大切なものを守り抜くために

「…菜子も相変わらずお人好しと言うか、何と言うか………」




桂が昔の彼女の姿を思い浮かべるかのように目を細めて呟いた。菜子は昔からそうだった。自分のことよりも、他人のことばかり気に掛ける女子だった。





『ぎんちゃん…っ口んとこ、よだれついてるよぉ…!居眠りしてるから、もー……』


『…ヅラ、あんまり無理しないのー!たまには息抜きでもしなきゃ駄目だよ??』


『…あ、晋ちゃん足から血出てるよ…!痛くない?はいハンカチどーぞ!』








「アイツぁ、昔から…単純で馬鹿なほど真っ直ぐで、純粋で……俺の欲望で汚してやりたくなる……っクク」





晋助の笑い声が、やけにその場に響いたのだった。





「…っ銀ちゃん!!」


「菜子!?おま…っ何して……!」




晋助を振り切って、銀時の元へと駆けつけた菜子。彼女が突如姿を見せたことに銀時は驚いた様子だ。





「…おやおや?アンタ、あの人を裏切るって言うのかィ…?」





似蔵の言葉に、体をビクリと動かす菜子。…が、動揺した素振りもなく、似蔵を見つめ、淡々と話す。




「…似蔵、貴方ももう限界なんでしょ?体が悲鳴を上げてるわよ…」


「…クク、話を逸らすつもりかィ?」


「……似蔵、私は晋助を裏切るつもりなんてないわ!私はただ……もう目の前で大切な人が失うところを見たくないだけよ」





今でも目を閉じれば……失ってしまった大切な人々の面影が…両親、戦友、松陽先生。




「……これ以上、私の大切な人を傷つけることは許さないわ!」




ぐっと唇を噛み、似蔵を睨む菜子。そんな彼女が、似蔵は気に食わなかった。








「…ぐっ……」





意識朦朧の似蔵。苦しみの声を上げながら【紅桜】を握る。
次の瞬間、【紅桜】が異様な動きを見せ、似蔵の身体にどんどん巻き付いていくではないか。






「!?」


「…っ銀ちゃあん!!」




【紅桜】は……一気に銀時へと襲いかかった。








「…刀は斬る、刀匠は打つ、侍は……何だろうな……」




太陽に翳すように、刀の刃を見つめる晋助。刃は銀色に光を帯びている。




「まァ、何にせよ…一つの目的のために存在するモノは強くしなやかで美しいんだそうだ……この剣のように」




満足げに笑いながら、晋助はゆっくりと剣を鞘の中へと戻す。桂はただ彼の様子を静かに見ていた。




「…クク、単純な連中だろ。だが嫌いじゃねーよ。……俺も目の前の一本の道しか見えちゃいねェ」




ずっとずっと、それだけを見つめて…それだけを追いかけてきた。その生き方を、今更変える気はさらさらあるめェよ。
似蔵は、銀時を捕まえたまま船の下へと引き連れて落ちて行った。その様子を、菜子は動揺して見つめていた。




「…っ銀ちゃ……!」




銀時の名を呼ぼうとしたときだった。…背後から声が聞こえたのは。




「完全に【紅桜】に侵食されたようだな!自我さえない似蔵殿の身体は全身これ剣とした!!<」



(…あの、独特のある大声……)



「…っ、貴方は…鉄也さん……!そ、れに…鉄子さんも……」


「ハハハ…菜子殿、こんなところで何をしている?」


「……何って、……っ銀ちゃんは、!」


「最早、白夜叉と言えどアレは止められまい!アレこそ【紅桜】の完全なる姿!アレこそ究極の剣!!」




菜子の言葉を遮り、鉄也が言葉を発する。……彼の言葉に、菜子の中でポツポツ…と怒りが込みあがっていく。




「一つの理念の元、余分なものを捨て去った者だけが手に出来る力!!つまらぬことに囚われるお前達に……」


「ふざけないで!!」




ぴしゃり、と大声を上げた菜子。そんな彼女の様子に鉄也、鉄子二人とも言葉を失ってしまう。





「銀ちゃんを、馬鹿にしないで!!銀ちゃんは大怪我負っているにも関わらず、自分の大切なものを突き通すためにここにいるの!!それを……簡単に、小馬鹿にするのはやめて!!」




菜子の瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた。……それを軽く拭うと、菜子は銀時と似蔵が落ちて行った穴へと飛び込んだのだった。




「ちょ、アンタ……!」


「菜子殿!?」




二人の制止する声が聞こえて来たけれど、もう遅い。菜子はもう、穴の中に飛び込んでいたのだから……銀時の、自分の……大切なものを守り抜くために。



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