彼を、欲してしまう

「…っや、ちょ……晋助…!離し……」


「オメーに拒否権なんかあるめェよ」


「ま、待って…って……!」





船内……晋助の部屋。先ほどから背後から抱きしめられ、離そうとしない晋助に菜子はたじたじの様子。しかも彼はこちらが身動き出来ないのをいいことに、うなじに口付け、赤い痣を何個も何個も作っていくではないか。





「っは、恥ずかしい……!まだ昼間、とかなのにっ……!」


「クク……今更恥ずかしがる必要もあるめェ。俺ァ、オメーの体で見てないところなんてねェしなァ……」


「また子、とか…万斉が……来たらどうするのよ…っ!」


「…あァ?んなもんほっとけばいーじゃねェか」


(それ絶対よくない…!)


「俺ァ今すぐオメーを抱きてェんだよ」


「な、何言って……っ!」


「…ククク……おとなしく、俺に抱かれろ…菜子……」


「っ!」





…ずるい。ずるい、晋助はずるいよ。私が晋助に強く求められれば断われないことを知っててそう言う私が照れるような言葉を敢えて口にする。そして戸惑う私の様子を楽しそうに見つめてる。
ずるい、ずるい。いつまで経っても私は晋助の手のひらの上で転がされている。…けど、そんな彼に強く惹かれてしまっている。





「晋、助は……いつもずるい、よ……!」





私のことを見透かして、私は晋助のせいでこんなにも余裕がないのに…晋助は飄々とした表情で私を巧いこと操ってしまう。





「…クス……聞こえねェなァ…?」





私の恥ずかしがる様子を見て、嬉しそうに笑みを浮かべる晋助にいつも悔しくて。……だけどそんな彼のことが堪らなく好きで。





「……晋、助……!」




彼を、欲してしまう。菜子は晋助の首筋へと腕を回した。あぁ、どうして私はこんなにも晋助に夢中で、依存してしまっているのだろうか。





「菜子…好きだぜェ…?」





そう言われるだけで、涙が止まらなくなるぐらい嬉しくて。晋助から降ってくるキスの嵐に、菜子は応えたのだった。一方で、船内の違う部屋では激しい物音が響き渡っていた。





「離すネェェ!!私にこんなことしてただで済むと思ってるアルかァァ!!」






壁に両腕を押さえ付けられていてはいるが、まだ自由な両足で近づいてくる浪士たちを蹴り飛ばしていく神楽。浪士たちは少しも手を出す暇なく神楽にやられていく。





「お前等ァ!みんな銀チャンにボコボコにされても知らないかんな!!」


「…はぁ……もうボロボロなんスけど」




その様子に思わずため息をつくまた子。辺りには神楽にやられて気絶する浪士たちの山しかないのだから。また子はその中にいる顔見知り、武市に話し掛けた。






「だからさっさと始末しようって言ったんスよ。ガキ一人に何スか?この体たらくは……」


「何の情報も掴んでいないのに殺してどうするんです?それにね、この年頃の娘は後二、三年したら一番輝く……」


「ロリコンも大概にしてくださいよ、先輩」


「ロリコンじゃありません、フェミニストです」





また子と武市のいつもの会話が繰り返され、ようやく話は本題へと入る。





「見てください、一夜にして貴方に撃たれた傷が塞がっているし。それにあの尋常ならざる強力。そしてあの白い肌」


「先輩いい加減にして下さい」


「だからオメ、違うって。フェミニストって言ってんじゃん。ただの子供好きの」


「だからそれただのロリコンじゃないっスかァ!!」





…が、やはり話はズレてしまう。





「もういいですよ、貴方には理解出来そうにないから…馬鹿が」


「オメーが馬鹿」


「あれですよ。私が言っているのはこれは"夜兎"の特徴と一致していると言うことです…死ね」


「お前が死ね」




しかし、今はそんな言い争いをしている場合ではない。話はまた真面目な雰囲気を取り戻した。





「夜兎ってあの傭兵部族"夜兎"っスか。晋助様を狙って雇われたプロの殺し屋ってわけっスか?…一体どこの回しもんっスか」


「それが何を聞いてもヅラしか言わないヅラ」


「先輩それ嘗められてんスよ」





はぁ…と大きなため息をつくまた子。嘗められてるかもわからない武市に呆れることしか出来ない。





「フェミだかロリだか知んないスけど、キモいっスってマジで。見てて下さいよ、こんな小娘ひとひねりで……やい、てめっ…」


「ペッ」





また子が話し掛けた瞬間に、神楽はまた子の顔目がけて汚い痰を吐き出した。ドロッ…としたものがまた子の頬を伝う…また子はブチ切れた。





「てんめェェ!自分の立場わかってんスかァァ殺してやる!!」




銃を構え、今にも撃とうとするまた子を武市は慌てて押さえた。




「ちょ、ダメだって!あと二、三年したらすんごい事になるってこの子」


「止めないで下さい武市変態!!」


「先輩だから、変態じゃないからァ!!」





また子と武市の様子を神楽はニッと楽しげに笑いながら眺めていたのだった。





「身体中の痰よオラに力を!」


「汚いからやめなさいコラ!」


「た〜ん〜じ〜る〜」




武市の制止の声も聞かず、また子と神楽は口内に痰を蓄えだす。……相手に吹き掛けるために。





「「くらえ!!」」





二人が痰を吹き出した瞬間だった。





ドォォン、と大砲が発射されたような音と同時に、鬼兵隊の船が大きく揺れたのだった。




「何!?」


「何アルかァ!?」


「…何じゃねーよ、人の顔を痰まみれにしといて」





神楽たちの痰は、お互いに掛かることなく二人を止めようとしていた武市の顔に飛んだと言う落ちで終わった。






「っな、に…!?今の大きな揺れは………」





菜子は不安げにそっと、晋助の胸元へとしがみつく。晋助はそんな彼女を包み込むかのように強く抱き締めた。





「…敵の襲撃か」


「っ!?…敵って………」


「…面倒なことになっちまったもんだ」





スッ、と晋助は菜子から離れると部屋から退室しようとする。そんな彼を、菜子は慌てて止めた。





「待って!……敵の元へと、行っちゃうの…?」




去ろうとする晋助の着物を掴み、彼の背中へと抱きついた。……行かないで。私を一人、危険なところに行かないで。残さないで……一人は誰だって辛いでしょう。




「…心配する必要はあるめェ。ちょいと敵を蹴散らすように命令してくるだけだ」


「ほんと、に…?」


「俺ァ、オメーには嘘つかねェ。…すぐ戻る、続きは今夜な……」




晋助の最後の一言に、菜子は一瞬で顔を赤く染める。




「な、……!馬鹿!」


「クク……楽しみにしてろや」




それだけ告げると、晋助は菜子から離れ、行ってしまった。
大丈夫、そう彼は告げたのだけれど…私の中で不安は消えなかった。…なんだか嫌な予感がしてきて、胸がざわついた。



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