目覚めた彼女

「・・・・・・それにしても、ここはいつ来てもスゴいなあ。見渡す限り全部バベルの土地なんやろ?「税金使ってる」ってカンジするわ〜〜〜〜」

「超能力の開発・研究は国にとって重要だからな。大きな実験や特殊な訓練は全部ここでやるんだ。」



富士山らしき山と、そのふもとに広がる森やら野原やら道路やらを見渡す一同。

合同訓練のために、バベルが所有する研究所に訪れたワイルドキャットとザ・チルドレンは丘の上からの景色を一望していた。

煙草を口にあてながら谷垣は皆本へと口をひらいた。



「君はたしか研究所の出身だったな。」

「ええ、あっちの建物でしばらく働いてました。」



少し遠くにあるビルを指さす皆本。

その視線は、当時を思い出しているのか懐かしさが滲んでいる。



「てかさ、なんでなまえは訓練に参加してないわけ?」

「せや、朝から居なかったで?」

「何か任務なの?」

「なんでも極秘任務らしいけど・・・・僕も詳しくは・・・・。」

「なまえくんの予知能力、複合能力は希少価値が高いからな。単独任務の依頼も郡を抜いて多い。」



詰め寄るチルドレンに困ったように皆本は笑った。

谷垣は補足するように言う。

皆本に聞いても、それ以上何も聞けないとわかったのだろうチルドレンは、大人しく口を閉じた。



「ねえ、皆本さん、あれは何するところ?なんか変な建物だけど――――――」



紫穂が指さしたのは、ドーム状のB.A.B.E.L.Eと書かれている建物だ。



「あれか・・・・機密事項らしくて、僕らにもわからないんだ。立ち入りも厳しく制限されてる。」

「ふーん?なんやろ。」

「ちょっとのぞいてみねえ?」

「バカ、よせ!!」



好奇心剥きだしの薫に、皆本は勢いよく怒鳴る。


「前も一度、エスパーがイタズラで入り込もうとしたことが・・・・・・・非常警戒態勢になって訓練も研究も全部ストップして大変だったんだぜ!?」

「ほーーーーー」

「ストップするのか。」


ニヤリと笑ったチルドレンに、「あ、」しまったとばかりに口元を押さえる皆本。



「心配すんなよ、バレるよーなヘマはしねーよ!」

「ま・・・・バレてもそれはそれで!」

「ちょ・・・・・・・ちょっと待て、コラ!!おいーーーーっ!!」



皆本の声が響く頃には、チルドレン達の姿は消えていた。

皆本は勢いよくその場を、走り抜けていった。






















「・・・・・多分、僕が居ても無駄だと思うんだけど。」



不機嫌な感じが溢れるなまえの態度に、冷汗をかきながら局長は言う。



「彼女にもそろそろ起きてもらわなければ・・・・・・、なまえ、君にしかできんのだよコレは。」

「・・・・・・・・・・・」



薫たちが見ていたドーム状の建物は地下へと続き、たどり着いた地下には同じくまたドーム状の建物が一つだけある。



ドーム状の建物の唯一のドア。
そのすぐ横に設置されている電話の受話器を局長はとった。



『ふぁい?誰?』



電話口から聞こえる女の声。

なまえはその声を聞くと、びくりと肩を縮こませて複雑な表情をうかべた。



「あ、ワタクシですね、今、局長をやっとります桐壺です。先代局長の指示で、少佐が動き出したら起こせと言われましたが―――――」

『少佐ぁ?なに?兵部のこと?とにかく今、眠くてたまんないのよ。来月あたり、また起こして。』

「い、いやしかし先月もそう言われて――――――」

『うるさいっ!!』


ブツッと乱暴に切られた電話。



「・・・・・・また起こせませんでしたね。」

「てか、僕が来た意味ないじゃん。」

「・・・・・・・・・見たまえ、あれを。」

「・・・・・・スルーしないでよ。」

「眠いのだ。眠くてたまらず、見境ないとゆーか、なんとゆーか・・・・・彼女は我がバベルの重鎮でありながら、もう10年もここで眠っとる。」



局長の目線の先には、建物の扉の上にある看板。


― 我が眠りを 妨げるものに 呪いあれ ―



「うかつに起こすとキレて大暴れするんでこういう警備態勢をしいとるが、起こさなかったらそれはそれであとでうるさいらしい。」

「・・・・なんぎな人なんですね。」

「(・・・難儀ですむような人じゃないけどね、)」



なまえは小さく息を吐いた。

「難儀」という表現ですまないことを、長年の付き合いから身をもって知っているからである。



「でも、私たちの味方なのでしょう?バベルの創設に関わった方だと――――――」

「うむ。兵部少佐の拘束と監禁も、彼女の力なしには不可能だった―――――」

「・・・・・・(京介、)」



口をへの字に曲げ、苦い表情の局長。

なまえはギュッと肩を縮こませて何かに堪えていた。

兵部に対するなまえの気持ちは、未だうまく整理できていないのだ。

兵部と過ごした時期の記憶が戻り、しばらく経つが、"犯罪超能力者"である兵部だと、なまえは受け入れることができずにいた。

共に過ごした兵部が、そんなことをするなど、信じられないのだ。



『うるさいわねっ!!静かにしろよっ、目が覚めちゃうだろっ!!』

「ひい!?」



桐壺たちの近くがクレータ状にへこむ。

ドームの中の女は、桐壺と柏木の話し声が、我慢ならなかったようだ。

固い地面を広範囲にわたって粉々に砕いたパワーから、相当な高超度であることがうかがえる。

あと数十センチずれていれば、3人とも無傷ではいられなかっただろう。



「き・・・機嫌が悪いみたいですね。」

「そうだナ。今日は引き上げよう!!」

「・・・・・・そうもいかないよ、」

「ン!?」





―― ビーーッ ビーーッ






「侵入者だよ。」


クレーターを見た時よりも、更に青ざめていく桐壺と柏木の顔を見つめながら、なまえは先のことを考えてため息をついた。

























「・・・・起きてるでしょ、姉さん。」



女が眠る建物の中。

侵入者を知らせる警報が鳴ると同時に建物の中へと瞬間移動したなまえ。

建物の中にあるベットへと、迷うことなく進んだなまえは、女性の顔を見ながら呆れた音を発した。



「あら、来てたのね。なまえ。おはよう。」

「おはようございます・・・・じゃなくてあのね、さりげなく人の生命力吸わないで。そして上に跨がってないで、どいてね。」



ベットの側に立っていたはずのなまえは、女の瞬間移動能力によりベットの上へと移動させられる。

女は目にも止まらぬ速さで、なまえの両手を絡め取り、なまえの腹の上に跨がり、身動きを封じた。

女の長く、白い銀髪がさらりと流れる。

ほっそりとした、しかししっかりと筋肉のついた手足。

引き締った体に合わせて平均を大きく上回る胸が、存在を主張する。
胸のサイズは薫が見たら、確実に興奮する巨大なサイズである。



「10年ぶりの再会なんだからスキンシップとったていいじゃない。それに・・・・なまえの生命力は他の人と比べて格別にいいのよ。」

「っ・・・・ぁ」



女は、うっとりと口元を緩める。

つーッと首筋をなぞられ、ギュッと目を閉じ、ふるふると唇を震わせるなまえ。

それをみた女は、更に満足げに笑った。



「ふふ・・・・あら。」



部屋の中に薫の癇癪により突っ込んできた皆本を見て、女はさらに表情を明るくした。



「イイ男!?朝ゴハンにいただいちゃおっと!」

「わあっ、!?」

「・・・・みなもと?」



瓦礫の山からなまえたちの元へと念力で引っ張りだされた皆本。

不思議そうな声のなまえの姿を見た皆本は、床にはいつくばりながら顔を赤くした。



「え?なまえ・・・・・な、して!?っ、わ、な、なにをするんですかあっ!?」

「や、やめ・・・・!!」



皆本が気づいた時には女性の標的が自分に移り、なまえが叫ぶがそれも遅かった。

皆本の襟足を掴み、顔を近づける女性に向かい更になまえは声を上げるが、女性は止まらない。







――バッコン!!








外側から薫により破壊される建物。

突然の出来事に皆本となまえは驚くばかりだが、女は二人を連れて瞬間移動した。



「おやおや。カワイイ妹とカワイイ男のコが夜這いに来たと思ったら・・・・・コブつきってわけ?」



何事も無かったかのように瓦礫の上に立つ女性。

腕の中になまえを閉じ込め、その側には皆本が漂っている。

女性は念力で皆本を引き寄せると、ネクタイを鷲掴み───



「でも、まー・・・・わたくしはかまわなくってよ。」

「―――――っ!?」



周りの目を気にすることなく、皆本の唇を奪った。
そして、女は掴んでいた皆本のネクタイを手放すと、床へと雑に降ろした。

空いた両手でギュッと抱きしめられたなまえが苦しそうな声をあげる。



「んな・・・・!?」

「なまえ・・・!!」

「・・・・・おめざめですか。蕾見不二子管理官・・・!!」

「穏便に済ませようとした僕の努力が・・・。」



機嫌が最高潮に悪いチルドレンと、チルドレンと不二子を見、顔を青ざめさせる桐壺と柏木。

破壊された建物の煙幕が漂う地下。

女―――不二子の腕の中でなまえは、小さくため息をついた。



「なまえ、なんでそんなとこに・・・!?」

「・・・・えっとー、これには事情が・・・」

「・・・さっすが、若いのねえ〜〜〜〜〜これだけ吸い取ってもまだ元気があるなんて・・・・。でも、やっぱりなまえがサイコーだわ!」



唇に指をあて、艶っぽく笑う不二子。

不二子は、笑みを深めるとなまえの首筋に唇をよせた。

不二子の唇が、なまえの首筋を漂う。
なまえは、その感覚に耐えるように身体中に力を込めるが耐えられない感覚は、口から溢れる。



「・・・・んっ・・・!!あ、」

「うふふ・・・・・」

「ゴッ、ルァアアーーーー!!そんな女のセクハラで、何がどう元気になったあああァーーーーッ!!なまえにセクハラしていいのはあたしらだけだぁああ!!今すぐ返せええ!!」

「えーと・・・・・・イマイチやりとりの意味が・・・」

「わからなくていーんじゃない?」



興奮する薫に、首を傾げる葵。

葵の疑問に、紫穂は冷静に切り返した。



「ちょ・・・・ちょっと、君たち!?」



不穏な空気を感じとった桐壺が、慌てて声をかける。

しかし、お気に入りの主任と仲間を奪われたチルドレンの機嫌がいい訳がなかった。



「けど、ウチらの主任となまえに目の前で手ェだすとは・・・・」

「そーね。ちょっと後悔させてあげましょ?」



こわーく笑う葵と紫穂に不二子は目を丸くした。



「・・・・・!!(大切にされてるみたいね、なまえ)」

「!」



一瞬だけ優しく微笑んだ不二子の思考を接触感応能力で透視たなまえ。

しかし、次の瞬間には不二子は皆本の方を向いてニヤリと笑った。



「なに?ボウヤ、あなた・・・・あの三人、コブじゃなくてコレ?」



不二子の一本だけ上を向いている小指を見て皆本は怒鳴った。



「ひっ、ひがいまふっ!!まだほんの子供じゃないれすかっ!!そんなわけないれひょう!?」

「(あーあ、そんなこと言ったら・・・・)」



皆本の言葉は、的確に三人の地雷を踏んでしまった。

そして、薫の怒りを受けた地下室は跡形もなく破壊されたのだった。


加筆修正:2018.05.02

2018.01.22

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