思いもよらぬ彼の想い
「…高杉、お前は菜子の優しさに甘えすぎなんだ。俺は昔から思っていた。菜子が不憫で可哀相だと」
ポツリと、桂は口を開き出した。
「お前はいつもそうやって、お前の籠の中に菜子を閉じ込めて……」
その小さな世界の中に閉じ込めて、自分だけのものにしようとしている。自分の欲を菜子に押しつけて、それに応えてくれる彼女に甘えているだけ。……そんなもの、菜子にとっていい影響があるはずがない。
「ヅラぁ、僻みか?」
…が、桂の言葉を晋助は軽く流した。
「テメーも菜子が欲しいんだろ?」
「晋す…っ」
言葉を発しようとした菜子だったが、晋助の胸元に頭を押し寄せられ、話すことが出来なかった。
「俺が気付いてねェとでも思ったか?オメーと、銀時の野郎が菜子のことを好いていたことによ」
「っ!?」
晋助の言葉に、菜子は驚きのあまり目を開かせた。
「が、残念だったなァ……コイツぁ、俺の女なんだよ。一生…なァ」
笑いながら話す晋助の瞳は、決して優しいものではなかった。
「……好いた女子の幸せを願って何が悪い?」
「ヅラ……っ」
晋助の言葉を否定しない、況してや肯定的な発言をする桂に菜子は戸惑わずにはいられなかった。
「桂、貴様ァァ!!生きて帰れると思うなよ!!」
鬼兵隊の皆は研究段階の【紅桜】全てを桂に爆破され、彼に対する怒りが募っていく……が、桂は敢えて冷静を装っていた。
「江戸の夜明けをこの目で見るまでは死ぬわけにはいかん。貴様等のような野蛮な輩に江戸を壊されるわけにはいかんからな……」
刀で、捕われたままの神楽を自由の身にしていく桂。
「明日を見ずにして眠るがいい…!」
カチ…と音を立てて、剣先を晋助たちに向ける桂。場面的には決まったところ…だったが、それはすぐにも壊された。
「眠るのは…テメーだァァ!!」
「え…」
ガシッと桂の体をしっかり掴んだ神楽はと言うと……そのまま彼を頭から床に叩きつけた。
「いだっ!!」
よほど痛かったのだろう。桂は頭を押さえて、声を上げた。
「ちょっ待て!何をする!?」
桂は、神楽に戸惑いながらも問うが…神楽と新八はそんな明るいものではなかった。二人には黒い闇が掛かっている。
(ふ、二人ともキレてる…!!)
菜子は思わず背筋に冷や汗を流した。
「テメー…散々心配かけといてエリザベスの中に入っていただァ!?ふざけるのも大概にしやがれ!!」
「ちょ、待て!ほら見て、敵さんが今にも飛び掛かって来そうな雰囲気だよ!?」
「こっちも今にも飛び掛かりそうな雰囲気!!」
桂の言葉を一切受け入れず、言葉どおり殴り掛かりそうな勢いである二人から殺気が伝わってくる。
「まぁ待て!仕方なかったのだ!奴らの標的は俺一人だと思っていたから亡くなったことにしておいた方が行動しやすいと……」
「「問答無用!!」」
二人は今度は桂の両足を掴み、彼を振り回し出した。その勢いは強いもので、敵が斬り掛かる隙もない。
「な、なんだこいつらは!!」
「攻撃出来ねぇ!!」
鬼兵隊の連中の戸惑っている様子が伺える。…ちょうど、そんなときだった。
「おいなんだあの船!?」
浪士の一人が指差しながら声を上げる。その浪士の指差す方向には小さな船がこちらに向かってくるではないか。
…否、向かってくるというより…ぶつかって来ていると言う方が正しいだろう。大きい物音と揺れを生じながら、その船はぶつかって来た。
「"桂さん!"」
「桂さんっ!!お無事のようで何よりです!」
「お前等……」
その船内にいたのは、エリザベス率いる穏健派の桂の仲間の浪士たち。彼らは桂を心配し、わざわざこんな危険なところまで助けに来てくれたのだ。
「……面白くなりそうじゃねェか…ククク……」
「晋助…?」
楽しそうに笑いながらその様子をただただ視観する晋助。菜子はそんな彼を支えながら彼を立たせた。
「…行くぞ菜子」
「え、あっ…うん、」
晋助に連れて行かれるがまま、この場から離れていく菜子。そんな彼女の様子を、桂は寂しげに目で姿を追っていた。
「"桂さん、行ってください"」
「…!、エリザベス……」
そんな桂の様子に気付いたエリザベスが菜子たちを追うようにと進めた。
「"次は必ず帰って来てくださいね"」
「…っすまん!」
軽く謝罪の言葉を告げると桂は剣を片手に、この場を後にした。
「ま、待って晋助…っ!もっとゆっくり……」
「オメーは知らなかっただろ…?」
「えっ………」
「ヅラがオメーのことを好いていたことを」
「…………」
(……知らなかったよ、そんな風に思われていただなんて)
「…これでよくわかったかァ?テメーが、どれだけ男を狂わす存在かと言うことをな」
「そ、そんなの……っ」
「ククク……まァどの野郎にも渡さねェがな……」
「…っん、ぅ…!?」
船の甲板に着いた途端、晋助から深い口付けが降りてきた。いきなりのことで菜子は戸惑いを隠せない。
「し、ん……っ!」
名前を呼ぼうにも呼べない。勿論制止の声も出せない。二人の唇が重なる度に、厭らしい水音が辺りに響く。菜子はそのキスに耐え切れず、足元を震わせ、まともに立っていられなくなる。そのため、晋助に寄り掛かるような態勢になる。
それに、晋助は満足そうに笑みを浮かべた。
「…っ、菜子……」
そして、その二人の元へ桂は足を早く動かしたのだった。愛しの彼女の幸せを願いながら。
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