守る剣


もう私は……大切なものを、失いたくはないんだ。






「銀ちゃああんっ!!」





銀時の後を追うように、穴へと飛び降りた菜子。見事に着地を成功させ、銀時の姿を探す。





「!!菜子アルか!?」


「えっ、菜子さん!?」


「おぉ、相変わらず菜子さんは綺麗で……」


「黙れ変態!その屁っ放り腰に一発ブチ込んでやろうかァァ!!」




そのとき、神楽と新八に再会した。…どうやら二人は武市とまた子と戦っていたようだ。





「っ、二人とも…ここにいたのね……」


「そ、それよりも…銀さんがァァ!!」





新八が大きな声を上げ、指差す方向には…見事に【紅桜】に寄生されながらも銀時を捕まえている似蔵の姿があった。似蔵から伝わってくる何とも言えない狂気に、その場にいた者達は息を呑んだ。





「なっ、なにィ!?なんスかこりゃああ!!」





彼の変わりように、また子は戸惑いを隠せず声を上げる。






「…似蔵さん?」


「コォォォ…!!」





武市が声を掛けるが、それに言葉で返さず、攻撃を掛ける。それを見事食らってしまった武市は壁に強く体を打ち、倒れていく。





「だからこういうの…苦手なんだってば……」


「先輩ィィ!?」





また子の、武市を呼ぶ声が辺りに響いた。







「っ止まれェ似蔵ォ!!」


「ま、待ってまた子!乱暴なことをしたら……っ」





銃を構え、似蔵を撃ち出すまた子を心配し、制止しようとした菜子だったが………遅かった。






「グウアアア!」





奇声を上げながら、武市と同じようにまた子を攻撃をする似蔵。……このままでは彼に皆ボロボロにされてしまうのが目に見えていた……





「銀ちゃんを……離しなさい、似蔵!!」





銀時の体に巻き付く似蔵を、素手でも取り外そうと行動に出る菜子。…しかし、そう簡単に離れるわけもない。






「ウガアア!!」


「っ…きゃああ!!」






似蔵に乱暴に振り払われ、遠くの壁へと突き飛ばされてしまった。菜子の身体全身に痛みが駆け回る。





「く、う……っ!」


「菜子っ!?」


「菜子さん!しっかりしてくださいっ!!」





痛みに苦しむ菜子の元へと駆け付ける神楽遠くの新八。痛みのあまり強く閉じた瞳を、菜子はゆっくりと開かせていく。





「っく…だ、大丈夫……」





心配そうにこちらを見てくる二人を安心させようと笑い掛ける菜子……が、その笑みさえも痛々しく感じられる。このままでははいけないと、菜子は壁に寄り掛かりながらも体を起こした。






「…っそれより…銀ちゃんを、助けなきゃ……」





菜子は歪む視界の中で、銀時の姿を探す。今、自分が助けなきゃいけない人。守りたい人。どうにかしなければ、と思った矢先……視界に入ったのは一本の剣……どうやら武市が使っていたもののようだ。
それを…菜子は手に取った。






「っ、銀ちゃんを…返してェェ!!」






ずっとずっと…攘夷戦争が終戦してから、剣を手にすることを拒んできた。剣を握るのが…怖かった。ずっとこのまま一生、斬って、殺して、全てを消してしまいそうで……恐がった。戦争を通じて、人の命の重さを…改めて実感したから。
だから剣を捨てた。殺生を拒んだ。人の死に様に…怯えた。

両親、仲間、先生……たくさんの大切なものが争いによって犠牲になり、命を落としていた。その現実が怖くて、つらくて、苦しかった。逃げ出したい衝動に駆られ、その波に乗ってしまった弱い自分。



(…だけど、だけど今ね…思い出したよ。私が剣を取った理由、先生が告げた言葉を…)






『…いいかい、菜子。刀って言うのは人の命を奪う武器だ。…命だけじゃない、その人の人生、未来…何もかも全てを奪い取ってしまうんだ』


『その人の、全てを…?』


『ああ……だから剣を手にするには余程の覚悟と決意が必要なんだ。…菜子、』


『はい、先生…』


『君は何のために剣を手にする?』





そう私に問う先生の表情は真剣そのもので、口を開くのに少し緊張した。








『…先生、わたし…っみんなを守れるように強くなりたい…!晋ちゃんや銀ちゃんやヅラみたいになりたい!』





大切な人を、守りたい。それが私が剣を手にした理由だった。






『…その気持ちさえ忘れなければ、菜子は強くなれるよ。力だけじゃない、心が強くなる……』




"大丈夫、菜子ならきっと…大切なものを守り切れるよ"
先生の優しい声が、耳元で囁かれた気がした。






「ヴアアア…っ!!」





【紅桜】から伸びる似蔵の新たな腕に…菜子は剣を突き刺した。その衝撃から、似蔵は直ぐ様銀時を手放した。





「銀ちゃああんっ!!」






菜子は直ぐ様銀時の元へと駆け付けた。






「銀ちゃんっ…銀ちゃん!!」





銀時の名を呼び、彼の体を支える。その呼び掛けが届いたのか…銀時はゆっくりと瞳を開けた。





「…っう、…菜子、…?」


「ぎんちゃっ……!…ごめんなさっ…こんな、こんな無茶ばかりさせて……」





彼を優しく抱き締め、涙を落とす菜子。彼女の涙が銀時の頬へと伝う。








「っ、その剣で、これ以上人は死なせない!」


「鉄子ォ!?」





その様子を黙って見ていた鉄子も、穴から飛び降り、似蔵へと向かっていく。鉄也の目の前には、かないそうもない相手に立ち向かっていく銀時たち。そんな彼らの真理が鉄也には理解出来なかった。

何故…何故理解しようとしない?鉄也は心の中で呟いた。
これまで【紅桜】に全てを捧げてきた。他の一切良心や節度さえ捨てて……【紅桜】こそが全てだ。それを失えば、私には何も残らん。
…――親父を越えるため、剣だけを見て生きていた。全てを投げ打ち、剣だけを打ってきた。剣以外、何もいらない。もう剣しか……だけど、






「鉄子…っ!」





最後の最後まで……お前だけは捨てきれなかった。







次の瞬間、真っ赤な血が飛んだ。





「あっ…兄者ァァァ!!」





それと同時に、鉄子の泣き叫ぶ声が響いたのであった。



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