君は僕の大切な子
「…琥珀は、僕と初めて会うた日のこと覚えとる?」
「……うん」
ギンが今から何を話し出すのかわからない琥珀は戸惑いながらも小さく頷いた。…忘れもしない、二人が出会った日のこと。だってあの日は、琥珀にとって…世界が変わった日でもあるのだから。
「僕が琥珀に声を掛けたんは…単なる気まぐれや。大した理由なんか何もなかってん」
ギンや乱菊もそうだったように…琥珀のような者は流魂街には山ほどいる。腹を空かしても食料を得ることが出来ず、そのまま野垂れ死にする者も数知れないほどいる。
きっと琥珀も…あのときギンが声を掛けて、誘ってくれなかったら…遠くもない未来に彼女は消えていた。
「ほんま、僕自身よくわからんかってん。せやけど…琥珀と共に時間を過ごすようなって、だんだん僕ん中で琥珀の存在が大きゅうなってってな…」
「ギ、ンちゃ…」
「初めて琥珀が僕に満面の笑みを浮かべてくれるようなったときは…ほんまに、嬉しかったわぁ」
「…っ」
別に、ギンが酷い言葉を吐いているわけでもないのに…じわじわと琥珀の視界が涙で滲んでいく。零れ落ちそうになるその雫を必死に堪えた。
「最初は、琥珀の方から懐いてくれとったのに…今やもう僕の方ばっかりや…」
「え……?」
「僕の方ばっか、琥珀のこと好きで嫌んなる」
ギンの言葉に、琥珀はぎゅっと胸をしがみつけられたかのような痛みを感じた。
「もう、僕な…琥珀無しでは生きていけへん」
「ギンちゃっ…」
「せやから、僕から離れようなんて考えへんといて」
「…で、も…っ」
「僕には琥珀が必要なんや」
「…ギンちゃん…」
「誰が何と言おうと僕は琥珀を離す気なんかないよ?…あの日、琥珀を見つけたんは僕や。もう誰にも…琥珀を離したりせぇへん」
ぎゅう…と気がつけば、ギンの腕の中にいた。…愛しい愛しい彼の温もり。恐る恐ると言った様子で、琥珀はギンの羽織を握り締めた。
「…琥珀、ギンちゃんと…釣り合わないよ…?」
「何言うてんの、琥珀以外僕に釣り合う子なんかおらへんやないの」
「…っ琥珀、乱ちゃんとか…みんなみたいに…大人っぽく…ないよ…?」
「…琥珀はこれから大きくなるんやから、そない慌てる必要あらへんよ」
「…ギンちゃんに、迷惑いっぱい…かけちゃうよ…?」
「もっと僕を困らせてや、琥珀。僕、それが嬉しいんやから…」
「…う、うぅ…ギンちゃん…!ギンちゃっ…」
ギンの言葉一つ一つが嬉しくて…先程まで堪えていた涙はぼろぼろと頬を伝い零れ落ちて行く。拭っても拭っても、涙は止まることを知らない。
「…もう、僕に隠し事は無しや、琥珀」
「……すき…だよ、ギンちゃん…大好き……」
「僕もや…琥珀…」
どちらともなく、重なり合う唇。久しぶりの口づけは、涙でしょっぱく感じた。
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