私の全ては貴方のもの
みんなによく言われることだから、自分でもわかっている方だと思うけど……私はどうやらわかりやすい方らしい。顔に考えていることやら、思いやら全て出てしまうそうだ。……けどね、それだけじゃないと思うんだ。
だって私の周りにいる人みーんな、勘のいい人ばっかなんだもん。だから尚更、バレてしまうんだと思うの。……みんなの中でも、一番勘のいい貴方には……嘘なんてつけないね、晋助。







「……晋助は、顔に似合わず甘えたさんですねー?」




まるで母親かのような口調で話す私に気に食わないのか、晋助はムッとした表情を浮かべた。





「…テメーは、殺されてェみてェだなァ?」




さっきより力を込めて抱き締めてくる晋助。……痛い。





「痛い痛いっ!ごめんってば、晋助!!」




クスクス笑いながら力を弱めるよう訴える菜子。彼の胸元を軽く叩く。





「フン……生意気なんだよ、テメーは」





鼻を鳴らしながら、力を弱めた晋助。締め付けられた痛みが和らいでいく。







「大好きよ、晋助……」





そう俺の耳元で呟く菜子。その小さな体で精一杯抱きついてくる。





「…不安に、ならないで……」





優しい声色で、言葉を紡ぐ。





「私の全ては……みんな、晋助のものだから……」





心も、体も。全部貴方にあげるわ。だから不安がらないで。貴方は、一人じゃないんだから。
晋助に私の想いが伝わったのか、ゆっくりと頬に手を伸ばし、優しく撫でる。そして、その優しい仕草とは反対に、激しい口付けの嵐が降りてきた。





「……ん、ぁっ……」


「っ、菜子……」





晋助と私は、正反対な性格をしているけれど……私達はある意味似た者同士なのかもしれないね。しばらく私たちは口付けた後、部屋を出た。





「晋、助……どこ、行くの?」





菜子は晋助に引っ張られるがままついていく。





「…敵の間抜けな面でも見に行ってやらァ」





ククク…と笑う晋助に、菜子はただただしがみついたのだった。
今から視界に入れるのは生易しい戦いなんかではないだろう。…けど、怖くないよ。私も死闘をくぐって来た侍……それに、傍に晋助がいるから……怖くないよ。

そのころ、船外では…






「うおおおおっ!!」






似蔵が単車に乗り、浪士たちの船を一人で消していた。





「ブッ壊してやるよ!!全てをなァァ!!」




【紅桜】たった一体で浪士たちの船を次々と海へと突き落として行く。




「くっ……たった一人に何を手間取ってやがる!早く撃ち消せ!!」


「だ、駄目ですっ…!動きが早く、小さいため当たりません!!」


「くそっ…似蔵め…!!」






桂派閥は似蔵にやられるのを、ただ待つことしか出来なかった。攻撃が効かず、見ていることしか出来なかったのだった。……が、似蔵も平気なはずがなかった。




「う、ぐっ……!こ、んなときに………」





体力を消耗するだけではなく、【紅桜】に意識はもう、半分以上乗っ取られている。
……彼も限界だった。似蔵の額に冷や汗が流れ落ちた。
ある程度、敵の船を破壊すると似蔵は【紅桜】を鉄也に見てもらうため、鬼兵隊の船へと戻ったのだった。





「はぁ、はぁ………」




息遣いの荒い似蔵。…が、ここまでしてでも似蔵は晋助の役に立ちたかった。……似蔵には、晋助しかいなかった。








『そんなちっせぇもんばっか倒してねェで、俺と来ねェか…?』




目が見えなくなった似蔵。使い物にならんと、自分を雇っていた奴らに捨てられた。…が、似蔵は変わらず人斬りをしていた。自分に弱い敵ばかり斬り捨てる日々……似蔵はつまらなく感じていた。そんなときだった。似蔵に晋助が声掛けて来てのは。





『どうせ壊すんならどうだい?一緒に……』 





……目が見えなくなった似蔵。そんな彼を晋助は拾ってくれた。





『世界をブッ壊しに行かねェか?』






それが、どれだけ嬉しかったか……どれだけ似蔵を救ったことだか……そのとき、晋助についていくと決めたときに似蔵は誓ったのだ。…自分は、晋助のためだけの剣になり、全てを斬り裂いてみせると。
だから、こんなところでくたばるわけにはいかなかった。まだまだ晋助の役に立ちたかった。……たとえ、体が悲鳴を上げたとしても。






「ぎゃーっ神楽ちゃん助けに来といてなんだけど助けてー!!」


「そりゃーねーぜーぱっつぁん」


「呑気でいーなテメーはよォォ!!」





その頃、船上では新八が神楽を抱えながら必死で敵から逃げていた。船は傾き始めていて、少しでも気を抜いたら船内の方にまっ逆さまに落ち、痛い目に遭うだろう。
…例に、鬼兵隊の浪士が何人も痛い目に遭っている。




「テメー等!一体何なんスか!?何モンなんスかァァ!!」





新八達の後を、また子は銃を構えながら追い掛け回している。




「また子さぁん、走ることに専念したほうがいいみたいですよ。じゃないと私たちもあのように…イタッ!」





また子の後についていた武市はというと、飛んできた物が頭に当たり、たくさんの倒れている浪士たちの元へと吹っ飛んでいた。
ガタンッ……船がまた大きく揺れた。





「うわぁっ!!」





その揺れに、新八は耐えられず、転んでしまった。……抱えていた神楽を手放して。







「し、新八ぃぃ!!」


「っ!神楽ちゃん!!」





気が付けば神楽は船から落ちそうになっていて……彼女の背にある十字架型の木材だけが支えとなっていた。新八は急いで手を伸ばした。





「神楽、ちゃん……!」





後少し、後少しで持ち上げることが出来るはずなのに……その後少しがどうしても埋まらない。





「し、新八っ……!」


「くっそ……!」





ふと、新八の背後から白い物体が手を伸ばしてきた。その手は神楽に届き、船伸ばしてきた上へと持ち上げてくれた。





「…エリー!!」

「っ、エリザベス先輩ィ!こんなところまで来てくれたんですね!?」




神楽を救ってくれたのは言うまでもない…エリザベスだった。





「"いろいろ用があってな"」





しかし、そんな悠長なことを話している暇はなかった。エリザベスの背後には派手な女物の着物を羽織った男が一人いた。

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