止まらない流れ

「・・・・離してッ!!」

「・・・・っ!!」



念力で澪を勢いよく突き飛ばし地面に押さえ付けるなまえ。



「・・・・エスパー解放のための革命組織、「パンドラ」が僕らに何のよう?」

「!!・・・「血の花嫁」!!」



ぎりっと唇を噛み締める澪。

なまえは、顔から表情を無くした。
冷たい、何も感じないような瞳だ。



「京介みたいに呼ばないで!」

「・・・きょ、・・・・なんで・・・なんであんたたちばっかり何もかも手に入れてるのよ!!」

「!?」



突然なまえは胴体から生えてきた手に首を絞められてしまう。



「なにが女王よっ!!なにが花嫁よっ!!」

「・・・ッ・・・ァ・・・!」

「なんでよ・・・・!!」



殺気だった澪の目はなまえを睨みつけている。



「何・・・もかも・・・・・手に入れ・・・・てたら、」

「なによッ!!」

「僕・・・はここに・・・・・い、ないよ」

「な、・・・・ふ、ふざけるな!!」

「みらいを、・・・・みる、ってどういう・・・・・ことか、」



表情のなかったなまえの瞳に陰りが生まれる。



「そうぞう、できる?」

「そ、そんなの知らないわよ!!」

「なんで・・・・ぼくが、「血の花嫁」ってよばれてるか・・・・しってる?」



淡々と質問を繰り返すなまえに、澪は眉をひそめる。



「・・・・・(知らない、聞いても少佐は何も答えてくれなかったから)」

「!け、けほっ・・・・」



突如消えた首の圧迫。

なまえはむせ返るほどに押し寄せてきた酸素を懸命に飲み込んだ。



「す、けてる・・・?」

「・・・・・なんで、なんでよぉ――――――」



小さく残して、澪の姿は消えた。

残像を涙のように零しながら。



「瞬間移動・・・・・・じゃなさそうだし、(皆本たち気になるし・・・・あのコも気掛かりだし、)」



暫く澪の消えたところを眺めたなまえは、瞬間移動した。































「オ前ナンカ・・・・・・モウイラナイ!!私が本体ダ!」



雄叫びをあげながら徐々に体を再生させていく澪の分身。



「何、言ってんのよ!?しっかりしな、分身1号!!私たちの相手はこいつらよ!!」

「黙レ!!」

「!!」

「分身が―――――」

「消えた・・・!!」

「分身2号が・・・・!!まさか・・・あんたが吸収したの!?」



体の透けていた分身が消えたことにさらに焦る澪。

驚く一同。



「どういうこと!?」

「彼女の分身能力は部分テレポートを使って作った実体なんだ。幻影なんかじゃない。たぶん、素粒子レベルで体を構成する物質をまびいて、3つに分けたんだ。」

「それで体が軽くなった分、これまでできなかつたような移動も可能になった・・・・そうでしょ?」

「「「なまえ!」」」

「なまえちゃん!」

「やっぱり能力の暴走か。」



す、と地面に降りて立ったなまえ。



「薫たち理解してないと思うよ。」

「うん、何語って感じ・・・。」

「よ・・・・・よくわかんない。」



引き攣った表情の二人に葵が口をひらいた。



「空間とか物質のコントロールは人間のアタマで計算しきれるもんとちゃうって、ウチ、前に教わったで。」

「そういうのって、全部無意識の中で片付けちゃうからね。」



同じ瞬間移動能力者である葵となまえの言葉に一つ頷き、皆本は澪を真っ直ぐ見た。



「分身は君よりも無意識の影響を強く受けている。だから、冷静さを欠くとそいつに乗っ取れて――――――」

「じょ、冗談じゃないわよっ!?戻れ、今スグ!!」

「バーカ!コッチハモウ3分ノ2を支配シテル!!消エルノハ オ前ダ!!」

「!!」



澪は慌てて掌を分身にかざすが、逆に吸い込まれそうなのは澪の方らしかった。

追い打ちをかけるように分身は話す。



「・・・・別ニイイジャナイ。アンタモ本当ハ消エテナクナリタカッタンデショ?今マデ誰モ オ前ヲ守ッテナドナカッタ。少佐ダッテ オ前ヨリ女王ト花嫁ノホウガ大事ナンダ。コノ世ニ オ前ノ居場所ナンカナイヨ!!」

「―――――――!!」

「・・・・・・!!」

「・・・・。」



分身の言葉に、悔しそうに、何処か諦めた表情をする澪。

薫はそれを見た眉を寄せた。



「女王ヲ、花嫁ヲ倒シテモ彼女タチノ持ッテル物ハ手ニ入ラナイ。 家モ! 家族モ!! 恋人モ!!」

「・・・・・・!!・・・・・・、」

「澪!!」

「フ、」



ギュッと目を閉じ、最初よりも力を抜く澪に皆本は慌てて駆け寄った。



「気をしっかり持って意識を保て!!能力を理性でコントロールするんだ!!」

「ダ・・・・・ダメだよ。だって――――あいつの言ってること――――本当だもん・・・・・!!」

「澪っ!!」



徐々に透けてゆく澪に皆本は必死に叫ぶ。



「・・・・・・・・・」

「いいの?薫、」

「・・・・ちっ、」

「!!」



突如、分身の立っていたブルドーザーが動き分身は跳ね飛ばされる。



「え・・・・・・!?」

「ぐちぐちぐちぐち・・・・ケンカの最中にうるせーんだよっ!!」



澪の傍に立ち、念力でブルドーザーを動かした薫。



「(今、何かが私を包んだ・・・・?)」

「欲しいもんがあるなら、自分で作ればいいだろ!?そんだけ力があるのに何言ってんだ!!」

「・・・・・・!!」

「(あ、皆本の言ってた・・・・、)」

「あたしたちエスパーは、何にでもなれるしどこにでも行けるんだ!!」

「(薫・・・・・!!)」

「(女王・・・!!)」

「(・・・・ったく、)」

「(薫ちゃんたら・・・・)」

「(薫らしいや、)」



力強い薫の言葉に、固かった表情が和らぐ皆本たち。

なまえたちは、笑いながら薫に尋ねる。



「わかってるの?」

「あいつ、あんたをシメに来たんやで?」

「怒ってたんでしょう?」

「・・・・・・なんでかな。ヘコんでるエスパーを見ると、ムズムズするんだよね!んで―――――そういう時って―――――なんか、やたら力がでるんだ!!」



凄まじい音と目にも止まらぬ速さで移動する薫。



「!!さっきよりもっと速い!!」

「テレポーターなみね。」

「短距離やったらウチも危ないな。」

「馬鹿力だね!」

「サイキックぅぅうーーーーー!!」



残像で、薫が分身する。



「!!」

「残像百烈拳!!」



多数に分身した薫たちは一斉に澪の分身に向かい殴り掛かる。



「ガガアァ・・・」

「今だっ!!」

「!」



ダメージを受けて、動けない分身を吸収した澪。



「一人に戻った・・・・・・!!」

「・・・・・・・けど、急にボロボロに・・・・・」



澪は勢いよく地面に倒れる。



「分身がどつかれた分やな。」

「だ・・・・・・大丈夫か!?」

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

「・・・・何よ。エラそーに・・・・あんたなんか・・・!!」



ポロっと零れる澪の涙。

無表情のなまえは、ゆっくりと澪の近くにしゃがみ手の平で澪の目を覆った。


「な、何よ!!」

「・・・・・・」

「なまえ?」

「・・・・・はい、終わり。」



ぱん、と小さく手を叩いてからなまえはゆっくりと立ち上がる。


澪は体を起こして、自分の異変に気づく。



「傷が・・・・・・・、なんで・・・・・・」

「・・・・・・皆本、僕先に戻るから。」

「は?」



一方的にそれだけ言うと、宙に浮かぶなまえ。

そして、思い出したかのように緩く笑って澪をに手を振った。



「またね、澪――――――――――」
































丸いドーム状の建物の傍にそっと座り込む一人の少女がいた。

少女は壁に頬を寄せて 愛しげに、悲しげに、嬉しげに、ぽつりと呼んだ。



「不二子お姉様・・・・・、」



その頬に伝った涙には何が篭められているのか。
















使



(また一歩、未来へと進んでしまったの)

2018.01.22

/

[4/4]

章一覧/失った花嫁/サイトトップ