不安要素、ひとつ

「念動ううーーーーーーー!!大切断ッ!!」



薫は手をまっすぐに振り上げ、戦車に向けて勢い良く振り下ろした。

戦車は薫の念動力により、真っ二つに切断され爆発。



「・・・・・・・・!!あ・・・あいかわらずスゴいパワーだな。」

「当然!!」



迷彩柄の軍服らしきものを着た皆本は、驚きに目を開きながら薫に言う。

薫は皆本に笑顔で親指をあげる。

それを見た皆本はヘルメットに完備されているマイクで局長に言う。



「薫の調子は上々です!始めてください、局長!」

「了解!新型ECMのテストを開始する!」



局長が鍵を回し、スイッチをいれる。

するとキュラキュラと戦車が群れをなして薫に近づいてくる。

しかし薫はそれに臆することなく、戦車に向って走り出す。



「何をしよーが何台来よーが、粉砕してやるぜッ!!」

「ま、待て、薫!!接近戦は危険―――――」

「念動メガトンパーン・・・っちィイイイイーーーーーーーーーッ!?」







――ゴキン!!









皆本の制止は届かず、薫は戦車を素手で殴ってしまう。

薫の念動力が効いていないのか戦車は無傷だ。



「かっ、薫!?大丈夫かああっ!?」

































「・・・・・・・・」

「アホやなー、調子に乗ってるからやで・・・!!」

「痛くなかった?」

「痛てえよ!!」

「・・・・・治療してあげようか?」



ヘリの中で包帯を巻いた右手を不機嫌そうに見る薫。

なまえの言葉に薫はひとつ頷いた。

なまえは薫の右手を握り、治療をする。



「新型ECMは協力だから気をつけろって言ったのに・・・」

「ECM?」

「EspCounterMeasure(超能力対抗装置)、軍用の超能力妨害装置のことだよ。強力なデジタル念派を発生させてあらゆる超能力を無効化する。従来型よりデータ深度が深くてはるかに効率がいいが・・・・・・どうしても大型になるのが欠点だな。」

「くっそ〜〜!!あそこまで無効化されたのははじめてだ・・・!!ムカつく〜〜〜〜〜!!」



なまえに治療してもらった右手を見ながら歯を食いしばる薫に、皆本は言った。



「そう言うな。バベルがああいうものの開発に協力するのも、君たちのためなんだからさ。」

「?でもあれってあたしたちに対抗するための兵器なんじゃ・・・?」

「なにも悪い事ばかりじゃないよ。」



膝を抱え、ヘリの壁に寄り掛かりながらなまえは言う。

皆本はなまえの言葉に頷きながら言った。



「高性能で安価なECMが普及すれば、君たちと普通人を分ける壁はなくなるじゃないか。トラブルの多くは超能力者が一方的に圧倒的優位なせいで起こるんだからな。」

「・・・そらまーそうかもしれへんなあ。」

「それがあれば学校にも普通に行けたもんね。」

「でも・・・・・・!!それってさ、あたしたちの力をいつ使うか、他人が決めるってことだろ・・・!?」



一人、否定的に考える薫。



「心配するな、僕らが開発に関わる理由はもう一つあって――――――――」

「皆本は!?皆本もやっぱりその方が安心!?」



薫を宥めようする皆本を遮るように薫は立ち上がる。



「この力、ない方がいいと思ってる?誰か他の人間が抑えてないとそんなに怖い・・・!?」

「!!」



どこか切なそうな顔で言う薫に皆本は否定しようとする。

が、それは紫穂によって呆気なく砕かれる。



「薫・・・!!そうじゃない!僕はただ―――――って、あ!」

「「そりゃまーその方が楽だよな」。「心を読まれたり不法侵入されたり壁にめりこんだり変な催眠をかけられたりしなくてすむんだから」。・・・って、チラッと考えてた。」

「あっそう!!」

「・・・いやまあ、当然と言えば当然の反応やけどな。」

「皆本って結局そうだよね。」



薫は念動力で皆本を壁に押し付ける。

葵となまえだけは冷めたように言った。

と、その時皆本の横のスピーカーから連絡が入る。



『皆本主任!現場上空に到着しました!事件発生予定時刻まであと15分!』

「・・・もう始まってる、外見てみなよ。」

「!!本当にもう始まっている!」



なまえの言葉に窓へと走っていく面々。

すると目に飛び込んできたのは橋の下付近の土手で起きている小規模な爆発。

その中心に居るのは二人のサングラスをかけた男だ。



「なにあれ?」

「酔っぱらった高超度エスパー同士のケンカ。」



紫穂の言葉になまえが簡潔に答える。

なまえの言葉に続き、不満を言う皆本。



「ったく・・・!!ニュースにでもなったら、他のエスパーが迷惑する!予知システムに引っかかってよかったよ。騒ぎが発覚する前に取り押さえて本部に連行する!」

「了解!」



皆本の言葉に、葵は帽子を押さえてから現場に瞬間移動。



「!!お前らは――――」

「毎度ーっ!!特務エスパーでーっす!」



なまえ達に気付いた男が声をあげる。

それに答えるよう薫は陽気に片手を挙げて名乗る。



「念動――――ケンカ両成敗ッ!!」

「ぶッ!!」

「ぎゃっ!?」



ケンカをしていた男達は、薫の念動力によってそれぞれ地面にめりこむ。

それを見た皆本は男に駆け寄り、ESP錠をつけた。



「よしっ!!ESP錠を―――――」



その時、もう一人の男にESP錠をつけようと手を触った紫穂が、何かに気付き叫ぶ。



「!?・・・・・!!皆本さん、この人たち―――エスパーじゃないわ!?」

「え・・・!?」

「そ、それじゃあの騒ぎは!?」



驚き、答えを求める皆本になまえは地面にある、仕掛け爆弾を指さしながら言う。



「・・・仕掛け火薬、」

「!!仕込みだったのか!?」

「クックック・・・・・!!その通り―――――!!全て、お前ら特務エスパーを誘い出すためのワナだよ・・・!!」

「・・・・!!」



突然、土手の上に黒ずくめの男達が現れる。

彼らはなまえ達にむけて、銃を構えていた。



「バベルのセキュリティー態勢は全て把握ずみだ。予知システムにニセのデータを侵入させたんだよ。これで我々「普通の人々」は特務エスパーチームをまるごと捕獲できたわけだ・・・!!」



拳銃を片手にリーダー格らしき男はニヤリと笑いながら言う。



「エスパーを嫌う者はどこにでもいる・・・!!我々はその代表として、断固貴様らと戦うのだ!!」

「反エスパー組織―――――「普通の人々」テロ実行部隊・・・!!」



男の言葉に気付いた皆本が叫ぶ。

それと対照的に葵は脱力したように言う。



「でも―――今回えらいフツーやん?」

「まあ、あんまり続けてもそのうちクレームが・・・・」

「なんだ、つまんない!」

「僕、この前みたいな凄い肉体派みたいなー。」

「我々はいつもフツーだ!!」



葵に続いて口々に言うチルドレンに、おっさんは切れた。



「汚らわしいエスパーと、それに味方するバベルの犬め!貴様らはこの世の秩序の破壊者だ!!捕獲して情報を全て吐かせてから処刑する!!子供でも油断するなッ!!特務エスパーは最低でも超度5はあるはずだ!」



おさっんの叫びと共に、他の男達がなまえ達に向かって走りだす。

そんな男達に向け、薫は余裕の表情で念動力を使おうとするが――――



「へッ!!よりによってあたしたちの出動に当たるとはねッ!全員返り討ちにしてや――――」

「だめっ!!避けて薫ッ!!」

「いい気になるんじゃねえッ!!バケモノの子供がッ!!」



ガッと男に銃で、強く頬を殴られる薫。



「!!か、薫―――――!!」

「な・・・なんだ!?超能力が使えない・・・!?」



殴られた頬を押さえ驚愕に目を開く薫に、おっさんは得意げに言った。



「クックック・・・・我々の力を甘く見るなよ。「普通の人々」はどこにでもいると言ったろう?最新鋭の装備も入手可能なのだ・・・!!」

「し・・・新型ECM!!奴らがあれを――――!?」


「・・・それが?」



おっさんの後ろにあるECMに驚く全員に対し、なまえだけは冷めた表情で言い放つ。

そんななまえを止めようと焦りながら皆本は言った。



「なまえ!下手にアイツらを刺激したら・・・・!!」

「・・・・なめないで、僕にECMは―――――効かない!!」



そう言うとなまえは瞬間移動で、薫を殴った男の前に現れる。

そして、クスクスと恐い笑顔で笑いながら催眠攻撃を食らわせる。



「僕の大切な人を傷つける奴は――――僕がお仕置きしてやる!!」

「がっぁあ!!」



男はなまえによって、地面に倒される。

それを見た男達はなまえに向かって銃を乱射し、数人は紫穂や葵や薫のいる方へ向かった。



「っきゃあ!」

「っ!!紫穂に触んなっ!このハゲッ!!」



隙を見て、紫穂が男に捕まってしまう。

薫が抵抗しているが、薫も男に捕まる。



「ハゲてねーよ!?大人しくしろっ!このバケモノ!!」

「っ!!薫ッ!!紫穂ッ!!」



捕まっていく紫穂や薫、葵、皆本を見てなまえに隙ができてしまう。

それに気付いた男達の一人はなまえの後ろに回りこみ、首に何かを挿した。



「あっ!?かおる、し・・ほ、あ・・・お・・い、みな・・・・もと、」



崩れ落ちるなまえ。

その中で、なまえは誰かが自分を嘲笑うのが見えた。

2018.01.17

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