05

「名前さん」
「はい!」
「これは一体なんでしょうか」
「イチゴジャムです!!」

・・・正直自宅マンション前に来た段階で嫌な予感はしていた。この世のものとは思えないえげつない臭いがしていたから。
そして、自宅に近づくにつれて強まるそれに確信した。俺の家からしているものだと。震える手でドアを開けると視界が歪み始め、そして「おかえりなさい!」と新妻のようにバタバタと現れた名前。その手に持たれたモザイク処理が必要なソレが目の前にきたとき俺は膝から崩れ落ちた。
臭いというか立ち込める煙が目に染みて涙が止まらなかった。残業終わりの身体に鞭打ち這いずりながらキッチンに向かいラップを探し出しソレを密封した。

そして冒頭に戻る。

「げほっ、(喉にくる) これなに混ぜたんだ」
「えっと、赤いものは一通り入れてみたんです。」
「というと?」
「うーんとトマト、一味唐辛子、タコ、タバスコ、梅干し、塩辛、鷹の爪(以下略)・・・あ!ちゃんと砂糖も入れたのです!」
「そのラインナップで砂糖意味ないだろ!」

なんか全体的に辛味成分が効いてるやつばっかだな。
というか絶対に組み合わせちゃいけないような奇跡のコラボレーションに頭を抱えた。

「・・・ごめん、なさい。」

しゅん、と眉を下げて申し訳なさそうな名前がぽつりと呟く。
「独歩さん、いつもお仕事忙しそうで、辛そうで・・・それでご飯を食べると幸せになれるので料理してみようと思ったのです。」

俺の家にあった本はもちろん、彼女のために図書館で借りてきた本に料理本の類はなかった。それでも彼女なりに俺に尽くしてくれようとしたのだろう。
名前の世界はこの狭いマンションの一室なのだ。得られる情報も少ない。

「・・・名前、怒ってないよ。ありがとう。こんな俺にここまでしてくれる子いないから・・・これだけで幸せ、です。」

そう言うと名前は目を輝かせて薄っすらと滲んでいた涙を拭った。そしてぐすっと鼻をすすりふにゃりと笑う。かわいい。

とは言え・・・このモザイク処理が必要なこれは食べることができない。一二三含め、周囲に味音痴のレッテルを貼られた俺でさえこれを食うことは危険だと本能が警鐘を鳴らす。

そもそも味云々より嗅覚的にも視覚的にもやばい。

触ってみるとゼラチン質、よく分からないが化学反応が起きて・・・化学反応がなにかしら起きてこうなってるのだろう。




後日、一二三に料理本について聞くとオレ○ジページをおススメされたので買ってくるようにした。
一二三にはついに料理をするようになったのか、嬉しい!と母親のように泣かれた。