ここから始まった

「とりあえず、ここから脱出しよう。君たち、超能力は使えそうかい?」

「ええ。」

「…そういえば、なんともあらへん。」



意識の戻った薫を支えながら、自らの体を見た葵が首を傾げる。

葵の言葉に、紫穂は、はっと短く息を吐いた。



「!そういえば!」



地面に倒れ伏す前に、薫が念動能力で受け止めていてくれたかもしれないが、気を失うほどの電撃を受けたにも関わらず、体は健康そのもののよう。
そして、外傷だけはなく、脳や臓器にもダメージはない。

自らの体と薫の様子を透視た紫穂の視線が、皆本の腕にいるなまえへと向く。



「!なまえちゃんの生体コントロールね・・・!」



皆本の胸へと頭を保たれるなまえは、未だに意識が戻らないようだ。
その瞼は、力なく降ろされている。



「!この子、そんなことまで…!?」



なまえの能力について、詳細を知らない皆本は驚き、目を瞬かせる。
生体コントロール────、能力を保持している超能力者自体の数が少ない筈。

瞬間移動能力・念動能力…、あといくつ、一体この少女は能力を所持しているのか…。
皆本の額を冷たい汗が流れていく。



「なまえ…、」



目を覚ましたばかりの薫が、悔しそうになまえを見た。



「(なまえはいつも、気づけば自分たちを守っていて、同じチームなのに、そうじゃないみたいに振る舞うんだ。そりゃ…最初よりは敬語も減って、態度も軽いものにはなったけど…。今回のことだって…、)」



薫は唇を噛み締めた。

皆本は一つ息を吐くと頭の中でこの地下通路からの脱出計画を練り始める。

粗方計画を練り上げた皆本は、少ししゃがむと紫穂へと視線を合わせた。



「…キミ、消火弾がどこにあるかわかるかい?」

「ちょっと待って。…須磨主任が来た方に残っているみたい。」



地面に手をついて、接触感応能力を発動させた紫穂。

紫穂の言葉に、皆本はひとつ頷いた。



「ありがとう。君!消化弾を瞬間移動能力でとってきてもらえないかな?そうしたら、すぐにここを出て火災を鎮火させよう。」

「う、うん!」



真っ直ぐと向けられた皆本の眼差しに、葵は戸惑いながらも一つ頷くと、姿を消す。

皆本は、再び紫穂へと顔を合わせ言葉を続ける。



「外に出たら君は、消火弾を使用するポイントを探してくれ。」

「わかったわ。」

「さっきの彼女に、瞬間移動能力でポイントに消火弾を配置してもらう。最後は、君が念動能力で消化弾を破裂させるんだ。…ここから脱出したいんだ。手伝ってもらえないかな。」

「…ちっ、わかったよ!」

「…ありがとう。」



最後に、薫へと真剣な表情で向かい合う皆本。

腕を組み、顔をしかめている薫は、渋々と返事を返した。
この場を脱出するためには、皆本に反抗しても仕方ないと考え、納得したのだろう。

皆本は、表情を緩めて小さく息を吐いた。



「取って来たで!」

「よし、行くぞ!ザ・チルドレン!!」



皆本の声を合図に、葵の瞬間移動能力によって、上空に現れた5人。

紫穂は、消化弾を配置するポイントを探るため瞼を閉じる。



「葵ちゃん!あそこの建物を中心に描いた半径120メートル程度の円上に、等間隔で配置して!」

「ほいな!」



紫穂の声と共に、消化弾が各ポイントに現れる。



「念動ぅぅぅぅーーーーーーー消火弾一気爆破!!」



薫の力により、消火弾の周りから酸素と熱が失われる。

炎の代わりに強大な建物を覆うように煙が上がった。



「消火成功ーーーーーっ!!」

「よし…………!!よくやった、「ザ・チルドレン」!!」

「やった!(成功した……!?こんなにあっさり───気持ちいい…!!)」



一同に歓喜の声が上がった。

胸に湧き上がる気持ちの衝動により、薫の顔が明るくなってゆく。
抑えられない興奮に、薫は少しだけ鼓動を早くした。
それは、全力を尽くして走った時のような、まばゆい清々しさを伴う、あの興奮だった。

各所から上がっていた炎は、急速に小さくなり、焼け焦げた建物が姿を見せていた。
工場の火災は、収束へと向かっていた。



「っ、ぅあ…。」



歓喜の声に呼び覚まされたのか、皆本の腕の中でなまえがわずかに動く。

かすかに震えた瞼は、ゆっくりと持ち上がった。



「!?なまえちゃん!」

「「なまえ!」」



チルドレンの3人は、これ以上にない明るい声をあげると、皆本────の腕の中に居るなまえへと駆け寄る。



「…ぅう、……………………………あぁ…、終わった、んだね。」



皆本に抱きかかえられたまま、皆本・チルドレンの顔、そして周囲を見渡したなまえは、すぐに情報を理解したようだった。

そして、少しだけ長く息を吐く。

なまえは皆本から離れようと、皆本の胸に手を当てて、腕を伸ばす。



「…もう、大丈夫だから。」

「でも、医者に見てもらうまでは────」

「…いいから、」



なまえは静かに皆本から、視線をずらすとゆっくりと離れていった。
皆本の視線と、なまえの視線は交じり合うことはない。

なまえが移した視線の先では、「ピーピーうるせえッ!!」と薫が柏木が連れて来たバベルのヘリで騒ぐ須磨を気絶させていた。

皆本は、薫へと視線を移すと眉を下げて、小さな声で、だがはっきりと言葉を発する。



「あの人も…悪気はなかったんだ。須磨さんはきっと厳しく育てられて、それで今があるんだよ。だから君たちにも良かれと思ってあんなことを……許してあげてくれ。」



「出してママ」「貴理子良い子にするから」と錯乱した須磨は、叫んでいた。

親が子に与える影響は、良いものであれ悪いものであれ大きいもの───
幼少期の教育が原因で、大人になってからの考え方に影響がでることは大いにあり得ることだ。

須磨の親の躾が厳しかったことを推定するのは、皆本にとってそう難しいことではなかった。



「(そんなん言われたかて…ウチらはともかく薫が許さへんわ!!)」

「(そうよ!薫ちゃんは私たちの代わりにいつもこんなふうに傷だらけに────)」

「…………。」



皆本の言葉に瞬時に、薫の腕に抱きついたまま表情を顰めた葵と紫穂。

葵と紫穂の脳裏には、誰にも…実の親にすら頼ることができない状況で傷だらけでボロボロになっても、自分たちを守ろうとした薫の姿が───小さな、背中が浮かぶ。

薫は一度たりとも、自分たちの前で泣いたことなどなかった。どんなに辛いことがあっても。

なまえはただ、3人の隣で静かに皆本のことを見つめている。



「…………………ふ…ふん!お前のおかげで、今日の脱出計画が台なしだよ!!言っとくけど、外にでるにはああするしかなかったから、お前の作戦通りにしただけだからな!!カン違いすんな!?」

「……………わかってるよ。」



腕を組み、唇を尖らせて可愛げのない言葉を吐く薫に、皆本は目尻を下げて軽く笑うしかなかった。

初対面の頃の刺々しさが減っただけ良いのかもしれないと思いながら。



「とにかく戻ろう。医者に診てもらうんだ。」

「なんでさ!?」

「なんでって君────ケガしてるじゃないか。」

「!」



皆本は、薫の顔へと手を伸ばすと、優しくおでこに手を添えた。

親指で前髪をかるく掻きわけ、かすかに血がついた擦り傷を、痛々しそうに見つめている。



「痛かったろう。なのに…よくがんばったな。」

「……!!」



痛々しさを感じさせるほど、優しい声。

今まで自分たちに向けられたことがなかったその優しさに、薫は心が晴れ渡るのを感じた。
3人、いやなまえも入れて4人しか、無条件にはもらえないと思っていた。
そういうものだと思っていたのだ。そうでなければ────何も守ってくることができなかったのだ。

薫の手が皆本へと向けてかざされる。

ふいに皆本の体が、抗えないほどの力で後方へと引っ張られる。
「えっ!?」と皆本の声が発される頃には、薫の念動能力でかなりの距離が離れていた。



「むぎゃーーーーーっ!?」

「こ、これはなまえがもう治癒してくれたし!!いっ、痛くなんかなかったもん!!」



ドガッ!と鈍く大きな音を立てて、チルドレンから離れた建物へと皆本が激突する。



「あーあ。」

「ちょ…おま!?」

「薫ちゃん!?」

「あたしは…あたしはな────あたしは………強いんだもん……!!」

「「…」」

「(これが皆本光一、か…)」



顔を真っ赤にした薫。
その表情は、普通の女の子が見せる照れた表情だった。

紫穂と葵はここ数年、見なかった薫の表情をまじまじと眺めた。
なまえは静かに、小さく、息を吐いた。



「ま、とりあえず今日のところは戻ろ。」

「そーね。また会いましょ、山口さん。」

「僕も疲れたー。休みたーい。」

「(皆本だ…!!ってか……やっぱクソガキ……!!)」



叩きつけられた貯水タンクに埋もれながら皆本は、心の中で悪態をつくのだった。
























「「皆本」!?」

「それが……」

「新しい主任?」

「…。」



バベルの局長室に呼び出されたチルドレンの目が、物問いだけに目を細められた。
なまえは相変わらずの無表情で佇んでいる。

「知らんなあ。」「誰それ?」「かすかに聞き覚えが………?どこでだっけ?」と薫たちは口々に呆けている。
局長はそんなチルドレンの4人の様子に慌てて部屋の外に向かって声をかける。



「は、入りたまえーーーーーー!!」

「(…ったく!!)」



少し空いたドアの隙間から、部屋の様子を伺っていた皆本は大きく肩を落とし息を吐いた。

ドア係のため皆本と同じく廊下に待機していた柏木も、皆本と顔を合わせてゆるく笑った。

皆本は部屋の中へと足を踏み入れた。




「(ひとの人生ねじ曲げといてこれかよ……!?)やぁ。」



片手を上げて力なく笑う皆本。

名前こそ覚えていなかったものの、忘れもしない、いや忘れることなどできない顔に、なまえを除く3人は目を瞬かせた。



「(こいつが────新しい、主任)」



薫は血色が良くなった顔を、皆本からそらす。

どう見てもマイナスな感情をいただいている雰囲気ではないが、薫の口から出た言葉は可愛げがないものだった。



「あ、いや誰だっけ?あたしこんな奴覚えてない!」

「(そこまで!?)」

「(すっごいツンデレ?)」

「(嬉しさ隠しきれていないよ薫…。)」



あからさまな薫の態度に、葵と紫穂となまえは半目であった。

皆本も、口元を引きつらせながら四人へと右手を差し出した。



「やれやれ……それじゃーーーーはじめまして!君たちが叩きのめした前任者に変わって君たちの指揮をとることになった。皆本光一です!」

「ひ、人聞き悪いなー!!あのオバハンが悪いんだ!」

「ひと月持たへん方に2万!」

「握手なんかしていいの?私、サイコメトラーで超度7よ。」

「僕のことなら、あとで局長に聞いて。以上。」















「そのエスパー、凶暴につき」fin.

2019.04.27

/

[7/7]

章一覧/失った花嫁/サイトトップ