みにくく拗れたこころ



がらんとした医務室には、いつもいる先生はいなくて、ただエレンと──の呼吸だけが響くようだった。

真っ白なベットに音を立てて座ると、エレンは、「とりあえず冷やした方がいいか」と袋を探している。

ガラガラと氷のぶつかる音と、水の流れる音を聞きながら、黙々と準備をしてくれているエレンの背中を見つめた。

大きな目に、少し可愛い顔をしたエレンだが、体付きは筋肉がつきそれこそ大人のようにがっしりしている。

することも無く、ぼんやりとエレンの背中を見つめていれば、用意が終わり振り返ったエレンとしっかりと目が合ってしまった。

「ほら、ちゃんと当てとけよ」

「...ありがとう」

ぽたりと水滴が少しだけ滴り落ちているその氷の袋をエレンから受け取る。
ベットに深く腰掛けて、右膝を立てて、足をベットの上へと持ってきてから氷をあてた。
ひんやりと冷たさが足首から体に広がっていくような感覚に、思わずぶるりと体をふるわせた。

「よく怪我するよな──、...気をつけろよ、ほんとに」

「うん、...。みんなにもいつも心配してもらってるし、このままじゃダメだよね」

「...別に俺はダメだとは思わねェよ。その──を好きになったんだから」


「...っ!!...エレンって恥ずかしがったりしないの?!もう、ほんと...やめてよ!」

一瞬で真っ赤に染まった──の顔は、切羽詰まったようである。
ストレートに愛を伝えてくるエレンに戸惑う──とは違い、疑問を投げかけてもエレンはキョトンとするだけだった。

「何がダメなんだよ」

そんなエレンに──は諦めたように、少し赤い頬を隠そうと下を俯いた。

普通に考えて、エレンが自分のことを好きだなんて、なんで?という言葉しか出てこない。
なんと言ってもエレンといえば巨人を駆逐することにしか興味ないような感じだったし、あんなに身近にミカサという美人がいるのだ。そのミカサはエレンのこと大好きなのに。
本当に自分のことが恋愛として好きなのか、少し分からなかった。


「エレンの好きはさ.......ミカサとか、と同じじゃないの?」

「はあ?何言ってんだよ。確かにミカサとアルミンもまあ、大事だけど...。触りてェって思うのは──だけだ」

「っ!」

立っていたままのエレンは──を見下ろしながら、するりと──の頬に触れた。
──のつるりとした頬を撫で、愛しそうに少しだけ目を細めるエレンの初めて見る顔に、──の心はひどくぐらついた。

「...」

「...」

吸い込まれるようにエレンを見つめる──の心臓の音は、保健室に響き渡るほど大きく打たれていた。

「あ、わるい。今日料理当番だったんだ、俺は行くけど、あとは大丈夫か?」

少し張り詰めたような空気を切るようなエレンの一言に、──は驚いた。

自分の頬に触れていたエレンの手が離されて、ひやりと冷気を感じた。

「え、あ...うん、。大丈夫!ありがとうエレン色々と」

「おう!ちゃんと安静にしとけよ」

嵐のように去っていったエレンの背中を見送り、──は大きく息を吐いた。

キス、されるかと思った。そう心に思った瞬間に、何もされなかった事に──は少しだけ物足りなさを感じた。

「うそーー...もう完璧に好きじゃん、こんなの...」

両手を顔に置き、エレンのことだけを考えてしまうこの脳に──はもう一度溜息をつきたくなった。
どうも肩に力が入っていたらしく、一気にでた疲れから──は上半身を倒して、フカフカのベットへと体を沈めた。

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