09
「・・・あまり芳しくないね、」
検査結果を見ながら先生は眉を顰めた。
・・・ここ最近、採血結果が安定していなかった。でも今までもたまにあったし、すぐに落ち着いたから大丈夫だと思っていたけど。今回は全然落ち着かない。
私はただ一言「そっか、」とだけ呟いた。
「薬と、点滴の量増やすからね。・・・ごめんね」
次の日から服薬が普段の二倍になった。薬だけで結構お腹いっぱいになる。それから、点滴も増えた。
そして私は、約10畳の広くて狭いこの白い空間にのみ生きることになった。
・・・基本的には本を読むくらいしかない。暇を持て余しすぎてガラスに顔を引っ付けて外の様子を眺めたりしていた。
「貴女も独りぼっちで寂しいよね」
コンコンっ、と丸いガラスの器を軽く指先で叩く。するとゆらりと彼女は向きを変える。向きを変えるとともにふわっと揺れるその白い尾鰭は太陽の光に当たって綺麗に見えた。
先生が私の日課の金魚の餌やりができないのがつまらないだろうと彼女だけこの金魚鉢に入れて連れてきてくれたのだ。
「・・・狭いしね」
あ、
彼だ。・・・・
窓ガラス越しに煙草を吸う彼が見えた。そう、観音坂さん。
ここのテラスの一部は喫煙所にもなっているのでよく喫煙者たちがやってくるのだ。先生は副流煙になるから喫煙エリアには近寄らないようにと言われていたのだけど 服に染み付いた匂いだけでどの銘柄をその人が吸っているのかということが分かるようになった。
だからこの前来た時もハイライトだろうな、と思っていたけれど 今見て確信した。やっぱりあのパッケージはハイライトだ。
気づいてくれないかな、なんて思いながら彼の姿を見ていた。煙草を吹かす彼の姿はなんだかサマになっていた。大人を感じた。自分も吸いたい、とはけして思わないけれども。
吸い終わり、吸い殻を設置してある灰皿に捨てた後此方に向かって歩いてくる彼にぎくりとしてすっと頭を引っ込めた。
すると、コンコンと窓をノックされたのでちらっと顔を出すとなにか言われた。けれど割と分厚いこのガラスでは全然聞こえなくて、分からないと首を傾げジェスチャーで聞こえないよ、と伝えた。
すると伝わったのか 手帳の一部を切り取りサラサラとなにか書き窓に押し付けた。
<視線が痛い>
なるほど、と彼の顔を見ると苦笑い。
ごめんね?と手を合わせるとまた 紙になにか書いて見せた。
<なんで隔離されたんだ>
トントン、と心臓を指差してから数値が悪いの、とスッと手を下げバツを作る。言い忘れていたが私は心疾患なのです。
<そうか。お大事にね。>
こくりと頷き手を振ろうとすると もう一言付け足して見せた。
<また来るよ>
その一言だけで私はいろいろと期待してしまったのです。