封じ込めた僕
「薫・・・!!今日は降りてくれないか?」
バベルの本部の廊下。
皆本は薫を肩に乗せ、葵と紫穂と手を繋いでいた。
「へ?なんで?」
不思議そうにする薫に皆本は凄い形相で答える。
「なんでって・・・・・・えーと・・・・・・・重いから!!ただそれだけ!!」
「(・・・・嘘つけ、)」
ぎゅっと何かを堪えるようにする皆本になまえは呆れた顔をした。
「(くそッ兵部の奴・・・!!なんのためにこんな・・・・・・・・)」
「あ、おはようございます!」
一人悩んでいた皆本に反対側の廊下からナオミが歩いてくる。
「あいかわらず仲がいいですね。「ザ・チルドレン」は。今日は任務?それとも検査?」
「本部待機の当番!ナオミさんは?」
「私もよ。」
皆本の肩から降りた薫。
ナオミは持っていた袋から可愛いらしい包みを取り出しチルドレンにウィンクをする。
「よかったら一緒にお茶でもどう?お菓子もあるわ」
「わーい!」
「ナオミさんの手作り!?」
「行く行く!!」
「・・・・・・・・・・」
口々に嬉しそうに言う薫達とはとは違い、何故かなまえはじっとナオミを見ている。
「皆本さんもご一緒にいかがですか?」
「あ、いや、僕はちょっとラボに用事が――――――」
ナオミの誘いを慌てて断る皆本。
「なんや夕夜から顔色悪いで?」
「大丈夫?ちょっと透視てあげよっか。」
「!!」
心配そうに言い、皆本の頬に触れる紫穂。
それを皆本は急いで離れる。
「い・・・いや、いい!!じゃ、あとでッ!!」
「皆本さん!?」
マッハで走り去った皆本に紫穂は不思議そう。
「どないしたんやろ?」
「さぁ・・・・――――どうしたんだろうね?」
唖然とした表情の葵に答えたナオミ。
しかし次の瞬間にはナオミは兵部に変わっていた。
「!!」
「兵部・・・京介!」
クスクスと笑う兵部を驚愕の目で見る薫達とは違い、なまえだけはたいして驚いていなかった。
「ぬわにーーーッ!?少佐の催眠攻撃をくらっただとーーーーー!?」
「ご心配なく!他に影響がないことは確認しました。」
MRIのような機械から起き上がる皆本。
局長は焦っていう。
「「チルドレン」が大人に見えるって・・・・・・大丈夫なのか!?」
「まったく問題ありません!!多少あいつらの手足が伸びて見えるからってどうだっていうんです!?」
皆本は背後にメラメラと何かを燃やしている。
「それもあと数時間で消える見込みです。実害ありませんよ!」
「うーむ・・・そうかもしれんが・・・今日は休んだ方が良くないかネ!?」
「なぜです!?これが原因で僕がミスをやらかすとでも!?僕はねっ!!マトモで正常な人間です!!10歳のエスパーにどーこーなんて気はまったくありませんよ!!」
「い、いや、ワシはただ・・・」
血管が浮き出るほど力説する皆本に、局長は押されっぱなし。
皆本はさらに暴走し、わははははははッと笑いながら続ける。
「兵部の狙いがなんにせよ、屈しちゃダメです!!いつも通りフツーにいきましょう!!」
「(強気でアピールするところがかえって不安だが・・・?)」
「(皆本さんなら大丈夫だと思いますが・・・ただ、子供たちには知られない方がいいかもしれませんね。)」
こっそりと話し合う局長と柏木は不安げだった。
「あたしたちが大人に!?それであいつ変だったのか・・・!!」
どこかの空き部屋に薫の驚いてた声が響く。
「必死で隠してるけどね。」
兵部は楽しそうに笑う。
薫は興味津々で、自分を指差しながら兵部に尋ねる。
「ねーねー、オトナになった私たちってどんな?イケてる!?」
「もちろん!強さも美しさも・・・誰にも負けないと僕は思うけどね。「女王」、そうだろ?「花嫁」」
「・・・・・・・兵部、京介」
薫に笑いかけ、最後に同意を求めてくる兵部を複雑な表情で見るなまえ。
そんななまえと薫を守るように葵と紫穂は一歩前へと出た。
「ちょい待ち!!ウチらまだあんたのこと信用なんかしてへんで!!」
「何をたくらんでいるの!?」
「えー、なんでー?」
表情の固い葵と紫穂とは違い、薫は不思議そうに尋ねる。
「たくらむなんて――――ただ僕はエスパーの・・・・とりわけ君たちの味方というだけさ。皆本クンは君たちを子ども扱いしすぎている。レディーとして扱うべきだ、そう思わないかい?」
ソファーから立ち上がりながら兵部は言う。
「でもまあ・・・余計な事をしてすまなかった。彼は数時間で元に戻る。それまであまり近づかないであげてくれ。しょせん彼も若い男だからね。」
ヒュン!!と兵部は瞬間移動で立ち去る。
「今の君たちに迫られたりしたら・・・・コロッと魅力に参っちゃうかもしれないから。」
「ウチらの魅力に・・・・」
「コロッと・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「(兵部、京介、)」
あはははははと笑いを残して消えた兵部の言葉に考え込むチルドレン。
「「「・・・・・・・・・」」」
「・・・・・やっぱりいた。」
薫達が皆本を探しに部屋を出ていった後。
なまえは兵部を追ってどこかのビルの屋上に来ていた。
「やぁ、「花嫁」。一人でどうしたんだい?」
地面に足を投げだしている兵部はまっすぐになまえを見上げる。
「・・・聞きたいことがあったの。このロケットが何なのか、」
「・・・・・それはなまえ、君のものだ。」
兵部はなまえから目を逸らし、立ち並ぶビルをぼんやりと見る。
「・・・僕の?」
「そうさ。・・・・それには"あの時"の記憶がある。」
「あの・・・・とき?」
それまで曖昧だった兵部の目に、はっきりとした憎しみがうつる。
なまえは、兵部の表情に恐怖の色を浮かべた。
ガタガタと、体がふるえている。
「あ、あの時って・・・・なんの、こと、」
「・・・・わかってるだろう、君が記憶を失い、それまでの全てを失った、そう、僕等が絶望を味わった時だよ。」
さらに鋭くなった兵部の瞳に、なまえの頭に浮かんでは消える記憶。
恐怖感で一杯で――――
目の前が暗くて――――
それが真っ赤に染まって――――
痛みがはしって――――
僕を満たすのは罪悪感で――――
「わ、わたくし、は、違うっ!僕は、そんなつもりじゃなかった!!きょうすけ、京介、京介、ごめん、ごめんなさい、ごめんね、許して、僕は・・・・・・・・・」
頭を抱えて、地面に泣き崩れるなまえ。
「なまえ、」
「呼ばないで呼ばないで、真っ白だった僕の前を、呼ばないで僕に閉じ込めた僕を――――」
お願いだから、そう絞りだすように言ったなまえを兵部は静かに見つめていた。
「・・・漁船とタンカーが衝突して、行方不明の乗員が6人。救助作業中沈没に巻き込まれたダイバーが二人。その全員を救助って、それだけでもスゴくない?」
「・・・まあな。」
海の底を漁船に向けて進む潜水艦。
その中に響く薫達の声。
「なのに―――あとからあとからわいてくる予定外の要救助者・・・!!何、この人数は!?」
「・・・密航者が乗ってたんだ。想定外の事態だな。」
ちらりと、潜水艦一杯に敷詰まっている人々を見る薫。
「もう定員いっぱいやで!?」
「ここまできたら全員助けたいけどね。」
困ったような葵に紫穂は冷静に答える。
それぞれ皆本に密着する薫、紫穂、葵に皆本は顔を赤くして焦っている。
「・・・あ、あんまりくっつくな!」
「おや〜〜〜〜〜〜?なんで?」
「せっ、狭くてうっとうしいから!!ただそれだけ!!」
にやにやと笑う薫。
催眠で薫たちが大人に見える皆本は顔を赤くさせたままげんなりとしている。
「(これは僕だけに見える幻覚にすぎない・・・!!兵部の催眠に惑わされるな僕・・・!!)」
「って皆本、なまえ起こさなくていいのか?」
意地の悪そうにわらっていた薫だが、自分達から少し離れたところで横になっているなまえを指さす。
「あ、そういえば・・・・・・誰か起こしてやってくれ。」
「よしッ!じゃあ、あたしが!!」
皆本の言葉に、鼻息を荒く意気込む薫。
しかしそれに紫穂は制止をかける。
「ダメよ薫ちゃん、なまえちゃんには正しい起こし方があるんだから。」
「正しい・・・・起こし方?」
きょとん とする薫に、にっこり笑いかけてから、紫穂はなまえまで近付く。
「なまえちゃん、お・き・て」
――ペロッ
「ひゃっ、いやぁ!」
「ね?」
紫穂に首筋を舐められて、跳び起きたなまえ。
「・・・・・それって前に兵部さんがやってたやつじゃ・・・・・。」
「えぇ。でもこれで効果覿面なのがわかったでしょ?」
皆に にっこり笑いかける紫穂の横で、なまえはちょっぴり涙目になっていた。
「あぅ・・・・・。」
「船尾・船底に接近!!ここで最後です!!」
微妙になった空気を打ち破る操縦者の言葉。
薫はそれに拳を握って立ち上がる。
「よし、エンジン切って!!あとはあたしが動かすから!!」
ぐっと拳を握り、潜水艦を動かす薫。
その時、紫穂が突然壁に手をつき透視はじめる。
「紫穂!?」
「待って・・・!!生存者5人発見・・・!!でも、あと10分で空気がなくなるわよ。」
「5人!?」
「こっちはあと3人乗せるのが限度よ!!どうします、皆本主任!?」
紫穂の言葉に驚く皆本に操縦者は叫んだ。
「(葵の瞬間移動は水中じゃ大幅に距離が制限される。水面まではとても無理だ。多分なまえの瞬間移動でも・・・・・。全員救出するには―――――)」
「葵!交換テレポートだ!!」
「交換!?何と!?」
「要救助者をこっちへ!代わりに―――――――」