夜明けはまだ来ない
あの日…ギンちゃんは、気まぐれで私に声を掛けた…って言ってたけど、琥珀はその気まぐれで救われたんだよ。それまで誰ともまともに接したことなかったから…初めて自分以外の人が声を掛けて来てくれて…本当に、本当に嬉しかったんだよ。
あの日からずっと…琥珀はギンちゃんのことが大好きなんだよ。











「…馬鹿ね、また何やってんのよギン」


「…そんなん、乱菊に言われんでもわかるわ…ほんま僕何してんやろ…琥珀に酷なことばっかさせてもて…光之君に言われたとおりや、僕琥珀を泣かせてばっかや…」


「…ほんっと馬鹿ね。どうしようもないわ」


「何やの、乱菊。偉そうに…」


「そんな私のところに来たのはギンの方でしょ?」


「…せやかて、こない時間に会うてくれるの乱菊くらいやし…琥珀のことも、よう知っとるやないの…」


「そりゃあ付き合い長いんだから当然よ」






グッと酒を飲みながら、にやにやギンの方を眺める乱菊。そしてまた、口を開き、話を続けた。






「…ギンも光之君も、なんで琥珀が泣くかわかってないんだから」


「そう言う乱菊はわかっとるん?」


「当たり前よ」


「せやったら教えてや」


「少しは自分の頭で考えなさい?」


「…ほんま、いけずやな…こない僕が悩んどるのに…」


「琥珀を泣かせた罰よ。私が厳しくしてあげないとみんなギンを甘やかすんだから」


「そないこと言うて……」





乱菊の口ぶりに、不満そうな声を洩らすギン。そんなギンを、乱菊は最初笑みを浮かべながら眺めていたが、ぽつりぽつりと語り出した。






「…なんで琥珀が泣くか…そんなのギンのことが好きだからに決まってるじゃない」


「は?」






予想外の解答に、ギンは思わず間抜けな声を洩らした。が、乱菊は至って真面目だった。






「好きで、好きで…どうしようもないくらい好きだから…泣いちゃうのよ。女ってそういう生き物なの。好きじゃない奴のために泣いたりなんかしないわよ」


「…乱菊」


「琥珀が泣き虫なのもきっとギンのことが大好きだからなのね。光之君の前で泣いてばっかだったのも、ギンが好きだから泣いてたの。それはギンが嫌な思いをさせたからじゃない、むしろ逆なのよ…光之君はその辺鈍感だったってだけ」


「……何やの、それ…」


「泣きたいほど好きだなんて…想われる証拠じゃない、ギン。よかったわね。わかったら…さっさと琥珀のところに帰ったら?」





乱菊に促され、腰を上げようとしたそのときだった。






『琥珀はいるか!?』


「きゃっ!?もう、何なのよ急に!って…光之君じゃない。アンタ何しに来たのよ?」


『琥珀が、市丸ギンの後を追っかけていなくなっちゃったんだよ!!俺を置いて!!』


「…光之君を置いてったところをわざわざ強調せんでええわ。そないことより、なんで琥珀を一人にするんよ!」


『市丸ギンが琥珀を置いてったりするからだろ!!』


「うるさいわよ!!アンタ達!!」


「う…」


『…くっ』





ギャーギャー揉め出そうとしたギンと光之君を一喝して黙らせる乱菊。…今は揉めている場合ではない。






「…ここにも来ていないってことは、女性死神協会の方に行ってるのかしら…琥珀が行きそうなところって、あーも、思い浮かばないわね…!ギンの傍ってことしか出て来ないわよ!」


『違う、俺の傍だ!』


「せやからそんなん言うてる場合やないんやて!早う琥珀探したらな…!」




三人でそれぞれ瀞霊廷内を探し回るが、琥珀はどこにもいなかった。霊圧も綺麗に消されているため、余計苦戦していた。





『琥珀、どこ行っちゃったんだよ…!』


「ギン、どこか思い当たる場所ないの?」


「そうやなぁ…せやけどいきなりそんなん言われても思い浮かば……!」





瀞霊廷内にいないのは、最早明確で。琥珀が外に出て行った可能性が十分高くなった。
外……つまりは流魂街だ。
ふと、ギンに一ヵ所…思い当たる場所が浮かんだ。





「…せや、もしかしたら…あそこ…ちょお行って来るわ!」


『あ、ちょっ待てよ!俺も一緒に…!!』


「アンタは私とお留守番よ」





瞬歩でこの場を後にしたギンを追いかけようとした光乃君を乱菊は捕まえ、制止した。





『なっ!?何するんだよ、離せよ!琥珀が…!』


「琥珀はきっと、ギン一人に来てほしいはずよ。二人にしかわからない場所へ行ったと言うなら、他の誰もが行っちゃダメなの。そういうものなの」


『何言って…!?』


「現に、アンタを琥珀が置いて行ったのがいい証拠よ」


『…!』


「…大丈夫、ちゃんとギンが無事連れて帰ってくるから…それまで私たちは二人の帰りを待っててあげましょ。蕎麦饅頭くらいなら出してあげるわよ〜」


『ちょ、触るなよ…!離せよ、おい!』




ぐいぐいと引き摺るように光之君を引っ張っていく乱菊の顔には、どこか安心したような…柔らかい笑みが浮かんでいたのだった。

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