巡り会う

「私には、なさなければならない事があります。あのバカな弟を────兵部京介を、止めなければいけません。」


「そのために私は、力を温存しなくてはなりません。────来たる時のために。」


「だからごめんなさい。私も・・・京介も、貴女と一緒には居られないの。」


「なまえ、貴女の予知た女の子たちが10歳になる頃に────「ザ・チルドレン」に加入しなさい。」


「・・・わかりました、不二子お姉様。」


「なまえ、未来を見つめなさい────。あなたは、未来を見つめるのよ・・・。」















「・・・・。(ああ、そっか”今日”か。)」



カプセル型の機械の中に横たわっているなまえ。
機械に繋がれたまま、なまえはぼんやりと思考を働かせた。

横たわるなまえの被っているヘルメットのような装置からはいくつかのコードが伸び、カプセル型の機械のそばに置かれているモニターへとつながっていた。
まだ10歳(正確に言えば、それは見た目年齢だが)になったばかりの、なまえの頭に大きすぎる装置は、なまえの視界の上半分を覆ってしまっていた。
モニターには、なまえが予知したイメージが映し出されている。



「それが終わったら、こっちの懸案よ。」



高らかなヒールの音に相応しい、高圧的な声がなまえへと投げかけられる。
肩口あたりで切り揃えられた髪が、ヒールの音に合わせてゆれる。
メガネの奥の瞳が、細められた。

なまえは、横たわった姿勢のままピクリとも動かずに、小さく口を震わせヒールの音の主の名前をつぶやいた。



「須磨主任、」

「まったく、これだけ高超度の予知能力を持っているのに、なんで現場になんか────しかも、あのクソガキたちと同じチームなんて。バベルの連中は、本当に何を考えているのかしら・・・。」



須磨は、なまえが横たわる装置の側で足を止めると手に持っていた書類の束を、雑な手つきでなまえへと放り投げた。

なまえは、念動力で書類の束を受け止めると受け取った手で書類を透視た。

すべて何年か先の出来事であり、バベルに所属する予知能力者では答えが出せなかったものばかりである。

なまえは装置を頭から外すと、須磨へと真っ直ぐに視線を向けた。



「・・・約束の数まで、あと少しだね。」

「そうね。」



小さく、だが確かな響きを持って発されたなまえの言葉。

手元の携帯へと視線を落としている須磨は、それにふたつ返事で答えた。

何か覚悟すら感じさせるなまえの雰囲気とは、対照的に須磨からは笑みすら浮かびそうな気軽さしか感じられない。



「・・・(政府で持て余していた懸案を予知すれば、代わりに薫たちへの対策は緩める約束────。この女がその約束を守ってくれる確証はない────けど、僕に今できることはこれくらいだから。)」



この女を排除する訳にはいかない。

この女の先に、「失ってはいけない運命」があるのだから。
「ザ・チルドレン」の、薫たちのために、そうすることはできない。

だから、だから今は、耐えなくてはならない。

なまえは自らの中で思考を完結すると、再び装置を頭に被り、カプセルの中へ横たわった。



「もうすぐ、出動命令出るよ。」

「そう。当然だけど、あなたは待機。こうするしか、あなたは役に立てないのだということを、よく覚えておくのね。」



須磨は眉間に力を込めて、なまえへ視線を突き刺すと踵を返して部屋を出た。

なまえはただ真っ直ぐと、部屋から出て行く須磨の後ろ姿を最後まで見つめていた。

装置となまえしか存在しない部屋に、再び静寂が訪れる。



「(出入りは決められた時間のみ。それ以外の時間はずっと予知。・・・まるで、監禁されているみたいだな・・・。昔に戻ったみたいだ。お姉様は、「未来を見ろ」と言っていたけれど─、こんな繋がれた状態で何を見ろって言うんだ──。)」



なまえはひとつ息を吐くと、首元に手を当ててゆっくりと目を閉じた。

細く白いなまえの首元には、大きくどっしりとした金属でできた首輪がはめられていた。
黒光りするその首輪は、おしゃれなどが目的で嵌められていないだろうことが伺える。
顎下の真下に丸く光りそうな部分があるため、何かの装置かもしれない。



「(薫たちにとっては「運命の出会い」だとしても、あんな若造が、僕にとってなんだっていうんだ───)」



なまえの瞳から、光が消えてゆく。

予知課に関する施設内の一角にありながら、誰も訪れることがない部屋。

なまえは膝の上に置いていたヘルメットを静かに脇に置くとゆっくりと立ち上がった。



「でも・・・、「あの時」よりも、僕にだってできることはある。」



なまえの目には、色はなかったが微かに、だが確実に力は残っていた。

なまえは瞬き1つすると、自らの意思によって部屋を後にするのだった。






















バベルの施設の一角、局長室に興奮した桐壺の声が響き渡っている。



「柏木くん!ワシ、さっきのヤツ気に入ったヨ!あいつを「ザ・チルドレン」の指揮官にするのはどーかね!?」

「そうですね。彼なら、もしかしたら・・・。」

「それって「皆本光一」のこと?」



空間の歪みの後、突然現れたなまえ。

予告なく現れたなまえに、桐壺と柏木は体を仰け反らせた。
なまえは、表情もぴくりと動かさず2人を見つめていた。



「なまえく──ふぐっ!」



驚きのあまりに、かなりの大きな声が出た桐壺の口を、なまえは念動力で押さえる。

なまえは口元に人差し指を当てて、静かにするよう指示を出すと、変わらぬ無表情で口を開いた。



「須磨主任行ったばかりでしょ?バレると大変だから静かに。」

「ど、どうやってここへ────!?予知課のところに居るはずじゃ・・・!!」

「まあまあ、あんまり深く考えない考えない。どうせ「皆本くん」によって、このリミッターも改良されちゃうんだからさ。」



柏木の言葉に、ひらひらと手を振ったなまえは揶揄するように皆本の名前を口にする。

なまえの口から出た思わぬ名前に、桐壺と柏木は瞬時に体の動きを止めると素早くなまえの前へと近づく。
近づくというより、ほぼ顔を詰め寄らせたに近い距離だが。



「貴女が名前を記憶しているってことは────」

「なにか予知たのかね、なまえくん!」

「近い近い!」



至近距離で圧のある表情で見つめられたなまえは、気だるそうにまた手を振った。

大切な「ザ・チルドレン」の指揮官が、バベル内から志願者が出ないせいで、政府から派遣された須磨主任になっている現状に2人とも対策を練りあぐねていたのだ。
違う組織から派遣されている須磨主任には、局長の命令を聞く義務がないため、まだほんの10歳の子供たちに自分で外せない首輪、電気ショックを与える装置を使用されている現状に、為す術がなく、よほど悔しかったのだろう・・・。

なまえは脳裏で、2人の心情を浮かべると一つ息を吐いた。



「今日、「ザ・チルドレン」を監視しておいたほーが良いよ。」

「!!よし!柏木くん!すぐに、特務エスパーに連絡を────むぐっ」

「そういうのはいいから。」



勇み奮い立ち、拳を握りしめた桐壺の口元を、なまえはまた念動力で押さえると肩を落とした。

直情的で、桐壺の良いところでもあるのだが、昔から全く変わらない。
変わらないことが良いのか、悪いのか、なまえには判断がつかなかったが。



「柏木くんが、皆本くんのマンション張っていれば良いと思うよ。」

「!なるほど・・・!そういうことね・・・!」

「え?なに?どういうこと?」



なまえの言葉の意味を、即座に解した柏木は力強く一つ頷いた。
わからなかった桐壺は、気の抜けた顔でなまえと柏木を交互に見つめている。

なまえはほんの少し、口の端だけで微笑む。



「気に入ったのは君たちだけじゃないってことだよ。(まぁ、薫たちは気に入った、というより利用しようとしているだけなんだけど・・・)」



柏木は瞬時に深く考えを巡らせると、わずかに下げていた顔を上げて、なまえへと口を開いた。
わずかに弧を描いた口元。何か謀略を組み立てるのに成功したようだ。



「高超度エスパー管理法違反──、のあたりが有効かしら。」

「未成年略取誘拐容疑───なんていうのもありえるよ?」



まるで、どこかの闇社会の取引のような雰囲気を漂わせながら、柏木となまえが低く笑う。
その何か嫌な予感しか感じられない2人の雰囲気に、桐壺は背筋を震わせた。



「な、何か策があるんだネ、柏木くん!」

「ええ。」

「まあ、策というより・・・ぶっちゃけそのまま「ザ・チルドレン」見張ってたら面白いものが見れるから───、あとは好きにしたら良いと思うよ。」

2018.05.17

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