それ以上は言わせない
「……琥珀、落ち着いた?」
「…今、泣き疲れてよう眠っとるわ…」






琥珀の病室の前で顔を合わせるギンと乱菊。あの様子では…と乱菊は先に部屋を後にし、待っていたのだが…ギンの様子を伺う限り、琥珀はまだ自分を責め続けているようだ。






「…ほんま、琥珀は…昔はよう僕に甘えてくれとったのに、今は…何も言うてくれへん」
「…ギン…っ」
「いつか、乱菊が言うとったやん。琥珀の方から言うてくるまで待ってやらなあかんて…せやけど、琥珀はっ…どれだけ僕が待っとっても本音を言うてくれへん…!」
「…っ落ち着きなさいよ、ギン…!琥珀だって、きっと…!」
「…"辛い"とか"痛い"とか…何だってええねん!せやのに…琥珀は何も言うてくれへん!」





いつも、僕の前ではにこにこと無邪気な笑みを浮かべるだけ。先程もごめんね、と何度も謝罪の言葉を繰り返すだけ。





「琥珀は、何も悪うないやんか…」





悔しい。これほど自分の非力さを悔しく思ったことはない。彼女の力になるどころか、気遣いばかりさせてしまう自分が憎い。






「……琥珀も、今色々あって混乱してるのよ…だから、こういうときだから、ギンが傍にいてあげなきゃいけないの」
「…!乱菊…」
「いい?琥珀にはアンタしかいないのよ?…だったら、ギンがしっかりするしかないじゃない」
「…そんなん、乱菊に言われんくてもわかっとる」
「…だったら、こんなこと言わせないでよ…馬鹿」






はぁ、と小さくため息を零しながらも乱菊は話を続けた。






「…吉良にはこのこと言ってあるんでしょ?」
「…そうや」
「だったら暫くは仕事もほどほどにして、琥珀の面倒看てあげて。あの子の傍にいてあげて」
「…そんなん、言われんくても傍におる…」
「…じゃ、琥珀のことは任したわよ」
「…あぁ、任しとき。僕が、琥珀の面倒を見たるから」
「よろしくね、ギン」





最後にそれだけを告げると、乱菊はスタスタとこの場を後にした。胸の中に過ぎる不安を振り払い、ただただ少女が少しでも早く回復してくれることを祈りながら。


それからと言うもの、ギンは午前中隊舎へ向かい、午後になると琥珀の病室に足を運ぶ…という生活を送ることとなった。イヅルも今回のことは大目にみていて、ギンの分も執務に取り組んでいてくれている。







「……ギンちゃん、」
「なんやの琥珀、全然ご飯食べとらんやないの。ちゃんと食べへんと治るもんも治らへんで?」
「…もう、琥珀のことは…」
「せやけど、ほんま四番隊長さんは治療が上手やなぁ…琥珀の傷が見る見るうちに治っていくなぁ」
「…ギンちゃんっ、琥珀ね、」
「なに、言おうとしとるん…琥珀」






しかし、ギンが病室に訪れるたびに…琥珀は情けなさそうに眉を寄せて、哀しそうな表情を浮かべていた。そして、いつも彼女が言おうとしていることなんて…ギンにとっては予想もしやすいもので。






「…琥珀、もう大丈夫だから……だからね、ギンちゃん、もう……」
「それ以上言うたら、いくら琥珀でも僕許さへんよ?」
「…っ…」





ギンの言葉に身を竦める琥珀。…大きな瞳には涙が浮かんでいて、それを零さないように必死に下唇を噛んで堪える少女の姿は…あまりに痛々しかった。







「…今日は少し、長話でもしよか」
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