07
私に繋がっている沢山の線。それは、点滴だったり、電極だったり。私の生命を維持するこれらはずっとずっと私に10年以上は纏わり付いているのだ。
私が動けばそれらもずりずりと動く。それでも私の行動範囲はこのフロアまでなら大丈夫なのだ。
心拍数や血圧の情報を飛ばす電極はワイヤレスにもできるので、少しの間で、このフロアまでなら平気。
そう、このフロア。この病院の1番上。
テラス脇にあるこの病室は、たまに温室かなにかだと思って小さい子が入ってくる。
私も暇なので「いらっしゃい」と声を掛けるのだがたくさんの線が這う真っ白なこの病室に戸惑い、逃げて行く子が多い。
私の容姿も問題なのだろうか。長く長く伸びすぎたこの髪に、病的なこの白い肌、白い服。パッと見外国の幽霊みたいだもの。
「名前さん、調子はどうかな」
「神宮寺、せんせー・・・」
この病室を訪れるのは基本的に担当ドクターの神宮寺先生と看護師長の元木さんくらいなのである。
ちなみに肉親は海外で仕事をしているためもう何年も見ていない。メールだけはちょくちょく来るし、月1で手紙が数冊の本とともに送られて来る。
いつもの回診、聴診器で胸の音を聴かれる。
「せんせー・・・今回はね 『若きウェルテルの悩み』が送られてきたよ」
「それは悲劇だね。私も読んだことがあるよ。」
「そうなんだ。まだ流し読みしかしてないんだけどね」
流し読みした内容的に、この物語は叶わぬ恋をして主人公が自殺するらしい。
「自殺するくらい、人を愛すること。先生にもある?」
「・・・そうだね、秘密にしておこうかな。」
「ふぅーん・・・」
「きっといつか名前さんにもそんな人ができるよ。」
ぽんぽんと頭を撫でられる、これは子ども扱いだ。
先生とは私がまだおっぱいが全然膨らんでない頃からの付き合いだ。
先生は前担当ドクターから私を引き継いでもらってるのだ。私のような症例は難しすぎるから並のドクターじゃダメなんだってさ。
「そういえば名前さん。あそこの池に新しい金魚が入ったよ。1匹だけ違う種類だからすぐ分かると思うよ。」
「え!本当に!?見たい見たい!!」
「待ちなさい、注射を打ってからね。」
「え〜、分かったー」
元々、私をここに置いてくれたのは神宮寺先生なのだ。テラスだけでも私が動く範囲が広げればと。そのテラスもちょくちょくいじってたりと先生は考えてくれた。
めちゃくちゃ痛い注射を打ってもらい池を覗きに行く。
「わ〜〜・・・ひらひらしてる。きれーい・・・」
先生の言う通り新しい金魚は1匹だけ違う種類で、ひらひらとドレスのような尾鰭を揺らして泳いでいる。彼女の『白く』煌めくその身体はまるで本で見たウエディングドレスのような。
水面に指で触れると彼女は私の指をパクパクと啄む。
「名前さんにこれあげようかな」
先生はそう言うと私に金魚の餌を手渡してくれた。先生から金魚の給餌係として晴れて任命されました。
パラパラと餌を撒くとその餌を金魚達が必死に食べている。勿論彼女も少し群れから離れた所で餌を食べていた。その様子を見ている私の髪を後ろから先生が結わく。しゃがみ込むと普通に地面についてしまうから。先生も髪が長いからゴムはいつも手首にかかっている。
「せんせーラプンツェルにしてー」
「うーん、難しいなぁ。ポニーテールで今回は勘弁してね。」
あっという間に私の髪はポニーテールに纏め上げられた。「ありがと」と軽くお礼をして再び金魚に集中した。
そんな頃だっただったんです、貴方が私の元に現れたのは。