ただ手をとって欲しかった




『バベル・1現場マンションに到着!!内部に突入する!!』

「ほな行くでっ!!」

「!!」



バベルのヘリがマンションに近づき、葵は紫穂、なまえ、皆本を連れてマンションの内部に瞬間移動する。

マンションの内部はひどい有様で何人もの人が地面に倒れていたり、壁や車にめり込んでいたりと酷い有様だった。

そんな中一人佇む少女――――薫は四人に気づき、恐る恐る振り返った。



「!!み、皆本・・・・・!!」

「薫ちゃん大丈夫!?」

「薫、お前・・・・・・」

「え・・・えへへ・・・ヤクザとケンカ、しちゃった」



心配そうに駆けてくる紫穂、嫌そうに障害物を避ける葵、ふよふよと念動力で浮き欠伸をするなまえ、唖然とする皆本。

そんな四人に頭の後ろを掻きながら、笑いながら薫は言った。





























「いや、だからさ――――日曜日なんで家帰ったけど、母ちゃんも姉ちゃんも仕事なんで、留守番してたわけ。そしたら隣の部屋に借金取りが押しかけてきてさ――――ヤミ金業者の追い込みってやつ?女殴ったり物壊したりしてたんで・・・・・・・」

「・・・それで組をひとつ丸ごとつぶすか、フツー!?」



椅子の上で胡坐をかき、疲れたように言う薫に皆本は呆れたように言った。



「いや、あれはそのあと総出で仕返しに来たから仕方なく!「エスパーにナメられてたまるかー」とか言っちゃってさあ―――」

「・・・先に警察が僕らに連絡しろよ・・・・・・・・!!」

「そうは言うけどさ――――」

「薫ッ!?」



突然部屋の中に、薫似のスタイルのいい女性が乱入してくる。

女性は水着の上にロングコートを一枚だけ羽織った姿のまま薫に近づく。



「あんたまたこんな騒ぎ起こしてーーーー!!どういうつもり!?」

「好美ねーちゃん!!そっちこそなんだよそのカッコは!?」

「何って、グラビア撮影のスタジオから飛んできたんじゃないの!!」



薫にそう言ったあと、好美は皆本に体を密着させる。

それに過剰に反応する皆本。



「いつも妹がご迷惑をおかけします、皆本さん」

「あっいや、あの・・・・なんとゆーか、僕はあの、」

「落ちつけ!」

「い、一応この件は相手が悪いわけですし―――――警察と局長がうまく処理してますんで、ご心配なく!!と、とにかくスタジオに戻ってですね、お仕事を終えらしてから――――」

「今日の分の撮影はもう終わりましたわ。今日はずっとご一緒できますから――――」

「じゃあ服着てこいよ!?」



ウィンクしながら皆本に言う好美に、薫が勢いよく突っ込む。

それに負けじと好美もいい返す。



「姉ちゃん、さてはあたしのことにかこつけて、皆本食いに来たなッ!?」

「食うとか言うんじゃねえっ!!適齢期の女が男つかまえて何が悪い!?皆本さんはね、エリートなの!エリート!!まだ20歳でルックスもまともな優男なのよ!?合コンしたってあんな上玉めったに転がってないんだからねッ!!」

「なにが合コンですか。」

「はっ!?」



口喧嘩を始める二人の後ろで皆本は「きっ、勤務中!」と自分に言い聞かせて呼吸を整えている。

そんな二人の背後にこれまたグラマーな女性が現れた。

その女性も胸元がハートの形に、へその辺りがダイヤに開いたチャイナ服を着ている。



「あなたってコは、そんなことばっかりやってるから、いつまでも仕事が水着から先に進まないんです!」

「か、母ちゃんまで!?」

「そーゆー母さんこそそのカッコは何よ!?」

「『紅蜥蜴』の舞台からあわてて飛んできました!いつも娘がご迷惑おかけします、皆本さん」



秋江は皆本の手を両手できゅっと握りしめ言う。

が、握りしめたのは局長の手で、局長は逆に手を握りかえした。



「「そう、私は宝石を盗みました」!!「でも心の中では貴方が泥棒で私が探偵・・・・・・」!!「だって貴方は私の心を盗んでしまったのですから」・・・・・!!」

「あ、あら?局長さん・・・・?」

「局長はまだ事後処理の途中でしょ!?」

「あッでも薫の母上なんだヨッ!?女優の明石秋江さんだヨ!?わし、ファン・・・・・」

「・・・・・・・・」



なごり惜しむ局長を柏木が引っ張っていく。



「衣装はそのままでも、メイクはナチュラルなのね、母さん?」

「それが何!?」

「片っ端から若い男優食ってるクセに、さては皆本さんまで毒牙にかける気!?」

「毒牙とか言うなっ!!父さんと別れて5年、そろそろ母さんだって・・・・」



秋江と好美は、皆本の腕に自分の胸を押し付けながら言う。



「皆本さんみたいなパパ欲しくない、薫っ!?」

「兄でもいいじゃん!?ねえ薫っ!?」

「あの、ちょっと・・・・!!すみません、離して・・・!?」

「み・・・皆本が汚されていく・・・・」



前屈みになり赤面する皆本に薫は嘆いていた。























「ふーん、それでそんなに不機嫌なの?薫ちゃん。」



口に手を添えて、可笑しそうに笑う紫穂とは対照的に薫はブスッとした顔で腕を組んでいる。

そんな薫を宥めようと、紫穂は口を開く。



「皆本さんだって石でできてるワケじゃないんだから・・・あの二人に誘惑されたら前かがみくらいになるわよ。」

「?前かがみって何?」

「うるさいなッ!!もういいだろッ!?」



笑顔で言う紫穂、不思議そうな葵、皆本を睨む薫、眠たそうななまえに皆本は引越しのトラックを運転しながら怒鳴る。



「まー、身内のあたしだってあの二人はいー女だと思うけどさ!ねーちゃん、21でピチピチだし、母ちゃん、どーみても子持ちに見えない魔性の女だし!」

「一緒に風呂とか入った日にゃ――――あっちもこっちも「スッゲー!!」・・・って思うもん、マジで。「金払わなきゃ!」みたいな。」

「じゃーなんで僕を責める!?」



興奮しながら拳を握って力説する薫。

しかし皆本の言葉にまた不機嫌に戻る。



「いや、なんか当然の反応するのがムカツクっつーか・・・・・」

「あ、なんかわかる。」

「「「「コイツもただの男か・・・」みたいな?」」」

「勝手なことばっか言うなーーー!!」

「ぐうぅ」



薫と葵と紫穂の言葉に皆本は叫ぶ。

それから、ため息を吐き冷静に言った。



「心配しなくても僕なんかただからかわれてるだけだよ!薫の家族なんだから男も女も関係ないよ!」

「「「(・・・それはどうかな?)」」」

皆本を見る三人の目は冷たかった。



「そんなことより――――もうあんなマネはしないでくれよ?おかげで君の家はまた引っ越しだ。」

「でもあれは・・・!!」

「理由があったことはわかってるさ。犯罪や暴力を見過ごせとは言わないが・・・・罰するのは君の仕事じゃないはずだ。君は、全てを能力で片づけようとしてやりすぎだ。」

「「超度7」の特務エスパーの身元は極秘だ。エスパーを嫌う奴や欲しがる組織に狙われるからな。本当は立派なお屋敷があるのに君のために家族は住居を転々として・・・いい家族じゃないか、今回も君を責めたり叱ったりしないんだからさ。」

「・・・・・・・(わかってねーな。皆本は・・・・・・)」



諭すように言った皆本に、薫は寂しげな表情だった。





















「ほいっ、これでラスト!!」



葵が瞬間移動で、タンスを運んでくる。

それをみた紫穂は携帯を片手に秋江に尋ねた。



「引っ越し蕎麦取ります?近所の人に触って、いい店調べといたの。」

「・・・・この四人がいると引っ越しなんかあっという間ね。どーせだから外で何かおいしいもの食べに行きましょ。」

「お、さすが大女優、太っ腹!」



好美と秋江はすっと皆本に近付き、腕や手を握る。

そんな二人に赤くなる皆本。



「皆本さんは何がお好き?」

「あ・・・僕は別に・・・」

「なんなら私を食べてもいいのよっ」

「・・・・・・・」



その様子を薫は面白くなさそうに見ている。



「ね、いっそ・・・ホテルのスウィートでもとって、みんなで泊まる?」

「あ、いいな、それ!食事はルームサービスにして・・・ジャグジーのある部屋にしてみんなでお風呂も入ろうか!」

「あの、そーゆーことなら僕は戻って報告書を・・・」



なんとかこの場を逃げようとする皆本に、好美はにっこりと言う。



「水着着れば皆本さんも一緒でいいでしょ?「スッゲー!!」「金払わなきゃ」・・・みたいな?きっと楽しいわよーーー」



好美に言われて、皆本の脳裏に水着を着た秋江と好美とチルドレンが浮かぶ。

その、瞬間だった。



「念動力―――――!!家庭内超暴力ッ!!」

「うわッ―――――!?」



我慢の切れた薫によって、秋江と皆本の間を洗濯機が飛んだ。

洗濯機は勢いをそのままで、壁を破壊する。



「母ちゃんも姉ちゃんも・・・!!いいかげんにしろよッ!!」

「か・・・・・・薫!!」

「お前・・・なにすんだ、引っ越ししたばかりの家に――――」



涙目で叫ぶ薫に、皆は驚きを隠せない。



「皆本をダシにしてねーで、本当のこと言えばいいじゃんか!!「こんな家、どーでもいいし別にいたくもない」って・・・!!だから外で飯食おうとか、よそに泊まろうとかそんな話ばっかしてんだろ!?」

「・・・・・!!」

「本宅に帰れないこんな生活、おもしろくないと思ってんのは知ってるよ!ものわかりのいい遊び人のフリしてるけど、要するに―――――」

「薫!!」

「あたしの能力にビビッて叱れないだけ――あたしのこと一番信用してないのは――――」








――ぱちん!!










薫の言葉を遮るように皆本は薫の頬を平手打ちをする。



「言い過ぎだ、バカ!」

「・・・・・・・・!!」

「あー、あー。」



秋江は、皆本を驚愕の目で見ている。

なまえは一人、やっちゃったーとばかりに掌で目を覆った。



「み・・・・・・・皆本の――――バカーーーーーーーーーーーッ!!」

「ぐわッ!!」



薫は怒りのままに念動力で皆本を壁にはりつける。

そして、何かを振り切るように走りだしベランダから飛んでいった。



「薫・・・!!」

「ウチ、呼びに行こか?」



なまえは壁に埋まっている皆本を助けながらため息をつく。

秋江は、葵の問いに皆本のほうを一度見てから答えた。



「・・・・皆本さん、制御装置には発信機機能もあるんでしたわね?あのコのこと、お願いします。今夜はそちらで泊めてやってください。」

「でも、おばさま――――」

「薫の言ったこと、半分は本当だもの!さっきの癇癪、見たでしょ・・・?いくら家族でも、あのコと本気でケンカなんかできないのよ。」

「そんな・・・家族やねんから・・・」



悲しそうな顔で言う秋江に、葵は声を掛けるが秋江は瞳を閉じて静かに言うだけだった。



「わかってるけど簡単じゃないの。」























「僕が念動力で下から支えてるから、皆本は早く薫のとこに行ってあげなよ。」

「ありがとう、なまえ、」



皆本はなまえの念動力に支えられながら、鉄塔を登り薫へと近付く。



「・・・薫、降りてこい。お前の言うことが本当だとしても、お前にだって責任はあるじゃないか・・・!!普通の人間の弱さもわかってくれ。もうほんの少し・・・大人になればそれですむことじゃないか。」

「!」



薫は皆本を連れて、鉄塔を降りる。



「機嫌直った?薫、」

「まぁな!だって考えてみりゃあたしもすぐにピチピチなんだよなっ!さすが皆本、いいこと言うぜ!あーなんか急に元気でたっ!!」

「い、いやちょっと待て!?僕が言いたいのはそーゆーことじゃなくてだな―――――」

「へー皆本ってそーゆーひとだったんだぁー!」












(喧嘩するほど仲が良いっていうことだよね!)

2018.01.17

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