悪夢を見た夜
『なんでアンタみたいなガキが、市丸隊長や松本副隊長に可愛がられているのか理解できないわよ!!』






ギンちゃんを慕う女の死神の人達に罵声を浴びせられた日は、決まってそのときのことが夢となって表れる。沢山の冷たい眼差しが向けられ、口から聞かされるのは、どれも耳を塞ぎたくなるような言葉ばかり。







『お願いだからさ、消えてくれない?』






彼女たちが何気なく放つ言葉一つ一つが…容赦なく胸に突き刺さっていく。やめて、と言いたくても言えない。夢の中の自分は動くことが出来なくて、声を出すことすら出来なくて…ただただ彼女達の言葉を聞かされるのみ。






『市丸隊長から離れてよ!!』




……わかってるよ。琥珀が、ギンちゃんと…不釣り合いなことくらい。琥珀がギンちゃんといることで、ギンちゃんに迷惑を掛けていることくらい。




「…琥珀、琥珀…!どないしたん!?」
「…っ…え……?」





ゆさゆさ、と体を揺すぶられていることに気付き、夢から目覚めると心配そうに顔を近づけ様子を見ているギンの姿が目の前にあった。





「…堪忍な、なんやえらい琥珀が魘されとったみたいやで起こしたんやけど……」
「…はぁっ…そう、だったんだ……」






額に汗を滲ませ、瞳からは涙が零れ落ちる。…怖かった。自分の居場所が奪われ、失われていくのが恐ろしかった。




「…ご、ごめんね…ギンちゃん…起こしちゃって……」
「そない謝らんでもええよ…怖い夢見てたんやろ?」
「…だ、大丈夫……もう、大丈夫だから…」






大丈夫だ、と言葉を繰り返しながらギンに笑って見せる琥珀だが…どこからどう見ても大丈夫そうには見えない。…勿論そんなこと、ギンが気づかないはずがない。





「僕にそない嘘が通じると思うとるん?」
「ぎ、ギン、ちゃ……」
「こない今すぐにでも泣き出しそうな琥珀を、僕がほっとくわけないやんか」




琥珀の両頬を手のひらで包み込み、彼女の瞳に浮かぶ涙をぺろりと舌で舐め取った。






「琥珀はそない強がらんでええよ、もっと僕に甘え?」
「ギンちゃっ……」
「怖いんやったら、怖いて言うてええんよ」
「ふぇっ…ひっく…ギン、ちゃん…」
「琥珀を苦しめるもんは、みーんな僕が消してあげるさかい」






小さな存在を自分の腕の中に閉じ込めると、ぎゅうっとしがみついてきた。ぶるぶると体を震わせて、泣きじゃくるその存在を安心させるために優しく抱き締めてやる。




「朝までずーっと、こうしといてあげるわ。もう怖い夢なんて見いひんで」
「ぎ、ギンちゃ…っ」
「次は、ええ夢見よな…琥珀」
「あ、ありがと……ギンちゃん…」





大好きな匂いと心地よい温もりに包まれながら…琥珀はゆっくりと瞳を閉じたのだった。




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