貴方の隣で世界を見る
「この様子だと紅桜は順調のようだなァ」
「っ!」
晋助と少しの間抱き合っていると、背後から大声が飛び込んできた。その声量のでかさと、聞き覚えある声に菜子は思わず体をビクつかせた。
「ほォ…来るのが遅かったじゃねェか……」
「っ、あ…貴方は……鉄也さん……!」
あの刀鍛冶屋の鉄也だった。菜子は彼の姿を見た瞬間、目を丸くする。
「…貴方が、この紅桜を…?」
「いかにも。私が長年の月日を費やし、必死に鉄を打ち、研究を重ねて生まれたのがこの刀だ!」
自信満々に話す鉄也に、菜子の全身に寒気が駆け走った。恐る恐ると晋助の方に視界をやると、彼は意味深な笑みを浮かべていた。
「酔狂な話じゃねーか。大砲ブッ放してドンパチやる時代にこんなもんつくるたァ……」
「そいつで幕府を転覆するなどと大法螺吹く貴殿も充分酔狂と思うがな!!」
「法螺を実現して見せる法螺吹きが英傑と呼ばれるのさ。俺は出来ねー法螺は吹かねェ……なァ、菜子?」
菜子の肩へと腕を回され、その力に彼女は少しだけ表情を歪めた。
「晋、助……」
晋助の言葉に、ゆっくりと首を縦に振る菜子。…否、そうすることしか出来なかった。菜子の反応に晋助は満足げな笑みを浮かべながら話を続けた。
「しかし流石は稀代の刀工、村田仁鉄の一人息子…まさかこんな代物を作り出しちまうたァ…鳶が鷹を生むとは聞いたことがあるが鷹が龍を生んだか」
紅桜…まるで生きた刀。戦闘能力は抜群、また戦いを繰り返せば繰り返すほどその力を強める。そのような刀を作り上げた鉄也は相当な者である。晋助は感心したかのように誉め言葉を口にする。
「クク、侍も剣も、まだまだ滅んじゃいねーってことを見せてやろうじゃねェか…菜子、テメーはその様子を俺の隣で見てろ」
「…晋助の、隣で……?」
「あぁ」
鋭い晋助の眼光が、菜子を捉えた。その強い瞳に見つめられ、菜子は頬を赤く染めた。
「貴殿等は仲がいいようだなァ!」
「当たりめェだ」
晋助の言葉に鉄也を思わず笑うが、すぐにまた、真剣な眼差しへと戻った。
「貴殿等が何を企み、何を成そうとしているかなど興味はない!刀匠はただ、斬れる刀をつくるのみ!!…この紅桜に斬れぬものはない!」
「っ、鉄也さん……」
彼の眼差しは、未だ研究段階にあるたくさんの紅桜たち。端から見たら奇妙な、気味の悪い刀にしか見られないだろうが……その刀を懸命に打つ刀匠の姿を一目見てしまうと、刀匠達の持つ強い思いが伝わって来て、紅桜が綺麗なものに見えた。
「……紅桜……」
菜子もまた、晋助の腕の中で水中に浮かぶ紅桜へと目をやったのだった。
「高杉晋助………その人が桂さん失踪と岡田似蔵に関わる重要人物だと?」
新八は目の前にいる攘夷浪士たちにに問う。彼はエリザベスに連れられて、桂一派の攘夷浪士たちを訪れに来ていた。…今回の騒動の、情報を得るために。
「あぁ…俺達も桂さんを探す傍ら色々調べたんだがまさかね…俺達と同じ攘夷浪士の仕業だったとは……」
新八の問いを肯定し、浪士たちはさらに話を進める。
「高杉晋助といやぁ、かつて、桂さんと共に攘夷戦争を戦った盟友だ……そいつがなんで………」
「噂じゃ、高杉は人斬り似蔵の他に、赤い弾丸と恐れられる拳銃使い来島また子、変人謀略家の武市変平太。そして似蔵と同じく人斬りと恐れられる河上万斎等を中心に鬼兵隊を復活させたと聞いたが………」
「鬼兵隊…?」
浪士たちの話に首傾げる新八に、浪士たちは若い彼にもわかるように説明をしていく。
「かつて高杉が率いていた義勇軍さ。文字通り、鬼のように強かったって話だが……」
「連中は秘密裏に強力な兵器を開発しているとも聞く。強力な武装集団をつくり、クーデターを起こすのが恐らく奴の狙い……」
「そういやぁ…"鬼兵隊の鬼の牙"の話は聞かねェなァ……」
ふと、一人の浪士が口を開いた。
「…?なんなんですか、"鬼兵隊の鬼の牙"って……」
新八は直ぐ様問い掛けた。
「鬼兵隊一の剣客でよ、攘夷戦争のときには高杉の傍を片時も離れず、奴を守ったいわば守護神みたいな奴だ。」
その剣の腕にかなう敵などいなくて、"鬼兵隊の鬼の牙"と戦った奴らは皆斬り殺されたという。
「しかし、そいつがここ最近ふっと姿を消したんだよ。急にな」
「姿を、消す……」
ここ何年かの間に"鬼兵隊の鬼の牙"は姿を消した。それが何を示しているのかわからないが。
「##name2#菜子……アイツは一体どこに消えちまったんだろうねェ…」
その言葉に、新八は耳を疑った。
「……え、……今なん、て……!」
「え、だから花村菜子が姿を消し……」
「ま、待ってください!それって……それって……!」
(あの菜子さんが、"鬼兵隊の鬼の牙"ってこと……?)
新八はいきなり突き付けられた菜子の正体、真実にただ茫然となることしか出来なかった。そう簡単に、呑み込めなかった。
場所は変わって…万事屋。ここでも真実がわかり、気まずい雰囲気が流れていた。
「なるほどね、高杉が……」
まさかアイツが一つ、絡んでいたとは思わなかった。銀時はようやく状況を理解出来た。
「で?俺は差し詰め、兄ちゃんにダシにつかわれちまったってわけか。妖刀を探せってのも要は俺の血を吸わせるためだったんだろ。それとも俺に恨みをもつ似蔵に頼まれたのか…いや、両方か……」
銀時の脳裏に、今目の前にいる鉄子の兄、鉄也の姿と似蔵…そしてかつての同志である高杉の姿が浮かんでいた。
「兄ちゃんの目的を知った上で黙ってたんだろ?それで今更なんとかしてくれって?お前の面の皮は月刊少年ジャンプ?」
「…すまん」
鉄子はただ、銀時に謝罪の言葉を告げることしか出来なかった。そして後悔の波が彼女の中で攻め立てていた。
「アンタの言う通り全部知ってた…だが露見すれば兄者はただではすむまいと…今まで誰にも言えなかった」
「大層兄思いの妹だね。兄貴が、人殺しに加担してるってのに見て見ぬフリかい?」
「銀さん!!」
銀時の口から出る言葉は全て真実、偽りのないもの。……だが、酷なものでもある。
彼が言いすぎだと感じたお妙が隣で銀時の名を呼んで止めた。
「兄者は刀を作ることしか頭にないバカだ。大きな力を求めて機械まで研究し出し…妙な連中と付き合い出したのはその頃だ」
よくない連中だと勘付いてはいた。兄のことも心配もした。……けど止めなかった。止めれなかった。
「私達は何も考えずに刀を打ってればいい、それが私達の仕事なんだって……」
……違う。そういうことを言いたいんじゃない。ただ、止めるのが怖かった。兄がどうにかなってしまいそうで怖くて口出し出来なかった。
「わかってんだ、人斬り包丁だって…あんなモノはただの人殺しの道具だって…わかってるんだ。」
(…けど、だけど………)
「なのに、悔しくて仕方ない…っ」
鉄子の瞳から涙が浮かんできた。それを零さないようにと体を震わせ、拳を強く握り我慢する彼女の頭からは大切な兄の姿か離れない。
兄者が必死に作ったあの刀を、あんなことに使われるのは悔しくて堪らないんだ。
「もう、どうしていいかわからないんだ……私はどうすれば……」
「どうしていいのかわからんのは俺の方だよ」
鉄子の言葉を挟んで、銀時が口を開く。
「こんな怪我するわ、ツレがやられるわ、惚れた女泣かせちまうわで頭ん中ぐちゃぐちゃなんだよ。……オラ、慰謝料もいらねーからよ、さっさと帰ってくれや。もう面倒くせーのは御免なんだよ」
鉄子が差し出した金一封を机に投げ出し、冷たい横目で鉄子を睨む銀時。その彼の瞳からは偽りはなかった。
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