望みはただ一つ
ギンは瞬歩で目的地へと急いだ。もしかしたら間違っているかもしれない、今から行く場所に琥珀はいないかもしれない。だが…自分の勘が外れている気がしなくて、ギンはただただ急いだ。
向かった先は…琥珀とギンだけの秘密の場所。二人が初めて出会った場所だ。
初めて出会ったとき、琥珀はボロボロの着物を何とか着て、地べたに座り込み、一本の桜を眺めていた。まるで初めて見たとでも言うかのように、あの大きな瞳は桜を捉えていた。
それからも彼女は春が来る度嬉しそうに桜を眺めるようになった。そんな琥珀を横目から眺めているのが好きだった。
「琥珀っ!」
勘は、間違ってなどいなかった。琥珀は確かにその場所にいた。琥珀が地面に横たわっているのを見て、ギンは急いで彼女のもとへと駆けつけた。
「琥珀、琥珀!しっかりしぃ?」
「…ん、ギンちゃ…」
どうやら怪我などを負ったわけでもなく、ただ眠っていただけのようだ。彼女の無事を確認するとギンはホッと安堵の息を洩らした。小さな琥珀の体を抱き締め、伝わってくる温もりがギンを安心させた。
「…心配したやんか…勝手に一人で抜け出して…」
「…ごめんなさい、ギンちゃん…けど、琥珀、どうしても…ここに、来たくて……」
眠たそうに瞳をとろん、としつつもギンの腕の中で話を続ける琥珀。ぎゅう、とギンの羽織を握りしめた。
「…ギンちゃん、これ…あげるね」
「…!これ…」
琥珀から手渡されたのは、草花で作られた少し歪な形をした冠だった。…こんな場所で花を見つけるなど大変だっただろうに、琥珀はそれを集めて作ったのだろう。
「本当は、もっと綺麗なの作りたかったのに…琥珀、不器用だから出来なかったよ……ごめんね、ギンちゃん…」
「何、言うてるんよ琥珀…こない綺麗な冠、僕見るの初めてやわ」
「…ギンちゃんと、仲直りしたかったから…」
「琥珀…」
琥珀は何も悪うない。悪いのは子供染みた嫉妬ばかりしてしまう僕の方や。
「ギンちゃん…光之君のこと…嫌い…?」
「…そんなんとちゃうよ」
「…光之君は、琥珀が死神になって…ずっと琥珀のことを守ってくれた大事な…相棒でね…ギンちゃん、光之君のこと嫌いかもしれないけど…琥珀、光之君と離れられないや…」
「…琥珀、」
「けどね…けど、一人ぼっちの琥珀を…ここで、救ってくれたのは…ギンちゃんなんだよ…」
震える声でそっと言葉を洩らす琥珀の一言に、胸が締め付けられる感覚を覚えた。
「…琥珀にとって、ギンちゃんは……」
「…僕が悪かったんや…琥珀…」
「…ギン、ちゃ…」
ぎゅう、と今自分の腕の中にいる小さな存在を抱きしめる。ああ、どうしてこんな小さくて弱い彼女を苦しめさせてしまうのだろうか。自分の方が大人なのに、彼女のことになるとどうしても理性を失ってしまう。
「…僕、琥珀のことが好きすぎるあまり…琥珀を傷つけてばっかや…ほんま、情けなくなるわ…」
「……琥珀は、それでもいいよ…?」
「…何言うて…っ」
「琥珀は、ギンちゃんの傍にいれるんなら…いいの」
「…っ琥珀…!!」
少女の放ったその一言で全て救われた気がした。
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