別れ際の笑顔に目尻の涙
…無力な私に出来ることなんて、彼の傍にいてあげることしか出来ないでしょう?







「…きっと、晋助も……何か考えがあるのよ……」





ぽつり、と菜子が呟いた。その彼女の小さな呟きを、銀時と桂は耳に入れた。






「晋助は、何も考えずにただ滅茶苦茶に行動するような人間じゃないから……晋助なりに何かあって、【春雨】と……」


「菜子!…どうして、いつもそう奴を庇う!?お前を、傷つけてばかりの奴を……!」


「違う!違うよ、ヅラ……っ晋助は、私を傷つけてばかりなんかじないよっ……」






ただ、不器用なだけ。優しさを素直に表すことが出来ないだけ。……本当の、晋助の思いは胸が痛いくらい理解出来ているつもり。





「いつもっ…いつも私のことを思ってくれてるって、知ってるから……」


「…菜子」





そう告げる菜子の瞳に悲しみの色はなかった。ただ、穏やかに笑っていた。



そして、ゆっくりと歩みだした。…愛する彼の元へと。



「…っ菜子!おまっ…高杉の元へと戻るのか…!?」





銀時の声が響く。…あぁ、つらい。胸が引き裂かれそうなくらい痛い。今、見なくても彼の傷ついている瞳が思い浮かんできそうだ。






「…こんな、攘夷浪士たちの衝突の騒ぎを…幕府達が嗅ぎつけていないはずがないわ……そうなると、自然と真選組の皆にも話が伝わる。…私の正体も、バレるのは時間の問題だわ…」





高杉晋助に愛された女
"鬼兵隊の鬼の牙"
その二つの肩書きは少なくとも、彼らに好印象は残らず、標的になるだろう。それが目に見えている。






「…っもう、こうなった以上少なくとも江戸にはいられないわ…」




やっぱり、私の居場所はどこを探してもなくて…晋助の言うとおり、晋助の傍しかなかったのかもしれない……今更ながらそう思ってしまった。失笑混じりに告げる菜子の背中がいつもより小さく、頼りなく見え…銀時は胸が痛んだ。





「銀ちゃっ……ヅラぁ……ごめんね…ごめんなさいっ…」





菜子の声が震えた。






「…勝手な、女でごめん……!」






幾年も姿を見せなかったかと思えば、いきなりひょっこりと現れ、また立ち去っていく。





「……けど、ね…短い間だったけど……皆と過ごした時間はとても楽しくって…っかけがえなくって……本当に、幸せだったよ……」





瞳を閉じれば、皆で過ごした楽しいひとときが思い出されるよ……何気ない日々、だけどそれが私には幸せ過ぎるくらい…嬉しかったよ。





「…もし、…っもし、まだこんな私を…仲間だって……思ってくれるのならっ……」


「勝手なこと言うんじゃねーよ」





涙で声を上手く出せない菜子を遮って、銀時が口を開いた。





「お前がいつ仲間じゃなくなったって言うんだよ?」


「っ、ぎんちゃ…」


「テメーは一生俺等の仲間だろーが!!勝手な女だァ?んなもん、今更慣れてねェわけがあるめー!」


「そうだぞ、菜子!俺達は例え、互いがどこか離れていても…仲間に変わりはない!今までも、そうであっただろう?俺達は……」


「……っヅラぁ……」





涙が菜子の頬を伝った。……その涙は悲しくて泣いているわけではなく、二人の言葉からの嬉し涙だった。







「オラ、行って来いや」





ポン、と軽く銀時に背中を押される菜子。その反動で一歩、足が出た。





「そのかわり、ちゃんと帰って来いよ〜?銀さん、いつでも菜子が嫁に来るの待ってるからよ〜」


「フ……俺も同じく……」


「…っありがとう、二人とも…!」






涙を目尻に浮かべながら、銀時と桂に笑いかけた。そのときの彼女の笑みにはもう、別れる寂しさなどなく、本当の笑顔を描いていた。
そして、再び二人に背を向け……晋助の元へと駆けて行ったのであった。




(……先生、私ね、このまだまだ続く長い人生の中で…私はかけがえのない仲間を手にしたよ。…ねぇ晋助、貴方も何だかんだ言って、そう思ってるよね?……先生、私は本当に、幸せ者ですね)

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