片手に薙刀を常備しているお妙に、銀時は眉を寄せた。






「止めるって何?息の根?」





「てゆーか、そういや新八や神楽、それに菜子はどうしたんだ?」






銀時から出た問いに、少し困った表情を浮かべたお妙だったが…どうやら銀時には見られなかったようだ。





「あの…三人共用事でちょっと出てます」


「…用事って何よ?」


「いいからいいから〜!怪我人は寝てて下さいね〜大人しくジャンプ読みましょうね〜」




話をワザとらしく逸らし、ジャンプを取り出すお妙に不審を感じる銀時。傷まみれで痛む体を無理に起こした。





「おい、お前なんか隠して………」






…と、次の瞬間……銀時の鼻ギリギリ辺りに薙刀が振り落とされた。






「動くなつってんだろ。傷口開いたらどーすんだコノヤロー」






お妙から伝わってくる、どす黒い殺気と黒い声に……銀時はぴくぴくと眉を動かし、彼女の言う通り大人しく横になるしか道はなかったのだった。

一方その頃、新八はと言うと……刀鍛冶屋で、今回の一件に関わっていた鉄也達の元へと訪れていた。





「何ィィ!?では紅桜はその辻斬りの手にィィ!?」


「…すみません、何とか取り替えそうとはしたんですが……」


「それで取り戻すことは出来たんですかァァァ!?」


「や、だから出来なかったって言ってるじゃないですか」





話が上手いよう伝わらない鉄也に思わずツッコむ新八。ふと、珍しい事に鉄子が口を開いた。





「……で、無事なのか?」


「え…?」


「あの人達……」


「…あー銀さんと菜子さんのこと?銀さんはまァ死んではいませんけど結構ヤバイ感じで……菜子さんも今朝方早くに万屋を飛び出してどこか行っちゃったんですよね……」






新八の告げた言葉に落胆する鉄子。





「…兄者、気分が悪い。外すぞ」


「オイどうした鉄子ォォォ!?気分でも悪いのかァァァ!?」


「や、だから悪いって言ってんじゃん……」




鉄子は二人に背を向けると、一人作業場へと向かって行ったのだった。
菜子はと言うと、身動きが取れなかった。彼に…晋助に見つめられて、視線が逸らせなかった。





「……来い」





そう言って、晋助に腕を引っ張られて…本気で振り払うことの出来ない私。船内の奥へと連れていかれる私。





「っ、離して!」





口では反論してみるものの、本音は違う、離してほしくなくて。一緒にいたくて、バラバラになりたくなくて……ずっと、晋助の傍にいたくて。





「……っ私、晋助の傍にいるわけにはいかないのっ!」






けど私のそんな我儘のせいで、晋助が傷つくところは見たくない。私の分も、全て苦しみを受け止めようとする姿は見たくないの。





「もう、晋助のお荷物になるのは……!」





その言葉の続きを言う前に、晋助の部屋へと押し込まれ…部屋に広がる畳の上へと投げられた。






「い、った……」


「…誰が、んなこと言った?」


「え……?」





鈍い痛みが菜子の身体中に走ったが、それどころではなかった。晋助が冷たく放った一言に、意識は傾いた。






「誰がんなふざけたこと言ったんだって聞いてんだよ…!」




(……間違いない。晋助は…完璧に頭に血が上ってしまっている。怒っている…!)




「んなふざけたことを言った奴の名前を言え。俺がそいつの命の燈を吹き消してやらァ……」




ククク…と笑いながら告げる晋助。だけど、彼は本気だ。冗談や嘘なんかではない。





「っちが…!私が、自分でそう思って……!!」


「…何?」





菜子の言葉にピクリ、と晋助の眉が動いた。






「オメーは…んな下らねェことばかり考えていたって言うのか?」


「っ、下らなくなんか…!」


「…菜子、俺ァオメーのことを一度足りとも"お荷物"だなんて考えたことはあるめェよ」





俺ァ、自分に必要のねェもんは傍に置いときはしねェ。どうでもいいもんを、わざわざ追い掛けたりはしねェ。…んなこたァ、オメーが一番わかってんだろーよ、菜子。





「…俺から逃れられると思うな、離れられると思うんじゃねェ。俺は二度とテメーを手放さねェ。…ククク、残念だったなァ?オメーは一生、俺のもんなんだよ」





倒れ込む菜子の上に跨がり、深い口付けをしてくる晋助。…菜子はそれを拒まず、素直に受け止めた。…気付いたからだ、彼の心の奥にある彼の本音に。
彼は、晋助は、傷ついた瞳をしていた。

きっと、他の人から見たら…今の晋助は怒っているだけにしか見えないだろう。……けど、長い間一緒に過ごしてきた私にはわかる、わかったよ。…私の勝手な判断、行動で晋助は少なからず傷ついたんだ。






「…っごめ…」





ごめんね、晋助。私、貴方とずっと一緒にいるって言ってたのに……私はそれを破ってしまっていたね。私に、泣く資格なんてないこと…わかっているのに……涙が溢れて止まらないの。





「…テメーは、相変わらず泣き虫のままだなァ……」





そんな私を、鼻で笑いながら…優しく涙を拭ってくれる晋助。みんな、みんな知らないの。彼がどんな人物なのか知らないの。
世間からは怖いやら危険やら、そんな風にしか見られていないけれど…本当は違うの。私が泣いていたら、涙を拭ってくれるし……私が不安がっていたら、抱き締めてくれる。





(本当は、すごくすごく優しい人なの…)





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