今にもわかるさ
「うっわ〜〜〜!!かなり燃え広がってるなあ・・・!!」
眼下に広がるのは木々、そからは煙が上がっている大きな火災。
「・・・・!!風向きが北東に変わるわ・・・・・!!」
「僕もこの辺でやっておいた方がいいと思うよ。」
ぴんと指を立て風を透視する紫穂。
続けて予知するなまえ。
皆本は二人の言葉を聞いて司令をだす。
『よし、始めてくれ、薫!風下の木を切り倒して延焼を防ぐ!』
「了解!念動うう――――防火壁一筆書きッ!!」
「す・・・凄い・・・!!まるで爆弾だ・・・!!」
薫が元気よく応え、思いっ切り腕を横に払うと、バキバキッと凄い音をたてて、木が倒れていく。
それを見た消防士は驚きに目を開いた。
上空にいる葵はそっと言う。
「木がちょっとかわいそうやけどな。」
『仕方がないよ、放っておいたら今以上に燃え上がる!火災エリアは他にも多数・・・!!すぐに次のポイントに移動してくれ!!あんまりトバすなよ、薫!一度にあまりパワーを使うと途中でバテるぞ。』
皆本の忠告に、薫は楽しそうに言う。
「だーいじょぶだって!パワーは抑えてコントロールする方がキツいんだよ。全開でやれるってのは気持ちイイぜ。それに・・・物を壊すって快感じゃん?ゲームや映画みたいでさ・・・!!ビルや家でやったらもっと気持ちいいかもな。」
「・・・・・・・!!そ、そういうことを軽々しく言うな・・・!!」
皆本は、薫の言葉に先日の事件で暴走しかけた薫を思いだす。
慌てて叱る皆本に、薫は悪戯っ子のような顔をしてなまえ達を連れて、次の現場へと向かった。
「冗談だよ!行こうぜ、葵!!」
「・・・・(冗談に聞こえないし、)」
意地悪く笑う薫に、なまえは軽く呆れる。
そんななまえ達を眺める男がいた。
男の髪はキラキラと輝く銀色で、彼の服はそれとは対照的に真っ黒な学生服――――所謂学ランだ。
「フフ・・・気に入ったよ。さすが僕の“女王”だな・・・・!!」
男は楽しそうに笑い、言う。
その時、なまえが何かを感じたのか男が居る方を向く。
男はニッコリとなまえに向かって笑うと、次の瞬間にその場からは消えていた。
「(今のって、確か・・・いーじいちゃんの時の・・・・・)」
「森林火災は無事鎮火―――よくやった、「チルドレン」の諸君!」
「えへへ〜〜〜」
局長の言葉に、皆本の肩に座り頭に腕を乗っけながら薫は嬉しそうに笑う。
局長もニコニコとチルドレンをさらに褒める。
「エラかったぞー!!」
「いやー、火事場は思いっきり暴れられるから好き!」
「え〜〜〜ウチは暑苦しくてイヤやなあ。せめて制服改良して欲しいわ!」
嬉しそうな薫とは対照的に、葵は口を尖らせて言う。
それを聞いた局長は柏木に向かって叫び、柏木はそれをメモしている。
「柏木クン、ただちに手配を!!デザイナーと科学者を収集したまえ!!」
「はい局長。」
葵に続いて、なまえは言う。
「あ、じゃあ僕休みが欲しい!」
「それは無理だろ。」
皆本に突っ込まれた。
気まずくなった部屋で、柴穂がどこか諦めた表情で言う。
「あと・・・消防士さんたちって私たちのことあまり良く思わないのよね。苦戦してるところを子供があっさり解決しちゃうのが面白くないみたい。それに―――パワーを発揮するほど私たちのこと「怖い」って・・・・・・・」
「・・・・・!!」
「抗議の手配を、柏木クン!!ウチの可愛いエスパーを傷つけるなど許さんッ!!」
「はい局長。」
泣きながら拳を握り、叫ぶ局長の言葉を柏木は冷静にメモをとる。
すかさず皆本は突っ込んだ。
「「はい」じゃないでしょ!?やめてくださいそーゆーことはっ!!」
「何を言う、「チルドレン」ら国の宝なんだヨ!?それを「化け物」とか「ワガママ」とか「クソガキ」とか言われて黙ってられるかあああッ!!」
「言ったんじゃなく思っただけですって!だいいち、現状ワガママなクソガキなのは事実じゃないですか!!」
「「あ。」」
「誰が・・・・・・」
無我夢中で、叫んでいた局長と皆本が薫の方を見る。
薫は笑顔でいたと思ったら次の瞬間には、二人を壁に念動力で押しつけた。
「・・・クソガキだこの野郎ッ!!」
「はうっ。」
「かっ、柏木クン、優しく注意してッ!!」
「はい局長。ダメよ」
局長に言われて、柏木は薫に向って優しくめっ、と注意した。
「(この組織、子供の教育にゼッタイ向いてない!!)」
皆本は心の中でひっそりと叫んだ。
――ガン!! ガン!!
誰もいない訓練場に、銃声が響く。
「・・・・・・・・・・(超度7のあいつらは――――その気になれば文字通り神にも悪魔にもなれる。普通人があの子たちを恐れるのは多少は仕方ないよな・・・)」
銃を構えたまま、皆本は物思いにふける。
彼の脳裏に「普通の人々」の言葉と―――伊号の予知が浮かぶ。
『我々はエスパーを人間とは思っていない!奴らは人類の天敵だ!』
『撃てよ皆本。あたしが死んでも他のエスパーたちは戦いをやめないぜ?』
「(あいつらが悪魔になることを――――僕に・・・防げるんだろうか。)」
「考えごとをしながらの射撃は危ないよ、皆本くん。」
「!!」
皆本の隣から声の主は、連発して的を撃つ。
弾は皆本のものとは違い、一発以外は全てど真ん中を通過。
「あーあ、ダメだな、しばらく撃ってないと・・・・・体がなまりきってるよ・・・!!」
「君は・・・?僕のことを知ってるのかい?」
見事な射撃を披露した人物は耳あてを外しながら言った。
その人の髪は真っ白で、着ているのは学ラン――――昼間、チルドレンのことを見ていた人物だった。
青年を見た、皆本の疑問に青年は答える。
「皆本光一。「ザ・チルドレン」の主任だろ?伊号の言ったことなら気にしなくていいよ。あいつの予知が100%なんてデタラメさ。・・・・・・なまえのものと違ってね。」
「!!ど、どうしてそのことを―――――!?精神感応でも読めないはず――――なまえは関係ないだろう!?彼女と中尉は同じ超度7じゃないか!?」
驚き叫ぶ皆本におかしそうにくすくすと青年は笑いながら言う。
「伊号のじーさんとは古い知り合いでね。彼の手の内はよく知ってる。くたばってないといいね。あいつはしょせんイルカだからね。演算能力は高いけど、それだけなのさ。だから―――――本物に勝つことはできない。なまえは代えのない特別な存在なんだよ。だから、本気になればあんな予知、今すぐにでも覆せる。」
「ど・・・どうやって!?」
「簡単だよ、その銃で今すぐあの子たちを殺せばいい。」
「そんなことできるわけないだろ!?」
無機質な瞳で言う青年に、皆本は自棄になって言い返す。
しかし青年は、皆本に現実を突き付ける様になおも続けた。
「それは君がやりたくないってだけのことさ。不可能じゃない。本気で未来を変えたいならやるべきだろ?それで大勢の命が救われるぜ、きっと。」
「!!」
「あの子たちもまさか君に撃たれるなんて思ってない。いまならESPで抵抗もしないよ。」
「ほ、本気で言ってるのかお前―――――!?いったいどこの誰―――――」
「怒ったの?冗談だよ。」
怒った皆本に胸倉を掴まれるが青年はくすくすと楽しそうに笑った。
そして楽しそうな笑い声だけを残して、瞬間移動してしまった。
『優しいんだな。キミは・・・・・・・・!!』
「ま・・・待て!!戻って来い!!」
「その少年――――この人物に間違いないんだナ!?」
局長が一枚の写真を皆本に見せる。
そこに居たのは今日、皆本に接触してきた少年だった。
「ええ!!誰なんですか!?ここ、犯罪エスパーの収容施設じゃないですか!まさかここに・・・!?」
「そのはずだ・・・・!!理論上はナ・・・!!ここは地下500メートル―――――彼のためだけに造られた特殊監房でネ・・・」
ガシャンとエレベーターが、止まり扉が開く。
局長と皆本はエレベーターから降りるとそれに気付いた警備員が声をかけた。
「!!局長・・・!!また、何か・・・!?監視は24時間続けていますし、計器とモニターにもなんら異常はありません・・・!!彼が外に出たはずはないんです・・・・・!!」
大きな音をたてて、重くて太い巨大な扉が開いていく。
「あいつめ・・・・・・・!!この50年間ずっとそうだ・・・・・!!」
開いた扉の下を通りながら、苦々しく言う局長。
局長に続いて中に入った皆本は、その部屋の有様に驚いた。
「な、なんですかこの厳重な警戒は!?」
皆本が驚くのも無理はないほど部屋の設備は厳重だった。
ドーム状の部屋の天井にはECMがいくつか設置してあり、部屋の中央にはガラスケースのような独房がある。
「奴の名は兵部京介。エスパー犯罪史上最悪の人物なのだヨ・・・・・・・!!」
「やあ桐壷クン。20年ぶりかな・・・?変わらず若々しいね・・・!!」
「今年80になるあんたほどじゃないヨ、少佐。」
「は、80!?」
冷静な局長の言葉に、皆本は目を白黒させた。
「彼は老化遺伝子をコントロールして老化を免れているのだ。超能力でナ・・・!!」
「いやだなあここで超能力が使えるわけないじゃないか。ただの特異体質だよ。キミやなまえと違って僕は寄る年波に勝てそうもないね。」
「とぼけるな!!あんたはこれまで何度も、記録も残さず外に出ている・・・!!新型ECMも役にたたんようだナ・・・・・・!!」
「そうヘコむ必要はないさ。キミだってがんばってるじゃない。」
ギリギリと悔しそうに歯を食いしばる局長に、兵部はくすくすと馬鹿にしたように言った。
「念動能力、精神感応、瞬間移動・・・彼は様々な能力を兼ね備えた複合能力者でネ、だがその超度も種類も我々には正解には不明――――ここ10年ほどおとなしかったあんたが・・・「チルドレン」になんの用だ!?」
「興味があるのさ。可愛い子たちだからね。将来僕の花嫁にしたい―――――――・・・って言ったらどうする?」
「嫁て!!局長!!」
「言うに事欠いてこのジジイ――――――!!」
怪しく笑いながらのあまりにも衝撃的な発言に、皆本と局長には雷に打たれたような衝撃を受けていた。