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一定のリズムで合唱する退屈なセミの声を遠くに聞きながら、みょうじは学校で行われる夏期講習に出席していた。希望者だけが参加する任意の夏期講習に出席しているところ、彼女の生真面目な性格を匂わせた。部活動は熱心な練習を必要とするものではなかったので、暇を持て余していたことも参加の理由だ。
窓際の彼女はカーテンが揺れるたびにちらつく夏の日差しに顔をしかめ、制服の襟元をぱたぱたと扇ぐ。教鞭を振るう教師の声と、うんざりするようなセミの声。単調な時間が続く教室で、彼女は荒北からのメールを思い出していた。
『みょうじが言ってた猫探しに行かね?』
昨晩、社交辞令のようにお互いのメールアドレスを交換した。正直、彼女は荒北からメールが届くとは露ほども思っていなかったので、何度もメールの送信者を確認することになった。ましてや、猫探しの勧誘メールとは、まったく想像していなかった。
彼女はノートのページをめくる。真っ新な紙面に、彼女は小さく猫の絵を落書きした。おおよそ、彼の予定もこんな感じなのだろうと。あてのない猫探しを、しようと思うくらいには暇なのだ。
確かに、彼女は昨夜、公園に向かう途中で猫と目が合い、思わずコンビニで猫のおやつを買ってしまったので、せっかくだからあの猫に餌をあげたい、というような事を言った。初めての夜遊びに興奮しきっていたから記憶は曖昧であるが、確かにそう言った。しかし、それをわざわざ引き合いに出すということは、存外彼は優しいのか、遠回しな嫌味なのか、彼女には判断が付けられなかった。
「ねぇ、なにニヤニヤしてるの」
前の席に座る彼女の友達の美穂は、追加で配られたプリントを後ろに回しながら、口の横に手を当て小さな声でいった。彼女は何かを期待する上目遣いでみょうじの様子をうかがう。
「い、いや、べつに? ニヤニヤなんてしない」
「そ〜う? してたと思うけど……あ、ところで、明日の件なんだけど」
「あ、いくよ。奈々子たちも行くんでしょ」
美穂は頷く代わりに歯を見せて笑うと、「詳しくはホーカゴ」とみょうじの机に走り書き、ささっと前を向いた。みょうじは彼女の走り書きに視線を落としながら口元を抑える。筆箱に入った小さな手鏡をこっそりと覗いてみたが、彼女は自分がニヤニヤしているようには思わなかった。
荒北から来た不思議なお誘いメール。今晩も予定のない彼女にとって、またとないお誘いであることは確かだ。朝からの忙しさにかまけて、まだ返信はしていなかったが授業終わりに返事をしよう。そう思いながら、今度は自覚できるほどにやけてしまいそうになる口元をシャープペンのノック部分でつつく。
両親や親戚には申し訳ないと思ったが、心躍るような夏の空気に浮き足立っていることを彼女は素直に認めた。授業終了まであと二十分。長針がかちりと一歩進んだことを確認すれば、目の前の数字と対峙した。
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