お昼頃

薫たちが教室でマッスルと澪たちと鉢合わせている頃。
小学校の職員室では、パンドラの大人組がため息を吐いていた。

職員室は通常の職員の姿は一人もおらず、パンドラのメンバーに占拠されいていた。


「なんであたしたちがこんなこと……。」

「言うな。いつものことだ。」


不満そうに口を尖らせる紅葉に、真木は苛立ちを抑えながら返した。

紅葉は一つ方をすくめると、声音を変えてひっそりとまた真木に話しかけた。


「それと…あの子、」


紅葉はちらりと職員室の奥、職員室の一角に設置された軽い打ち合わせ用エリアを見た。
対面で並べられたソファの片方に寝そべる少女───なまえは、ぼんやりと窓の外を眺めていた。


「花嫁のやつ、あの状態から少しも動かないけど…。」

「少佐は放っておけと言っていた。」


真木はそれだけ言うと、顔をしかめてパソコンへと顔を下げてしまった。
どうせ座っているのなら書類仕事でも済ましてしまおうと考えていた。国際的犯罪組織を運営するとなると、一筋縄ではいかないのだ。

心なしかいつもより三割くらい増して眉間のシワが寄っていた。


「(皆本は────今頃楽しんでるかな。薫たちも──皆本と同級生で楽しい時間を過ごしているかな。)」


なまえはうっすらと職員室内の会話を耳にしながら思考する。


「(皆本が…どちらを選ぶかで、僕も決める。だから今は…)お昼になったら、茶番はおしまいだから、」

「「!」」

「あとちょっとのしんぼうだよ、」


ソファにぐったりと体を横たえたまま、なまえは紅葉と真木をちらりと見た。

そしてまた、ゆっくりと目を閉じた。















「!」

ピーーーーっと、桃太郎の背中のランプが鳴る。


「!!え…!?なんだここ?」


ふと気がつくと、何も存在しない空間に立ち尽くしていた皆本。

キョロキョロとあたりを見回す皆本へ、どこからか声が届く。同じ年くらいの少女の声だ。


「ここは君の精神のなか。」

「え?君は…。」


振り返ると白髪の少女──なまえが静かな表情で立っている。

茫然となまえを見つめる皆本へまた再び声が投げかけられる。今度は大人の男性の声だった。


「もう…戻ろう。」

「あ…!」


振り返った皆本は自分よりも幾分も背が高いスーツ姿の男性が立っていることに気づく。


「僕たちがいるべき場所はここじゃないよ。ここは君のクラスじゃない。」

「わ…わかってるけど───仕方ないじゃん!!今日一日だよ!」


少年の姿をした皆本は理解していないが、声を掛けてきたのは大人になった自分自身───記憶を無くす前の大人の皆本だった。

子供の皆本は、大人の皆本の正論に大きな声で抗う。
するとまた、別な方向から声が聞こえる。


「そうとも。」


なまえの横に、学生服を着た白髪の青年───兵部が並び立つ。


「元に戻っても待っているのは、学校をやめさせられて特別教育プログラムに進んだ未来なんだろ?」

「誰…!?」

「ダメだ、こいつの言葉に耳を貸すな!」


兵部はゆっくりとしゃがみ、子供の皆本の前で膝をつくとその頬へと手を伸ばす。


「君が心から望めば、これを幻ではなく本物にしてあげることもできる。桃太郎を使って、君の記憶を完全に削除してしまうんだ。そしてその体は──」

「京介と私で、細胞の老化と成長を巻き戻して、本当の子供にしてあげる。僕らの生命エネルギーを全て使えば不可能じゃない。」

「……!!」

「本当に……!?」

「お…お前の狙いは何だ!?なぜ僕をそんなふうにもてあそぶ!?」

「…………。」


兵部は薄く笑みを浮かべた。


「不二子さんやヤブ医者は、「記憶強盗」の犯人を突き止めたようだ。もうじき君を元に戻しにくるだろう。だが、もし望むのなら───屋上においで。僕らはそこにいる。」

「…。」


瞬きの間に姿を消した兵部。
兵部が消えた後を見つめて、しばししてすぐになまえも消えた。


「………!!ずっとこのままで……いられる……!?」









「皆本くるかな、」

「来るさ、もちろん。未来が選べるなら…本物なんて選ばないだろうさ。」


兵部は手元の文庫本から視線を上げないままそう答えた。

兵部はなまえと同じく小学生の姿をしていた。
髪も白髪ではなく黒髪で、服装も普段の学生服ではなくフード付きのタンクトップに7部ズボンとラフなものだ。


「(ああそうだ。もし未来が選べるのなら───、誰だって辛かったり悲しい未来なんて選びたくないだろう。)」


兵部のそばで膝を抱えたまま、宙を漂うなまえはぼんやりと屋上の入り口に視線を移した。

誰かが走ってくる足音がする。十中八九、皆本だろう。


「(そう「もし選べるのなら」、ね。)」


入り口のドアが勢いよく開く。息を切らした皆本が、兵部となまえを見上げた。


「やあ。」

「!!」

「よく来てくれたね。待ってたよ、皆本クン。」

「(たとえ未来が視えていたとしても、そんな選択ができるとは限らないのだから。)」


文庫本を閉じて立ち上がった兵部は、皆本へと手を伸ばした。

2022.01.04

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