彼女の武士道
船内に一人の足音が響く。その足音の主は桂だった。去って行った晋助と菜子を追うために。
……かと思いきや、足音が一人、また一人と後ろから聞こえてくるではないか。桂は何者かと確認するため振り向くとそこには、
「っお前達!何故ここに…!」
「ここまで付き合った以上、最後までとことん付き合わせてもらいますよ!!」
「ヅラのためじゃないアル。菜子が心配だから付いてきただけネ!」
……新八と神楽だった。桂は二人がいることに少し戸惑ったものの、今更引き返すことも出来るはずがない。
とりあえず今はかつての仲間の元へと向かうしかなかった。が、
「こっから先は行かせないっス!」
バンバン、と銃撃が三人に向けられた。その銃撃の来た方向に目をやると、そこにいたのは銃を構えているまた子と、その後ろにいる武市の姿があった。
どうやらこの二人はここで足止めをするつもりのようだ。この二人を倒さない限り、奥には行けないらしい。それを読めた桂は剣を鞘から取り出そうとした。
しかしその前に、新八と神楽が前に出て武器を構え始めた。
「…っ?お前等、何を……!」
「ヅラぁ〜あたし酢昆布10年分と渡る世間は鬼しかいねぇこの野郎のDVD全巻でいいアルよ」
「それじゃ僕はハーゲンダッツ10年分とお通ちゃんのDVDでお願いします」
「待て!お前等に何か遭ったら銀時に会わす顔がない!!」
桂は慌てて二人を止めた。…が、二人は素直に桂の言うことを聞くはずもなかった。
「「行けってコノヤロー!!」」
「さっさと行って、菜子を助けて来るアル!!」
「その変な頭、笑ってもらえ!!」
また子と武市に立ち向かっていく神楽と新八。
「…っすまん!」
二人に短く謝礼の言葉を告げると、桂は船内の奥へと足を踏み入れたのだった。
大切な仲間の元へと……そんなときだった。
【紅桜】に意識を奪われかけ、苦しむ似蔵の前に、一つの銀色の光が前に立った。……その光は似蔵にとって、目障り以外の何でもない。
「…お前、はっ………!」
「…世界一バカな侍だコノヤロー」
坂田銀時……彼こそが銀色の光の正体だった。
「…見ろよ、菜子。あそこに銀時の野郎がいるぜ?」
「えっ……」
深いキスを交わした後……晋助の呟いた一言に戸惑いの声を洩らす菜子。晋助の言葉を確認するために、彼の視線を追っていくと…確かに剣を構え、似蔵に向かって行こうとする銀時の姿があった。
(……駄目だよ、銀ちゃん、あんな大怪我負っているのに……っ!!)
見ていられなくなった菜子は急いで銀時の元へと向かおうとする。…が、ふと背後から腕を引っ張られてしまった。
そうする犯人はこの場でたった一人……
「…っ晋助…?」
「…オメー……アイツんとこ、行く気か…?」
「…だ、だって…銀ちゃん大怪我しているのに、あの【紅桜】と生身で戦うなんて……」
……その続きは、晋助に抱き寄せられ、口が開かなかったため言えなかった。
「行くな」
「…っ!」
「…行くんじゃねェ」
少し哀しげな感情を持つ瞳で見つめられ、菜子はまるで金縛りにあったかのように体を動かすことが出来なかった。
「俺を、裏切る気かァ?菜子……」
(…違う…違う、違うよ晋助。…だって私が晋助を…裏切れるハズないじゃない…!)
「……あんな無茶ばかりする銀ちゃんを、このままほおっておけないよっ!」
強引に晋助の腕を振り払うと、菜子は銀時の元へと向かおうとする。晋助と少し距離を取った地点で、菜子は口を開いた。
「…っ私の全部は、晋助のものだから………」
晋助の方を振り向かず、彼に聞こえるよう呟いた菜子。それに驚く晋助を置いていったのだった。
「全部、か………っククク」
「…男の嫉妬は醜いものだぞ、高杉」
菜子が去って行った方向とは違うところから声がした、ある気配がした。
「……ヅラか」
近づいて来る人物の名を呼ぶ晋助。ツカツカ…と足音を響かせて、桂が姿を現した。
「ヅラじゃない、桂だ」
「ククク…見ろよ。銀時の奴、生身で似蔵を【紅桜】をやり合いしてんだろ。相変わらず馬鹿な奴だなァ……」
独特の笑い声を上げながら晋助は銀時の様子を伺っている。そして桂も、冷静に銀時と似蔵のやり合いを見ていた。
「…人の動きではないな、あの男」
ぽつり、と桂が呟いたことは似蔵の動きについてだった。異常なまでのスピードに、攻撃力。…【紅桜】に操られ、意識も危ない様子がよくわかる。あの男は、命を落とすだろう。
「…高杉、お前もわかっていたんだろう?こうなることを」
「…アレが勝手にやったことだ、俺に関係あるめェよ」
「何……っ」
桂の言葉を冷たく返す晋助。想像していた反応と違ったので桂も戸惑いを隠せない。
「……お前の仲間だぞ?何とも思わんのか……!」
「俺ァ、仲間だろうが誰が転がり落ちようが関係ねェ。この世界をブッ壊すだけだ」
「……菜子も、どうなっても構わないと言うことか?」
桂の口調に怒気が込められた。それに気付いた晋助はまた笑った。
「ククっ……あいつが転がり落ちるわけあるめェよ。俺が一生この腕に捕まえててやるんだからなァ……」
「…そう言う割りには簡単に手放しているようだな、現に、菜子は銀時の元へと行った」
「…好きで許してやってんじゃねェ。アイツは昔から聞かねェ奴だと言うことをヅラもわかってんだろーが」
「昔から、菜子はそう言う女子だからな」
自分のことより苦しむ他人のことを考え、行動する。自分が傷つくことを恐れず、ぶつかっていける、真っすぐに。
強い、彼女の武士道。
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