言葉にださなくたって



「じゃ、始めるわ。」



紫穂は透明な袋に入った血まみれの包丁に手をかざし、透視る。

次にヒールの高い靴を透視た。



「犯人は同じマンションの上の階に住む男。すぐ逮捕して。こっちの女性はもう死んでる。暴行目的で連れ去られて・・・今はN県の山の中に――――」

「も・・・・もういい、やめろ!!そんなことしなくていい!!」

「!!でも、まだ・・・・・」



皆本は、紫穂が手に持っていた証拠品を引ったくる。

そして必死の形相で、局長に叫んだ。



「いくらエスパーでも紫穂はまだ10歳の子供なんですよ!?こんな血なまぐさいこと――――!!エスパーを健全に育てることもバベルの仕事でしょう!?能力の利用はあくまでも―――――」

「私が好きでこんなこと許可しとると思うのかネ!?ここにあるのはすべて重大事件の証拠品だ!捜査が行き詰まり超度の低い他のエスパーでは歯が立たず、やむを得ず紫穂まで回ってきたものばかりなんだヨ!!」

「・・・・・」

「それに―――」

「それにこれは、警察庁長官である、私からの直接依頼だ。」

「!!」



部屋に眼鏡をかけた男性が入ってくる。

彼はとても厳格そうで、しっかりとスーツを着ている。



「桐壷くんといえども・・・断るわけにはいかんのだよ。」

「あ・・・・・あんたがこれを!?け、警察だろーが、長官だろーが、こういうことは――――――」

「パパ・・・!!」

「パ・・・・・パパ!?え!?」



少しビビりながら言う皆本の横で、紫穂は嬉しそうにその男をパパと呼んだ。

皆本はそれに驚く。



「立場上あまりオープンにはしていないが、長官は紫穂のお父上だヨ!」

「娘がお世話になっている!」

「・・・マジ!?」



ずいっと皆本に近づいて言った紫穂のお父さんに皆本はあんぐりと口をあけた。



「娘に気を遣うには及ばない。子供に遠慮して事件を放置するわけにはいかん。能力を社会に役立てることはエスパーの義務だ!!ちがうか、紫穂?」

「・・・・・わかってる、パパ。」



お父さんの言葉に素直に答える紫穂。



「この事件、現場をみせて。」

「よかろう、手配する。」

「い、いいんですか局長!?あんなのが紫穂の父親で―――――!!」

「いいも悪いも仕方なかろう・・・」



封筒を柴穂から受け取る、柴穂のお父さんを横目に皆本はこそこそと局長に言うのだった。

























「・・・たったひとつの命を捨てて!!真実ひとすじ80年!!さー今日はビシッと事件を解決しちゃうぞーっ!!あたしたちが来た以上、どんな事件も名球会入り間違いなし!!」

「迷宮入りしたらあかんやろ!」

「・・・・薫は元気だねぇ。」



薫は元気よく葵と眠たそうななまえをひきつれて事故現場に現れる。



「あれっ、死体は?」

「わーつまんねー!!片づけちゃったの!?」

「物見遊山で現場に来るなあっ!!」

「・・・・ふぁあ〜〜」



白い線で死体の形が引いてある場所を残念そうに見る葵と薫に、皆本は怒鳴る。


相変わらずなまえは眠そうだ。



「ってか、お前らなんで来たんだよ!?今日は三人は待機つったろ!?」

「いーじゃん別に!!あたしらも容疑者にすごんだり張り込みでアンパン食べたりしたい!」

「・・・・・それ、ちょっと違くない?」

「いいの、皆本さん。私が呼んだの。いてもらいたいわ。この事件、知ってるでしょ。この数か月、この近辺でもう10人が殺されてる。」

「殺され・・・・・!?死因は不明じゃなかったか!?深夜、突然倒れる人が相次いでるってやつだろ?亡くなったのは暴走族、ホームレス、酔っぱらい―――――有毒ガスでも出てるんじゃないかと新聞には載ってたけど・・・」



険しい表情で皆本は言う。

紫穂は突然、薫となまえに尋ねた。



「ねぇ、薫ちゃん、なまえちゃん。もし、超度3から4くらいの念動力で人を殺すとしたらどうする?」

「ん〜〜〜そうだな・・・・・・あらかじめ罠でもしかけといてさ―――――スイッチだけ念力で押すとか?」

「それやったらラジコンでもええやん。それに、殺人てバレバレやろ。」



顎に手を当てながら適当に言う薫に葵は冷たく突っ込む。



「僕だったら臓器、かな。」

「!!神経や血管だ・・・・!!」

「そうだよ皆本。」



なまえの言ったことで気付いた皆本は言う。

それになまえはニコニコしながら頷いた。



「心臓や脳の機関にうまく異常を起こせば小さな力でも致命的だ・・・それに、これなら通常の検査では殺人と気づかれにくい!」

「あ・・・・・!!」



体験したことのある薫がいち早く声を上げる。

そこで紫穂のお父さんが口を開いた。



「お前はこれが念動能力者による連続殺人だと思うのかね?」

「可能性は高いと思うわパパ。でも・・・つきとめるのは難しいかも。」

「離れた場所から手を触れずに行われた殺人―――――ふん、超度7のサイコメトリーといっても、かんじんの時には役にたたんものだな。」

「・・・・・・・それはまだわからないわ。他の現場もあたってみる。あなた、地元の刑事さんね?案内して。」

「あ・・・はい!」

「僕も行く〜!」



刑事の人を引き連れて、歩きだす柴穂になまえはとてとてとついて行った。





















「どう?紫穂、なんかわかった?」

「ダメ、・・・どこかから攻撃されてるけど・・・・・これじゃ何もわからないわ。」



公園の地面に手をついて、透視ていた紫穂になまえは声を掛けた。



「現場にこれほど何もない上に、道路が近いってことは・・・犯人は車に乗ってたのかしら・・・それだとお手上げね。なんとか間接的に犯人を触る方法を考えなきゃ・・・」



なまえは公園の近くにある車を見て言う紫穂を眺め、少し離れた場所で声を上げている皆本と長官を見た。



「僕は・・・・・やはりこんなことをさせるのは良くないと思います。三宮長官!!紫穂はたしかに捜査に適した能力があるし、あなたの立場もよくわかりますが・・・・・父親ならもうやめさせてください!!」

「彼女、たったの10歳じゃないですか!!犯罪の現場や犯人の心理を透視させるなんて・・・!!人間の一番汚い姿を・・・あの年の子供に見せるべきじゃありません!!」

「あの子のことは私が一番よく知っておる。そして私は警察の人間だ。あんな能力を持ってしまった以上、遠ざけてばかりはいられん。・・・悪いがこれは私と娘の問題だ。君は黙って命令に従いたまえ!!」

「・・・・・・・・・・・・!!」



頑として譲らない紫穂のお父さんに、皆本は唇を噛み締めた。

一方、近くにあった車の中に居る紫穂は一人悩んでいた。

因みになまえは車の上で、欠伸をこらえている。



「もし、車からなら・・・助手席にこう乗り出して・・・・・・・・?」

「どーしたのー?紫穂ー?」

「!!」



助手席についた紫穂は手から透視したイメージに驚く。

車の上から間延びしたなまえの声がするが、紫穂の耳には届いていない。







―――ククク・・・!!





―――クズめ・・・!!






―――俺がお前らのようなゴミを掃除してやる・・・・・・・・!!





―――なにせ俺は――――正義の味方なんだからな!!







そう言った男の表情はとても醜悪で、つい最近見たことのある――――






「どうしました?」

「!!」

「何か手がかりがみつかったみたいですね?」



運転席の方のドアを開けて入ってきた刑事の顔には胡散臭い笑顔が張り付けてあった。

紫穂は刑事を見て、びくっと体を縮ませる。



「け・・・・・刑事さん!!あなたが――――」

「僕のESPは・・・定期検査で見つけにくいタイプらしくて、まだ、誰にも気づかれていません。」



刑事は紫穂に説明しながら、自分の懐から拳銃を取り出す。



「君が死ぬのも念動力じゃなく銃の暴発事故だ。捜査に必要だからと言われて銃を貸したが、子供が取り扱いを誤ったってわけだね。」

「・・・・・・ムダよ!!私は特務エスパーなんだから・・・」

「だから?この状況でサイコメトラーに何ができる?」



紫穂の言葉に、にやにやと刑事が言った。

途端に紫穂の隣になまえが瞬間移動してきて、薫が車の上から頭を下げて車内を見る。



「たとえば・・・仲間のエスパーがこの事を予知していたり――――」

「たとえば・・・リミッター兼通信機でお前のセリフを中継して・・・仲間のエスパーに来てもらうってのはどうかな?」

「!!」

「念動ぅうーーー!!「イスごと強制射出」!!」



ドギャアッ!と派手な音をたてて、刑事が車から飛び出す。

皆本が携帯と拳銃を持ちながら、走ってくる。



「紫穂!?無事かッ!?」

「パ・・・・・パパ・・・・!!」

「紫穂・・・・・・!!よかった、ケガはないな!?」



紫穂は振り返って、自分の父親に抱き着く。

紫穂のお父さんも抱き着いてきた娘を強く抱きしめ、ケガがないか確認をとる。

そんな二人をみた皆本は、ポケッとその場に立っていた。











(たとえこの世がお伽話でなくたって、みんなが守ってくれるから)

2018.01.17

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