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「リヴァイじゃないかな」

「...」

そういったハンジさんに、思わず体がぴしりと固まる。
兵長ともしかして、そんな考えが脳裏を掠めばすぐに体はじわりと熱を帯びた。

「...」

「...」

「え、え、なにその反応!もしかしてリヴァイと何かあったの?!ねえ──!いたた、頭が痛い、ねえどうしたの!?」

血色のない顔を少しだけ輝かせて、ハンジは──の顔へと近づき、鼻を荒くした。そんなハンジに──はドッと冷や汗をかき、すぐに否定するために痛む頭を大きく横へ振った。


「ち、違いますよ!!ただ酔ってて、不甲斐ないとこ見せてしまったなあ、って思っただけで!」

「なーんだ」と口を尖らせたハンジは、──の言葉に納得したらしく、興奮して上げていた腰を椅子へと下ろした。
そんなハンジを見て安堵の溜息を零し、ハンジや周りに迷惑をかけてないか確認すれば、どうやらやらかしてはいないらしい。良かった、と肩の力を落として「じゃあ失礼しますね、」とハンジのもとを去った。

コツコツと足を鳴らして廊下を歩くものの、──の頭の中は先程のハンジの言葉でいっぱいいっぱいだ。
もし仮に昨晩"シテしまった"のなら、最後に会った人が1番可能性が高い。となればべろべろに寄った自分を送ってくれた人と、そうだろうと覚悟を決めていた──は、予想外のリヴァイ兵長だと言われて驚きを隠せなかった。

もはやリヴァイ兵長以外だとしても驚くだろうが、やはり兵長となれば別枠だ。
といっても立場的にでもあるが、それよりも──は前からリヴァイのことを好きだったのだ。もちろん誰にも言ってないし、ひっそりと想っていたのでこの状況も相談できる人はいない。

「まさか、ね...」信じ難い事にそうポロリとつい零すが、──は心臓の鼓動が鳴り止まなかった。ちょっと、ほんの少しだけそうだったら嬉しい、と願ってしまっている自分がいるのも事実だからだ。

暑い体をパタパタと手で仰いでれば、後ろから──を呼ばれる。

「おい、──」

「...!!」

「昨日のことだが、」

「へ、へ、へいちょ、あの...昨日って...」

リヴァイとシテしまったのかもしれない、と考えている時にまさか本人に会ってしまうとは。タイミングが悪すぎる。ボッと更に熱くなった──の頬はもやは林檎のようだった。

「...その様子だとちゃんと覚えてるみてェだな」

「いや、その...」

緊張と、羞恥心からリヴァイの瞳を見れずに、ついキョロキョロと動かしてしまう──に、リヴァイは特別気にするわけでもなかった。

本当に兵長だったんだ、と口をもごもごさせてしまう──に、リヴァイは鼻で笑った。

「そんなボケっとしてると今日の立体機動の訓練で怪我するぞ」

くるりと踵を返したリヴァイに、──は見送ることしか出来ず、暫くその場で頭を整理するしかなかった。