いつだってディスティニー


事件現場の化学工場の上空にたどり着いた、桐壺たちのヘリ。

チルドレンが乗っていたヘリが地面に墜落した残骸を見て、騒ぐ桐壺。
一見したところ、報告があったように誰も居ないようだ。

皆本は真剣な表情で、PCに登録された化学工場のデータを確認し、考えついた仮説を伝えるために口を開く。


「局長!このデータによると、落下地点の近くにはメンテ用の地下通路があります。」

「なに!?」

「全員生存の可能性があるとすれば、そこへのテレポートしかありません。応援のエスパーが到着次第、そこを調べさせてはどうでしょう?」

「・・・・よし!!だが待ってなどいられん!!」



桐壺は皆本の仮説を受け入れると、どこからか酸素マスクを取り出し、皆本に握らせた。
自らもマスクを顔に当てると、500mlのペットボトルの水を頭から被る。



「行くぞ!皆本クン!!レッツゴー!!」

「え!?いや局長気をたしかに!!おかしいよ!?それ正常な判断じゃ・・・あれ?なんでこれ僕に!?」



目を丸くして、いつのまにか握らされていた酸素マスクと桐壺を交互に見る皆本。

当然のようだが、桐壺に皆本の訴えは通用しない。

桐壺は、抵抗する皆本の手首を固く握るとヘリの後方ハッチから炎上する現場へと飛び降りようとしている。



「ワシの小さな手では何もできなくとも、力を合わせれば何かできるかもしれんからだ!!一緒に来い!!」

「ダメーーーーッ!!死ぬから!?死ぬ────」

「はい。ストップ。」



もうあと一歩でヘリから飛び降りるタイミングで、少し前に聞いた少女の声が通る。

ヘリ内部に現れた少女────なまえは、片手をかざし桐壺と皆本を固定する。
なまえは、常識から外れた行動を連発する桐壺へと半目を向けた。



「なまえクン!」

「せめて僕を連れて行ってよねー。」



なまえの念動能力で固定されたまま、皆本は強張っていた体の力を抜いた。
パラシュートなしのスカイダイビングは余程こたえたようだ。



「し、死ぬかと思っ「ま、降り方は変わんないけどね。」



緩んだ体から出た息と共に、出た皆本の言葉の途中で、なまえの念動能力が解除され引力に引かれるまま、皆本と桐壺の体が空に投げ出される。



「わああああーーーーーーっ!!」

「万が一、僕が見てないところで死なれても困るんだからさー。」



地面に直進する桐壺と皆本の後を追って降りてきたなまえと九具津。

なまえは、普段と変わらないトーンで桐壺へと話しかけている。
なまえは超能力があるので、地面と激突する心配がないので、恐れなくても当然といえばそうなのだが。



「それ落ちながら言うことか!?おかしいよ!?この組織、おかしいって!!」

「あ、局長もうちょっと右に落下したら地下通路への入口があるから軌道修正するねー。」

「ああ!頼むヨ!!」



落ちながら叫ぶ皆本を尻目に、なまえは桐壺が態勢を変えやすいように念動力でサポートをする。

桐壺は皆本の手首を掴むと、なまえの念動力に合わせて地面に着地する姿勢を取った。

九具津は、皆本が地面に叩きつけられないように胴体へと補助の為に腕を伸ばす。

一連の動作はものの数分の出来事であり、皆本が混乱を収める前に、地面は目前へと迫っていた。
桐壺は地表をしっかりと見据え態勢を整えて、両足で力強く、地面に着地した。少しの動揺も、恐怖もない力強い着地だった。

周囲を轟かすはずの着地音は、燃え盛る火の中へと吸収されていった。

自らの能力でゆっくりと着地したなまえは、取ってつけたような笑顔で3人へと拍手を送った。



「うわー、念動力で衝撃を和らげたとはいえ、流石だねー。」

「拍手してる場合じゃ!!あちちっ!こんな場所じゃ人体なんか一瞬で────」

「だから────そうならない為に来たんじゃん。」



着地と同時に慌てて酸素マスクをはめた皆本。

なまえは大きく両手を広げ、皆本を横目に口元を僅かに上げた。
なまえの念動力により、4人を中心に渦巻く風の壁を生み出される。

渦巻く風により炎は退けられ、さらに九具津の頭部より噴射される冷却剤により炎の熱気が抑えられた。



『大丈夫です。冷却剤を噴射中です。酸素マスクと防火服を脱がないでください。』

「!!あんた何!?便利ロボット!?」

『…僕もエスパーですよ。いずれお会いできるでしょう。』



様々な機能を披露する九具津(ロボット)に、皆本は声を上げずにはいられなかったのか九具津の顔を間近で見つめている。

なまえは九具津へと、一瞬だけ視線を向けて、すぐに桐壺へとまた視線を戻す。



「…冷却剤ありがと、「九具津」さん。まぁでも、僕こんな出力維持できないから、早めによろしくね、局長。」

『こちらも同じくです。局長、急いでください。冷却剤が尽きます。』

「わかっとる!!ふんぬーーーーーーっ!」



2人から急かされてすぐに、地下へと通じる重たい扉を、己の腕力のみでこじ開けた桐壺。
蓋を入り口のそばへと放り投げると、桐壺は迷わず地下通路へと飛び込む。



『中に入って!!』


九具津は、傍に立っていた皆本を地下通路へと蹴り落とし(なまえも同じく蹴り落とそうとして睨まれて)三人が中に入ったことを確認すると、先ほど桐壺が放り投げた扉を持ち上げた。



「き…君!?」



完全に扉が閉められて薄暗くなった通路。

皆本は、劫火に包まれている地上に残された九具津が頭から離れないのか、地上へと続く扉を見つめている。

なまえは壁に手を沿わせ目的のスイッチを見つけると、通路の電気をつけた。
ほのかに照らされる地下通路。地上の業火が嘘のように静かだった。

桐壺は、扉を見続けている皆本を一目見ると声を強く発した。



「彼のことなら心配いらん。行くぞ!!」

「あれ、エスパー!?合成能力なんですか!?あと、あなたも普通人とは思えないよ!?」

「そう。彼は、合成能力者。人型の依代に意識を焼きつけて念動で遠隔操作ができる。あと局長はちゃんと普通人だから。普通じゃないけど。」

「なーに、ただの火事場の馬鹿力だヨ。」

「(それ、すげえバカってこと!?)」

「まあそうなるかもね。」

「人の心を透視なよ!?と、とにかく探すっていったって、ろくな装備も作戦もなしにどうやって───」



動揺を隠せないまま、桐壺を見つめていた皆本の言葉は目の前の通路の角より現れた少女たち───ザ・チルドレンの出現により、中途半端な形で中断されることとなった。



「わ…!?局長────!!」



ばったりという表現以外はないくらい、偶然かつ必然にザ・チルドレン3人と皆本たちは地下通路で顔を合わせたのだ。

皆本と桐壺は、これまでの必死な表情が一切削ぎ落とされ、とても間の抜けた表情となった。



「───と、関口!?」

「皆本だ!!ひと文字も合ってねーぞ!!助けてやったのに覚えてないのか!?」



間の抜けた表情を一転し、チルドレンへと激しく反論する皆本。

だが、チルドレンの関心は皆本のそばで佇んでいるなまえへと一瞬にして移った。



「「「!!なまえ(ちゃん)!!」」」

「はろー、元気だった?君たちが面白そうなことするのが予知えたからさ、来ちゃった!」



ゆるく笑い、手を振るなまえ。

なまえへと詰め寄ったチルドレンは、口々と声を荒げる。
息が掛かりそうなほどの近距離に、なまえは意識を薄めた。



「来ちゃったって、あんた、超能力は使えなかったんじゃ────」

「そうよ!動けるなら連絡くらいくれたって───!」

「あのババアに何かされたんだろ!?大丈夫だったのか!?」

「葵───紫穂───、薫────。」




口調は強いが、言葉や表情などの端々から感じられるなまえを思う気持ちが溢れている。

意識を再び3人に戻したなまえは、数度瞬きを繰り返すとゆっくりと表情を緩めた。
そして、皆本と桐壺へと手のひらを翳し、力を込める。



「んじゃ、この2人は置いて別なとこ行こっか!」

「え?うぎゃッ!!」



なまえの念動力により、通路の壁へと叩きつけられる皆本と桐壺。
壁にめり込むほどのパワーで叩きつけられた2人は、衝撃に動きを取れない。

なまえは、チルドレンへと向き直ると先ほどと違った笑みを浮かべた。



「逃亡するんだろ?僕も一緒に行く!」

「逃亡!?」



明るく放たれたなまえの、不穏な言葉に埋まっていた壁から顔だけ出した桐壺は驚愕の表情を浮かべている。
壁への埋まり具合が、皆本よりも桐壺の方が深いため顔より下を抜け出すのは厳しそうな雰囲気である。

しかし、驚愕したのは桐壺だけではなかった。
極秘の計画をバラされた薫たちも、衝撃に表情を固くしている。



「なまえちゃん!しっ!!」

「大丈夫だよ紫穂〜。僕が居るんだから逃げ切れるって!」



紫穂に険しい声音で窘められても、なまえはへらり、と微笑んでいる。

そんななまえの態度に薫はひとつ息を吐くと、険しい表情のまま壁に埋まる皆本と桐壺を指差す。



「で、こいつらはどうやって来たんだ!?」

「…あまり参考にはならないわね。」



なまえから離れて、皆本の足に触れた紫穂が呆れと驚きが入り混じった微妙な表情を浮かべる。

なまえと九具津の補助があったとはいえ、ヘリから生身で業火の中へ飛び降り、扉を素手でこじ開ける────そんなシーンを透視てしまったのだから、紫穂の表情も仕方ないだろう。

なまえはまた、ゆるく笑う。



「あ、うんごめん。同じルートは使えないと思う。とりあえず、葵に安全な場所に瞬間移動してもらえば?」

「うーん、空間ノイズのない安全な場所が見つからへん…。」



頬に指をついて、感覚を研ぎ澄まし宙を見上げる葵。

同じく瞬間移動能力を持つなまえも、目を閉じて集中する。
何か感じたのか眉をピクリと動かしたなまえ。ゆっくりと目を開けると感じた感覚を葵へと伝える。



「…とりあえず安全そうなこっちは?」

「せやな!」



葵がなまえへとひとつ頷くと、葵の瞬間移動能力により4人の姿は廊下から消えていった。

2018.12.09

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