邂逅

柏木となまえが、謀略を組み立てていた数時間後。
皆本のマンションに襲撃した、ザ・チルドレンの3人は、皆本を脅して須磨によってつけられたチョーカー型リミッターの、電気ショック機能を解除できないか尋ねていた。



「・・・どう?」

「できないことはないと思う。ただし───」



紫穂の問い掛けに、葵のチョーカー型リミッターを確認の為に、葵の顎へと添えていた手を離す皆本。

視線を紫穂へと移した皆本は、苛立たしげに自分へと向けられているスタンガンを睨んだ。



「まずそいつをひっこめろ。言ったろ。僕は脅すのも脅されるのも好きじゃない。」

「・・・・・」



紫穂はスタンガンを構えたまま、無言で皆本を見つめ返した。

ソファの上で、腕を組み眉を寄せて様子を静観していた薫の眉が更に跳ね上がる。



「てめー誰に向かって────」

「大丈夫よ薫ちゃん。」



紫穂は皆本へ向けていたスタンガンを下ろすと、皆本の腕に軽く触れ、薫へと少し微笑んだ。
どうやら接触感応能力を使用したようだ。



「この人、怒ってるけど私たちに同情もしてるわ。バベルに通報したりしないと思う。」

「!!勝手に心を読むな!!」

「読むゆーても表面的にだけやん。ウチら今、リミッターついてるし。」

「そんな言い訳が通用するか!!こっちは普通人なんだぞ!!」



紫穂と葵の言葉に、語尾が上がっていく皆本。

紫穂と葵は、そんな皆本も無感情で見つめている。
組んでいた腕を解くと、薫は皆本へと言葉を投げつける。



「だからって紫穂と葵にこんなものつけるなんて許せない!!なまえのことだって────!」

「?なまえ?」



体がソファから飛び出しそうなほど、勢いよく前のめりになっていた薫の視線が、少し下がる。
悔しさ、後悔、憤り。そんな感情が薫の胸を渦巻いていた。

不意に飛び出した、聞き覚えのない名前に皆本は眉を潜めた。

口を曲げて、黙り込んでしまった薫の代わりに紫穂が口を開いた。
紫穂の瞳には、少しだけ悔しそうな色が滲んでいた。



「みょうじなまえ。・・・私たちと同じ、「ザ・チルドレン」のメンバーの一員よ。」

「・・・?超度7は日本では、3人だけなんじゃ──?」

「なんや知らんけど、なまえのことバベルでも知らんやつ多いみたいやで。」

「(元々極秘の存在の超度7の中でも、更に極秘な超能力者────、何か事情があるのか?)」



ザ・チルドレンの一員だという、みょうじなまえの事へと思考が移る皆本。

紫穂は、短く息を吐くと冷えきった眼差しを皆本へと向けた。



「・・・須磨主任が最初に目をつけたのよ。なまえちゃん、超度7の予知能力者だから。」

「超度7の・・・予知能力者!?(予知能力は超能力者の中でも比較的多い能力だけど、それは低超度の話────、超度7の予知能力者の存在なんて聞いた事がない────!)」



驚きのあまりに、固まる皆本。
超能力についての研究を重ねてきた身でありながら、出会ったことのない話に徐々に目が開かれていくのを感じた皆本。

薫は、須磨主任によってなまえと別れさせられた当時の事を思い出したのか、拳を強く握り震わせた。



「あのババア────、予知能力以外のなまえの超能力を全部リミッターで制限して、どっかに連れてきやがった!(なまえのやつ、いやに大人しくアイツの言うこと聞いてた。なんであたしたちに頼ってくれないんだよ────!)」

「(しかも────複合能力者なのか!?ひょっとして、超能力を悪用されてるんじゃ────)」



薫の脳裏では、仕方がない──と諦めた表情で須磨主任からリミッターを受け取るなまえの姿が浮かんでいた。

なまえは、あらかじめ予知したこの未来を受け入れていたのだ。

皆本は、追加されたなまえの情報に冷や汗が湧き上がるのを感じていた。

複合能力者は低超度であれば、珍しい事ではない。
だが、超度7の超能力者チームに所属する超能力者だ。他の超能力も超度が高い可能性は十分ある。
予知能力だけ超度7で、他の超能力の超度が低い可能性は充分にあるが───、可能性を考えただけでも恐ろしい存在である。

皆本はぶるりと、身体を震わせた。



「・・・?どっかって、任務以外の時間とかは、君たちと一緒に生活してるんじゃ────」



思考が一巡した後、皆本は新たな疑問が湧く。

特務エスパー、国に保護されている超度7でも、任務外の時間は存在する。
検査だったり、訓練だったりと内容は様々だが────プライベートの時間、人間が生きていく上で必要な食事や睡眠の時間は必要な筈。

同じく国に保護されている身であるなら、バベル内で生活しているのが普通だと、皆本は推測した。



「須磨主任が、私たちの担当になってから一度も会ってないわ。」

「任務の現場に行くのも、ウチら3人だけや。」



紫穂と葵は、固い表情で答えた。

重くなった部屋の雰囲気に押されるように、皆本の喉が鳴った。



「せめて紫穂と葵の分だけでも、解除して!この2人に電撃なんかしたら・・・、あたしは一生、普通人(ノーマル)を許さない・・・!!」

「・・・・・・」



10歳とは思えない薫の重く憎しみのこもった言葉に、皆本は何も言えずに黙ることしかできなかった。

皆本は息を吐くと、3人が部屋に押しかけてきてからずっと浮かんでいた気持ちをこぼした。



「僕じゃなくて他の誰かに相談しろよ。親とか。」

「ムダよ。須磨さん、私たちに関しては全権があるのよ。」

「口がうまいから、親なんかとっくに丸め込まれてるわ。」



先ほどと同じように、紫穂と葵の返答を受けて皆本は口を閉じる。

薫は紫穂と葵の言葉を受けて、表情を変えた。
抑えようのない気持ちを無理矢理抑えて、それでも少しだけ────抑えられなかった、ほんの少しの悲しみが浮かんだ表情だった。



「(このカオ・・・・・、あのときの────)」



皆本は薫の表情を見て、初めて薫と出会った屋上での出来事を思い出した。

1人、誰も居ない屋上で葉っぱを念動力で動かしていた薫。
そのときの表情と、同じだった。

あの時も、同じような気持ちだったのだと皆本は悟った。



「(そうかこいつら・・・仕方ないこととはいえ、無条件で守ってくれるのはお互いしかいないんだ。それであんなキバむいて、それで余計に守ってもらえなくなってんだよ。)」



皆本は脳内で、必要以上に爪や牙を立て、全身の毛を逆立てて威嚇をする野良猫のような3人を想像したため息をついた。



「(・・・ったく、誰かがなんとかしてやればいいじゃんか。なんで僕が────)」




超度7の超能力者など、できれば誰も関わりたくない厄介な事柄だろう。
ただ、皆本は今回だけなら、手助けしても良いかと思い直すのだった。

2018.06.04

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