チョロ松くんはちょろい




多分、彼女はアレが近い。

数日前から過剰な食欲に悩まされ、時を選ばず眠そうで、そして今日は頭が痛くて機嫌がすこぶる悪い。
僕が何を言っても喧嘩腰だしじゃあ何も一緒にいる事ないと言えば、なんでそんなこと言うのと理不尽に怒った。
今だって、コタツにむっつりと座り込んで何が気に入らないのか、テレビを睨みつけている。
ただ面白いという感情はあるらしく、若手芸人がくだらないギャグを言えばヘラッと笑いすぐに眉間に皺を寄せた。

きっと彼女の頭の中は酷く混沌としていて、自分がなんでこんなにも機嫌が悪いのかわからないのだろう。
分からないから手の施しようが無くて、更にイライラする。体の中のややこしい物質が、彼女のどんな気分も不機嫌に書き変えているので、外部からのアプローチは全くもって無駄。
僕がいくら甘いミルクティーを入れて挙げようが、頭を撫でてあげようが、キスしてあげようが無駄。
正直こちらも苛ついてくる訳だけど、それすらも許されない。
ちょっぴり一緒にいたく無い気もするが、そんな事を言えば怒るから愛されてるなって感じはしていた。

「あーもう!ごめんねイライラする!」
「しょうがないよ。生理近いんでしょ?」
「一緒にいても楽しくないよね!?チョロ松君に我慢してもらってるのも嫌!」
「ん、まぁ、僕は大丈夫」
「大丈夫じゃないくせにー!」

彼女の妙に人を気遣う部分は残っていて、それが更に起爆剤になるようだ。
駄々っ子のようにイヤイヤといいながら、ふくれっ面の彼女はコタツの天板に顎を乗せる。
ミカン…と聞き取れるか聞き取れないかの声で呟くから、すかさず皮をむいてあげる。
多分これが正解。

「白いところもとってあげるよ」
「ありがとう」
「でも白いところが一番栄養あるっていうね」
「じゃあチョロ松君はパイナップルの皮が一番栄養あるって言われたら食べるの?」
「はいはい、僕が余計な事言ったね」

更に膨れ上がった頬っぺたを見て笑そうになったが、また怒られるだろうと思って口元を抑えた。
彼女の極度に低くなった沸点が時たま愛しくなる時もある。
まるで子供のようだから。
綺麗な橙色のみかんを彼女の口元に運ぶとみかんの具合を一瞥して、まぁいいだろうと言うような顔をしてパクりと食べた。
唇の柔らかい感触に一瞬ドキリとして、まだこんな事にも慣れないのかと自分が恥ずかしくなる。

またすぐにみかんを口に持って行くと次は指ごとパクりと食べられた。
人差し指から親指の付け根を彼女の舌がはい、こそばゆい快感に背中を撫でられるような刺激が走る。
第一関節当たりを甘噛みされ、爪の淵をなぞられる。
僕の様子を伺うように見る上目遣いも、いつもより挑発的に見えてゾクゾクとさせられた。
コタツの低い電子音と指を舐める濡れた音。
脳みそがぬるま湯を漂う感覚に暖房が効きすぎていると思ったが、ストーブはとっくに消していたので自分が興奮しているのだと気づいた。
しばらくは好きなようにさせ、あまりにももどかしいから彼女の小さい口に中指も差し込む。
驚いたように彼女は鼻から抜けるような声を出すから、わざと音が出るように指を引き抜きまた差し込んだ。
舌が柔らかくて暖かくていよいよ変な気分になってきた僕は、人差し指と中指で軽く舌を挟んで撫で上げたところ、彼女に指を思いっきり噛まれた。

「痛い!」
「そういう気分じゃない!」
「え!?この状況で!?」
「チョロ松君の指がみかん味だったから」
「だとしても、もう僕はその、準備万端なんだけど」
「え、知らない」
「はぁ!?知って!」
「やだ!見せないで!」

そういいながらそっぽを向く彼女を勢い余って押し倒す。20数年間生きてきて初めての行動だ。
自分に組み敷かれる彼女を見て妙に体が火照った。
潤んだ瞳が怒っているのかこちらを睨みつけるが、それがどうした。
数か月前まで童貞だった遅咲きの男を煽った彼女が全て悪いのだ。

「変なことしたら別れるから!」
「出来るもんならやってみろ!」
「あーもう!チョロ松君のバカ!」
「バカはどっちだ童貞舐めんな!」
「もう童貞じゃないでしょ!」

ああ、そうだ。
彼女が僕を好きになってくれたおかげで僕はもう童貞じゃないんだ。
途端に嬉しいやら有難いやら色々な気持ちでいっぱいになって、彼女を力いっぱい抱きしめた。
痛いよと弱々しく講義する彼女の頭をくしゃくしゃと撫でると、彼女はクスクスとくすぐったそうに笑う。

「チョロ松君、なんか今日情緒不安定だね」
「あー、生理くるかも」
「そっかーじゃあ仕方ないね」

そういって僕のつむじに優しくキスするものだから、愛しくて仕方がなくなるのだ。
もう、色々止められない。



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