歩きなれた散歩道
カレーは思うよりずっと上手くいったらしい。
美味しい。そう遠くで誰かが言ったのが聞こえれば、自然に口角は上がる。
ぱくりと1口大きく頬張れば、ジャガイモは柔らかく口の中で崩れ、少しドロドロした香辛料が控えめなルーは白米との相性がバツグンだった。
美味しい、と心の中で自分を鼓舞すれば、マルコもそう感じてくれていたらしく、にこりと笑って褒めてくれる。
「すごく美味しいよ!──は今日の当番だったよね?」
「うん!そうなの!一生懸命ジャガイモむいた甲斐があったよ」
マルコに言われたのが嬉しくて、つい胸をはるように言えば、ジャンが少し笑っておちょくるように口を開いた
「ジャガイモむいただけかよ?」
「...そんなことないよ?あと...愛情入れもしといた。だからこんなに美味しいのかも」
「はいはい、そうかよ。それはありがとな」
「ちょっと。もうちょっと褒めてくれてもいいじゃん」、そう──は口を尖らすも、ジャンはこちらを見ないまま適当に相槌をうった。
今日の座学のこと、明日の登山訓練のこと、話は尽きない。
「明日登山訓練あるのに雨降りそうでこわいね、」
どうも雲行きが怪しく、どんよりとした暗い雲がかかっていたのを思い出す。このまま夜中に降ってしまえばいいが、明日雨になってしまったら最悪である。
ただでさえつらい登山なのに、雨が降れば視界も足の踏み場も悪くなる。
「たしかに雨が降っちまえば、バカみたいなドジで──が遭難しちまう確率が上がるな」
「うっ、」
「せいぜい死なないようにしとけよ」
はあ、と大きくため息つきで言われればジャンの言葉が胸につき刺さる。
たしかに否定しきれない。そう──が項垂れていれば、マルコが少し笑いながら──とジャンを順番に見た。
「そう言っておきながらジャンは──のこといつも心配してるよ」
「え、」
「おいマルコ!!!勝手に話作るなよ!」そう声を張りながらジャンはマルコを鋭く睨んだが、ほんのり色付いた頬に気付いたマルコに恐怖心は少しもなかった。
そんなジャンの否定的な言葉に触れもせず、──はただキラキラと目を輝かせて手のひらで隠しきれていない口元を大きく上げた。
「ジャンって...ツンデレだよね」
「ッ、うるせえよ!!お前もすぐに信じんなよ!」
「えーーー。ジャンと同じ班で訓練したかったなぁ残念」
「聞けよ人の話ッ!!」
ゆるゆると緩む頬を隠さずにジャンに向ければ、ジャンは眉をひそめそっぽを向いた。
素直じゃないね、と──はマルコに伝えれば、2人の会話を黙って聞いていたマルコは少し困ったように笑いながら、そうだね、と優しい眼差しを向けた。
「でもジャンとはなれなかったけど、マルコとは同じ班だから安心した!」
「たしかに僕も仲がいい人がいて安心したよ。頑張ろうね」
「はっ、くれぐれもマルコに迷惑かけんじゃねえぞ」
安心した、とマルコに返されて嬉しがる──にジャンは横目で釘をさす。
そんなジャンに今度は──が眉をひそめた。
「一緒じゃないからって拗ねないでよジャン」
「お前なぁ...、!」
体を震わせるジャンにそろそろ退避しようと──はスープの最後の一口をごくりと喉に押し込み、立ち上がった。
「じゃあ私戻るね。おやすみなさい!2人とも明日早いんだから夜更かししちゃダメだよ」
「.....おー。お前こそ早く寝ろよ」
「おやすみ、──」
若干不機嫌なジャンと、笑顔で見送ってくれたマルコに背を向けて、自分の食器を片付けた。
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