彼を優しく抱き返せた

「あいつらのことなら平気だ」


「…えっ?」





いきなり発した晋助の一言に、菜子は首を傾げた。





「奴等は、んな簡単にくたばるような奴等じゃねェ…オメーもわかってんだろーよ」


「……晋助、」





…晋助は別に銀ちゃんやヅラを見捨てたわけじゃなかった。彼は彼なりに考えていたんだ。それを知った菜子はホッと安心し、胸を下ろした。





「…無事で、いてね」





そして、船内の窓から広がる曇り空を見上げながら……菜子は二人の無事を祈ったのだった。空は雲に覆われていて、もうすぐにでも雨が降りそうな空だった。
その読みは当たっていて、しばらくすると江戸の町に雨が降り続いた。そんな中、地面に刀を刺し、刀には桂の所持品が掛けられている。その前には白い物体が…いた。





「エリザベスさん……」




その白い物体の正体の名前を新八が呼んだ。




「"何も言うな"」


「…………」





新八の呼び掛けにそれだけ答え、振り向きもしないエリザベス。ただただジッと、目の前の刀を眺めるだけ。そんな彼に、再び新八は話し掛ける。





「…神楽ちゃんが帰ってこないんだ。今朝、定晴だけが万事屋に帰ってて…こんな紙切れを……雨に濡れて所々見えないけど地図みたいなんだ。…菜子さんも今朝方飛び出しちゃったし……」





不安げな表情を浮かべながらも新八は話を続ける。





「…銀さんには言ってない。そんなこと知ったらあの人、あんな怪我しているのに飛び出して行くに決まってる。」





…ましてや、菜子さんのこととなるとあの人…前見えてないみたいに突っ込んで行くだろう。坂田銀時と言う野郎はそういう奴だ。

場面は変わって、万事屋。





「オイ、どこ行くんだ?」





どす黒いお妙の声が響き、銀時の銀髪を掴む。





「いや、ちょっとオシッコに……」


「コレにしろ、ここで」





お妙は笑顔は銀時の言葉に500mlのペットボトルを差し出す。それに本気で気が引く銀時の顔色は真っ青になっていく。そんなときだった。ピンポーンと万事屋の呼び鈴が鳴り響いた。






「はーい」





玄関の扉を開き、表に出るお妙。そこに立っていたのは……




「……ども、」




傘を差しながら頭を下げる鉄子だった。





「何のご用で?」


「……あの、あれ……」


「銀さんなら今は……」


「ここにいるぜー」





お妙の言葉を遮り、銀時が口を開いた。





「おー入れや、来ると思ってたぜ」


「…………」





銀時にまた軽く頭を下げると、鉄子は万事屋の中へと入っていった。…少し、緊張で体を震わせながら。





「…で?話があって来たんだろ?」





銀時の言葉に鉄子は頷いた。





「…紅桜についてなんだ……」





銀時の体をここまでボロボロにした刀と呼べる品物ではない、化け物刀。





「…あの【紅桜】は、私の父が打った【紅桜】を雛形に作られた対戦艦用機械機動兵器。」




紅桜の正体を、鉄子はゆっくりと明かしていく。




「"電魄"と呼ばれる人工知能を有し、使用者に寄生する事でその身体をも操る。戦闘の経緯をデータ化し、学習を積むことで能力を向上させていく……正に生きた刀」





…そこいらにあるただの刀とはワケが違う。





「…あんなもんを作れるのは江戸には……一人しかいないっ……」






「頼む……兄者を止めてくれ…!」





頭を深々と下げる鉄子。彼女の瞳は涙で潤んでいた。





「連中は…、高杉は……紅桜を使って江戸を火の海にするつもりなんだ……!」





鉄子の兄、鉄也の打った刀で……江戸の町を滅ぼす。それが高杉の狙いだった。

船内の工場に、奇妙な色を灯したたくさんの剣が水中に収められていた。その剣に、菜子は嫌でも見覚えがあった。





「…これっ……似蔵が持っていた……!」


「あぁ、同じ紅桜だ…まだこいつらは研究段階だがなァ」





菜子の言葉を肯定する晋助は言葉を続ける。





「クク……威力はテメーもその目で見ただろ?」




…確かに、この目で見た。恐ろしい破壊力。大切な、かつての仲間…銀時がボロボロになってゆく様を。




「俺ァこいつらでこの腐った世界をブッ壊す。……菜子、テメーはその目でその様子を俺の隣で焼き付けろ」


「!っしん……」


「もう二度と…オメーは、オメーだけは手放さねェ……」




ギュッ…と晋助に背後から強く、求められるかのように抱き寄せられた。







「………晋助、」


(…この人を、一人にしてはいけない…)



菜子は、晋助を優しく抱き返すことしかできなかった。
また、船内の違うところではまた子、武市、似蔵の三人が集まっていた。





「こっぴどくやられたものですね…紅桜を勝手に持ち出し、さらにそれほどの深手を負わされ逃げ帰ってくるとは……」





右腕を無くした似蔵に、武市の言葉が責め掛ける。





「腹を切る覚悟は出来てますよね?岡田さん」


「フ…片手を落とされても、【紅桜】を持ち帰ってきた勤勉さに評価してもらいたいもんだよ。」




カチ…と音を立てながら紅桜を見せ付ける似蔵。その笑みからは先程の武市の言葉を気にしていないようだ。





「こいつにもいい経験になったと思うんだがねェ…」


「アンタの最近の身勝手ぶりは目に余るものがあるッス。幕府の犬に【紅桜】の存在が知られたらどうするつもりですか!」




また子が我慢出来なくなり口を開いた。




「…せっかく菜子様が戻って来たって言うのに……アンタ、晋助様の邪魔なんスよ。晋助様を刺激するような奴ばかり狙って、一体何考えてんスか?強くなったとでも思ってんスか。勘違いすんじゃないよ、アンタが桂に勝てたのは【紅桜】の……」




…と、また子が話を続けようとしたそのときだった。





「っぐ!?」




紅桜がまた子の首目がけて伸び、絞め付けた。




「…おっと、悪く思わないでくれ…俺じゃないよ。【紅桜】の仕業さね」


「うぐっ…は、!」


「最近はすっかり侵食が進んでるようでね…もう俺の身体を自分のものと思ってるらしい。俺への言動は気を付けた方がいい…クク」




ギシギシ、としばらくまた子の首を絞めた後…彼女を解放した。また子は咳付いてその場へと倒れ込んだ。





「岡田さん、貴方……!」


「どうにも邪魔でねェ……俺達ァあの人とこの腐った国で一暴れしてやろうと集まった輩だ。言わば伝説になろうとしてるわけじゃないかィ」





先程まで余裕そうな表情を浮かべていた似蔵の表情が段々と険しいものへとなっていく。




「それをいつまでも後ろでキラキラとねェ……目障りなんだ、邪魔なんだよ奴等。そろそろ古い伝説には朽ちてもらってその上に新しい伝説を打ち建てるときじゃないかィ?」 





あの人の隣にいるのはもう、奴等じゃない。俺達なんだ。





「クク………」





似蔵の気味悪い笑い声が辺りに響いた。



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