春待ち橋



どうもエレンと関わらなくなった。

エレンのことが好きだ。そうこの間の医務室でちゃんと自覚してから数日たった。
そのため──が恥ずかしいからと、避けている訳ではなく、今までは何かあれば話しかけてきたエレンも、──に話しかけなくなったのだ。

なんで自覚した矢先、こんな虚しい思いをしなくちゃいけないのか。心にポッカリと穴が空いたような感じである。

「...」

はあ、とため息をはく──は、今日の料理当番で、ただ無心でじゃがいもを剥いていた。

そんな──を同じく当番のライナーは心配そうに見つめた。

「──」

「...」

「おい、──!」

一際大きな声で名前を呼んだライナーに、──は大きく肩を飛びあがらせた。

「わ、っ!!ど、どうしたのライナー」

「いや...。大丈夫か?そんなに心ここに在らず、って感じだといつか包丁で怪我するぞ」

「あ、うん。ありがとう心配してくれて」

「おう」

へらりと笑った──に、ライナーはほんの少しだけ眉をひそめた。誰が見ても悩んでいるだろう、バレバレな──にライナーは放っておけずいつもより優しく声をかけた。

「その、なんだ...。悩みがあるなら聞くが...俺でよければ」

「え、いや、ほんと大丈夫だよ!」

「そうか...」

「うん、ありがとね」

「...」

「...」

ジャガイモの皮を向く音と、ライナーの野菜を切る音が響く。
ライナーは、大丈夫だと言われた──の背中を何度か盗み見た。


「...エレンのことだろ?」そう遠慮気味にいったライナーのひとことに、──は包丁を動かしていた手をぴしりと止めた。

「.........私ってそんな分かりやすい?」

「ああ、...まあな」

迷いなく言ったライナーに、少し気を落とした。残り少なくなったジャガイモに視線を落としながら、──は話し始めた。

「...なんか最近エレンに避けられてるのかなー、って思っちゃって。...ライナーから見たらどう思う?」

「あー.......まあ、言いきれないがたしかにお前ら話さなくなったよな」

「うん。嫌われるようなことしちゃったかなー、」

「それに限っては無いだろ」

ばっさりと言い切ったライナーに──はキョトリとした後に、少しだけはにかんだ。

「あはは、ありがとう。優しいねライナー」

「いや別に気使ってるとかじゃなくてな、」

「なんかそう言ってくれただけでもちょっと楽になったかも、...」

先程から何度も言ったお礼をもう一度言えば、ライナーは困ったように「何もしてないだろ」と、困惑した。

ライナーは数日前の男部屋での事を思い出していた。
自分や周りからのアドバイスをエレンに吹き込んでから、エレンはどうも──に接触しなくなった。まさかとは思うが自分のせいじゃないだろうか、そう考えれば──のその悩みは放っておけない。

「それで、エレンになんか言われたとかはないのか?」

「なにも言われてないよ。ふつうに喧嘩したとかもないし」

「そうか...。じゃあアルミンからは?」

「アルミンにも特に...ふつうに話したくらい」

いつにも増して真剣な顔をして質問してきたライナーに──は少しだけ戸惑いながらも1つずつ答えていった。

「ライナーって、すごいちゃんと相談乗ってくれるんだね...」

「え?あ、ああ...。いや、まあな」

自分達のせいでもあるからな、とライナーは心に思ったが口にすることは無かった。

そんなライナーの気持ちは知らずに──はただ単純に、真剣に相談に乗ってくれているライナーの好感度がめきめきと上がっていた。

「とりあえず...そうだな。あと数日待ってみるといい、絶対エレンから話しかけると思う」

「なにそれ、どうゆうこと?」

「いや...まあ確証はないが、そんな気がする」

意味がわからずにライナーを見つめれば、自信があるような、見据えてるような瞳に──は驚いた。

「そ、そう。.......じゃあライナーのこと信じてみるね」

まさか、と言いたいところだったが、適当に言っているわけではないライナーに──は笑い飛ばすことは出来なかった。

ただ、もしかして何か知ってるの?といった言葉が口から出かかったが、 怖くて聞けずに今日の夕飯のカレーが出来上がった。

previnext