独占欲と言う名の獣
「聞けェお前等ァァ!!」




スピーカーを使いながら、桂派の浪士たちに訴えるまた子。彼女の前には十字架の形をした木に縛られている神楽の姿がある。




「お前たちの狙いは読めてるっス!この娘っスね、無事に返して欲しくば……」




おとなしくしろ……また子はそう告げようとしたのだが、出来なかった。ドカーンっと先程と変わらず攻撃がブチ込まれたからだ。
おかげでまた子と、彼女の近くにいた武市はプスプス…と音を立てながら黒い灰を身に纏っている。





「全然違うじゃないですか武市先輩ィィ!!」


「…おや、外れましたか」


「プププっ!あんな奴らと全然関係ないもんねーっ何やってんの、あー恥ずかしーキャハハ」


「アンタ何笑ってんの!?アンタが一番危機的状況なんだよ!?」




また子たちの作戦失敗に大笑いする神楽。……笑ってる彼女が一番危険な立場に立たされているにも関わらず。





「ゲッ、また……!!」





ピュー、と風を振り切りながら落ちてくる砲弾。また子と武市は直撃しないようにと直ぐ様その場を逃げ出した。……神楽一人を置いて。
砲弾が、一直線に神楽目がけて飛んでくる。…もちろん、捕らえられている彼女が避けられるはずもない。





「お、お前等ァ薄情なァ…っ!!」




慌てふためても、砲弾は変わらず飛んできている。神楽はギュッと強く目蓋を閉じ、今から降り掛かるであろう…想像出来ない痛みに耐えようとした。
また、大きな音を立てて砲弾は船へと落ちた。…が、いつまで経っても体のどこも痛くない。





「っ、お待たせ神楽ちゃん!」


「し、新八ィ!!」





聞き覚えある声のする方に視線をやると、やはり声の主は新八だった。彼が間一髪のところで神楽を助けてくれたので怪我一つしなかったのだった。神楽の表情が柔らかく、安心したものへと変わった瞬間だった。









「…っく、は…ぁ……」






そんな頃…船内のある部屋で紅桜に意識を乗っ取られ始めていた似蔵の苦しそうな呻き声が響いていた。





「…苦しんでるところをお邪魔するぜ、」





その声を聞いて、似蔵はピクリと体を動かした。目は盲目のため見えやしないが、気配でわかる。そこには、クク…と煙管を食わえながら似蔵の様子を眺めている晋助の姿があった。






「派手にやらかしてくれたみてーじゃねェか?おかげで幕府の奴等とやり合う前に面倒な奴等とやり合うことになっちまった……」





晋助の煙管から出る煙の匂いが、辺りに充満する。





「……アンタも、がっかりしているんじゃないのかねェ?」


「…んァ?」






似蔵の発した一言に不機嫌そうな声を出す晋助。そんな彼に構わず、似蔵は話を進める。






「かつての同志が、こんな簡単にもやられちまって……愛する女も自分ほったらかしでその同志の心配を、」




似蔵の言葉は、その後続かなかった。何故ならば、ガキンッと剣の交じり合う音が辺りに響いたからだ。晋助は鋭い眼光で似蔵を捉え、斬り掛かった。
似蔵はそれを反射的に受けとめた。……いや、受けとめたのは今やもう似蔵を自分の体と一体化している【紅桜】だ。





「ほォ…立派な腕が生えたもんじゃねェか。仲良くしているみたいで安心したぜ?…クク」


「………っ、」




晋助はゆっくりと似蔵から剣を戻し、鞘へと収めた。






「アレを全部一人で片付けて来い。そしたら今回の件、許してやらァ……」




似蔵からだんだんと離れていく晋助。…が、彼は部屋を出るときに横目で似蔵を睨み、ゆっくりと口を開いた。





「……それと、俺達を簡単に"同志"なんて呼ぶんじゃねェ。んな甘ったるいもんじゃねェんだよ、俺達は……」


「………、」


「菜子のことに関してもだ。あいつァ、俺の女だ。テメーにとやかく言われる筋合いあるめェよ……」





その口調は決して優しいものではない。…それは似蔵にも、恐ろしいくらいにわかっていた。何故なら、彼は自分に思わず体が震えてしまうほどの殺気を剥き出しにしてきたからだ。





「…今のは、本気で殺すつもりだったねェ……」





晋助が居なくなった後、似蔵は一人呟いた。
そうだ、あいつァ俺の女だ。今までもそうだし、これからもそれに変わりはねェ。
俺達には他人にはわかんねェ、知らねェ繋がりがあんだよ。切ろうとしてもちょっとやそっとで切れやしねェ繋がりがよォ……





「……菜子、」





テメーは俺のもんだ。…もう絶対に手放したりはしねェ。







「………あ、晋助……」





部屋へ戻ると、菜子は先程と変わらずここにいた。空を眺めていた彼女はゆっくりとこちらへと視線を戻してきた。





「…船、外で一体何が………っ??」





話を進める菜子を、自分の胸元へと抱き寄せる晋助。…ギュッと強く、強く………





「晋、助……どうした、の……?」


「…なァ、菜子……」


「な、に……?」


「……他の男のことなんか考えんじゃねェ…」


「……っ、しんす」


「俺のことだけ、考えてろや……」





どうやったら、テメーの全てが手に入る?どうやったらテメーを支配出来る?どうしてだろうなァ?どんだけオメーを抱いても、どんだけテメーに口付けても、この独占欲は収まんねェんだろうなァ………?獣の唸り声が鳴り止まねェ。





「んぅ……っ」





コイツの全てを、奪い取りてェ。






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