雨の中、惚れた女の元へ
「雨…か、……」
雨が降り続く今日の空模様を、船内の部屋の窓から覗いていた。空は鉛色の雲が広がっていて、いつもの綺麗な青空を隠してしまっている。
「…晋助、」
貴方の傍にいてあげなきゃいけない。再会したときからずっとそう思ってた、貴方もそう言っていた。
「これで、いいんだよね……先生…」
(例え、銀ちゃんたちやヅラたち、真撰組のみんなを裏切ったとしても。愛する人の元にいてあげなきゃいけないんだよね……?)
…何度も、何度も。自分に言い聞かせた。
(…けどね、どうしても一瞬は悩んでしまうの。これで、よいのだろうかって……)
「…銀ちゃん、大丈夫だったかな……」
似蔵に食らわされた大怪我……大丈夫だっただろうか。そう易々と死んじゃうような彼ではないけれど、あれだけ無茶した彼を心配しないはずがない。
「……銀、ちゃん……」
今だけは、今だけは。
晋助がいないこのときだけは……銀ちゃんのことを思っても、いいよね。
…ただ、今だけは。
雨が少し、弱くなった気がした。
…場面は変わって、万事屋。
あの後、鉄子を追い払った銀時はお妙に言われるがまま布団の上へと寝転がっていた。
彼の隣を、お妙が寄り添っている。
「…安心しました」
「あァン?」
お妙の一言に首傾げる銀時。お妙が一体何に安心したのか、よくわからなかった。
「そんな怪我でも行っちゃうんじゃないかって心配していたんです。いくら銀さんでもその怪我じゃ…ねぇ?」
「…そうだな、」
「……銀さん、もう無茶はしないでくださいよ。銀さんはもう、一人の体じゃないんですから」
銀時に何か遭ったら悲しむ人がすぐ傍にいるのだから……お妙は目を細めながら真剣な口調で言葉を紡ぐ。それに、銀時は苛ついてきた。
「うっせぇんだよテメー!しつけぇんだよ!もうどこにも行かねェから、ジャンプでも買って来やがれ!」
荒々しい口調でお妙に命令する銀時。
「お前、さっき買って来たの赤丸だぞ、お母さんみたいな間違いしてんじゃねーよ!!」
「はいはい……それじゃ買って来ますからおとなしくしていて下さいね」
お妙は銀時の言葉に優しく頷き、雨の中ジャンプを買いに行く。玄関の戸が閉まる音が聞こえた瞬間、銀時は体を起こした。
「……すまねぇな」
「俺だってこの歳で無茶なんかしたかねーよ、」
……けどよ、このまま放っておけるハズがねーんだよ。新八や神楽…菜子が危険な目に遭ってるのを、見過ごすワケにはいかねぇんだよ。
惚れた女も守れねーようなちっせぇ男に成り下がれねェんだよ……
『銀ちゃっ……!しっかりして……!』
『ぎんちゃ…っ』
『っ、銀ちゃああんっ!!』
不安げに俺の名前を呼んで、瞳に涙を浮かべて、泣き叫ぶアイツの姿をもう見たくねーんだよ。
「……ん?」
ふと玄関のところに見覚えのある羽織りと、可愛らしいウサギの描かれた傘が置かれていた。そして、それらと一緒に何か書かれている紙切れが一枚。
「……可愛くねー女」
【私のお気に入りの傘、なくさないでくださいね】
と、お妙の字で書かれていた。
その愛らしい傘を差しながら、銀時は雨が降り続く町中を歩く。…横を、お妙が通りすぎたことも気付かず。
「…馬鹿な人、」
お妙がそう呟いたことも知らずに。
鬼兵隊の船上では二つの派閥が争い始めていた。
穏健に事を進める桂派閥と、過激に武力で進める高杉派閥と。
『こらぁ高杉ぃ!!貴様は共に攘夷を訴える同志にも関わらず、桂さんを亡き者にし、我らを裏切った!ここで我らが貴様等に天誅を下す!!』
桂派の浪士たちが一斉に鬼兵隊の船へと攻撃をしていく。それに負けじと高杉派の浪士たちも反撃を繰り出す。
「くっ、なんで奴らがこんなとこに……似蔵め、ややこしいことしてくれやがって……腹立つっス」
「まぁ、落ち着きなさいまた子さん。奴らも闇雲に攻撃を仕掛けてきたわけではないハズきっと何かがあるハズです」
ツカツカ、と足音を立てながら早々と船内を歩くまた子と武市。攻撃掛けて来た奴らの真理を解き始める。
「…案外、この娘が奴らと手を組んでいてコイツを取り戻しに来たという考えもあるっス」
「…それも一理ありますね」
「………………」
また子の言う"この娘"と言うのは、捕らえている神楽のことで……また子と武市は神楽に視線をやる。
神楽は神楽で、ムッとした態度で二人を睨み返した。
二人は神楽を縛り付け、外へと連れ出したのだった。…桂派の浪士たちを抑えるために。
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