二転三転

「やったか、薫!?」

「いや・・・・・・!!手ごたえがない!?」



半壊の地下の天井付近に浮いているチルドレン。

葵に問い掛けに、眉間にシワを寄せて答える薫。
まだ無傷のはず、薫は煙を睨みつけた。



「へ〜〜〜〜〜〜面白い子が育ってるのね、桐壺クン。」

「!!」



桐壺、柏木、皆本、なまえを連れて薫の背後に瞬間移動した不二子は愉快そうに笑う。



「超度7のサイコキノ・・・・・もしかしてそっちの二人も?」

「テレポート!!」

「てめえ――――」



余裕な表情の不二子が気にくわない薫は、不二子を攻撃しようと右手を翳しながら振り返る。

しかし不二子は逃げる訳でもなく、薫に向かい手を伸ばす。



「ダメだ、薫!!その女は―――――」



皆本が叫ぶ。



「あ・・・・・・・あれ!?」



薫の念力は発動せず、不二子はあっさりと薫の手を握る。



「仲良くしましょう、「明石 薫」ちゃん」

「サイコメトリー!!」

「ーーーっ!!や、ううーーーーーっ。」

「・・・・不二子ちゃん、」



薫の手を絡めた不二子は皆本と同じように薫の唇を奪う。

怠そうに宙に浮くなまえは最早呆れてものも言えないようだ。



「触ったところからエネルギーを吸い取る能力・・・・・局長、これはいったい・・・・!?」

「彼女はわがバベルの「影の首領」だよ。」



紫穂、葵と次々に唇を奪う不二子を尻目に説明を始める局長。



「兵部少佐の元・同僚づ、バベル創設以来、ああして他人の生命力を吸って若さを保っている。」

「・・・・・・ってか、兵部と同じくらいタチが悪いように思えますが。」

「味方でよかったよーな、よくないよーな・・・・・」



局長の呟きにその場にいた全員が心の中で頷いた。




























「久しぶり、でいいのかしら?」

「・・・いいんじゃないかな。」



バベルのとある一室に漂うのは緊張だった。
不二子は優雅な動作でソーサーを持ち、一口だけ紅茶を含む。

二人とも何から話していいのかわからないのだ。
兵部と共に戦争を体験した二人だが、こうして顔を合わせるのは10年ぶりくらいで。

兵部を逮捕して以来、ほぼ眠り続けていた不二子とは、なまえは会うことがなかったのである。



「どう?私の指令に従ってみて、」

「どうって、・・・・・・」



言われても、なまえはチルドレンの一員になった時を思い出す。

じんわりと、なまえは胸の奥に暗く侘しい空気が広がるのを感じる。



「・・・・羨ましいなって。僕はあの三人の絆に入ることができないから。」

「・・・・・・なまえ、」



俯き、足をぶらぶらと揺らすなまえの姿に不二子は口を閉じた。

髪の僅かな隙間から見えたなまえからはなんの気持ちも伺えない。



「で、本題は何?わざわざ起きてすぐに僕と話すってことは何か任務?」



それともまた司令?
なまえの口調は疑問形であるものの、どこか確信を抱いているらしかった。

顔をあげ真っ直ぐに透明な瞳を向けてくるなまえ。
不二子は気持ちを覆うように目を閉じ、管理官として口を開く。



「えぇ、正式な命令よ。みょうじ なまえ特別中佐には「ザ・チルドレン」を離脱し、医療研究課に移動してもらいます。命令は今から。異論は認めません。」

「・・了解しました、」



短い一言になまえの気持ちを推し量れるはずもなく、不二子は静かに部屋を後にした。


























ヒールの音が響くバベルの廊下。
普段は明るい不二子の表情は今はただ暗かった。

不二子はポケットから携帯を取り出すと、慣れた手つきで一枚の画像を捜し出した。



「・・・・・・」



写真だった。
写っているのは不二子と今は肩を並べることはない兵部、その二人の間になまえ。
不二子と兵部は軍服姿だが、なまえは質がいいだろう華やかなワンピースを着ている。

三人とも楽しそうに微笑んでいる。
特に、なまえは格段に。

この写真は戦時中にとったものだった。



「(バカな男・・・・・・今もまだ手の届かない未来ばっかり見てるのね。あたくしがいる限り――――あなたの思い通りにはさせない・・・・・!!)」



写真を眺める不二子の表情は複雑で。

しかし、その瞳には悲痛なまでの強い決意が輝いていた。



























「彼女の老化停止現象はエネルギーを吸収する際の副作用だ。能力のキモは、そのエネルギーを本来の自分の能力に上乗せすることにある。その能力とは――――・・・・・・・!!これって・・・・・」



B.A.B.E.L.と大きく書かれた極秘事項のファイルを抱えた皆本。

驚愕の表情を浮かべる皆本の背後から不二子は現れた。



「そうよ、「ザ・チルドレン」と同じ、サイコメトリー、サイコキネシス、テレポーテーション。」

「か、管理官!!」

「条件さえ整えば、不二子も「超度7」くらいのパワーが出るわよ。瞬間最大風速ってカンジ?みたいな?それと―――――不二子ちゃんって呼んで?」



ずいっと皆本に近寄り、顎に手をかける不二子。

なんだかピンクな雰囲気に皆本は真っ青な顔で首を振った。



「む・・・・・無理です!!」

「じゃ、せめて「蕾見さん」!」

「無理です!!」



ほんの少し不二子から距離をとり口を引き攣らせる皆本。



「で、「ザ・チルドレン」はどこ?」

「あ、今はシャワー室です。」

「そう。ちょーどいいわ。」



ニヤリと笑った不二子に、皆本は悪寒を感じた。



「え・・・・!?それはどういう意味です?」

「今のままじゃ「ザ・チルドレン」は最終的に兵部の思い通りになる・・・・・・って、言ったのよ。特に、なまえはね。あなたは運命を変えるだけの、力も覚悟も足りない。だから・・・・・・」



驚愕に目を見開き、呆然とする皆本に不二子は容赦なく言い放った。



「「ザ・チルドレン」の担当、外れちゃって?不二子、正式に命令しちゃう」

「僕に運命を変える力がないって――――それはどういう・・・・・・」



真剣な表情の皆本に、茶化すように不二子は唇に手をあてて妖艶に笑った。



「さ〜〜〜どういうことかしらね〜〜〜〜?不二子よくわかんなーい」

「(こ・・・このばーさん・・・・・・!!どこまで知ってて・・・・!?)」



くねくねと体を揺らす不二子を唇を噛み締めながら見る皆本。



「・・・・・・元々あなたは研究者なんだし、そっちでがんばって!」

「待ってください!!僕はあいつらの――――――」



理不尽な命令に従える訳がない皆本は抗議をしようとする。

しかし、不二子は抗議すらさせないとばかりにポケットからリモコンのような物を取り出し笑った。



「公務員が命令に口答えしちゃ、ダ・メ!配置転換は今からよ!」



不二子の親指がリモコンのボタンを押す。
と、同時に皆本が立っていた辺りの床が開く。



「うわ!?」

「チルドレンには不二子からよろしく言っとくから、じゃね!」

「わーーーーーーーーーっ!?」

「バベル本部に無能なオトコは不要なのよ〜〜〜!」

「え、何!?公務員ってこういう仕事!?」



開いた床は底抜けで、皆本は重量に従い落ちていくが、それも少しの間だった。



「!!」



皆本は敷いてあったマットに尻から着地した。

部屋にはヘリが一台と武装した男達が待ち構えていた。



「主任が来たぞ!!」

「ヘリを出せ!!」



待っていたとばかりに動き出した男たちに辺りをただ見回すしかない皆本。



「ではお連れします!」



がしと両腕を掴まれ、皆本は無理矢理立ち上がらせられた。

突然のことに皆本は自分の腕を持つ男を見つめるしかない。



「いや、ちょっと・・・・・!!」

「荷物等は我々があとで―――――」



そのままズルズルとヘリに連れ込まれる。

エンジンはついていたのか、ヘリはすぐにバベルを発とうとする。


徐々にヘリから見える景色が空に変わっていくのを見た皆本は最後の足掻きとばかりに叫びだす。



「横暴人事ーーーーーっ!!組合を呼べーーーーっ!!」

「特務機関にそんなものありません!!あきらめなさい!」



皆本と男たちの声はヘリの音と共に空に霧散していった。

2018.01.22

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