音もなく囚われる

「で、どこまで知ってるんです!?」



不二子の後に続き、少し廊下を進んでから口を開く皆本。



「どこまでって言われてもねぇ・・・・・。どう思う、なまえ?」

「・・・・・僕に振らないでよ。」



軽い口調で後ろを向く不二子につられて後ろを向いた皆本の目はなまえを捕らえた。

なまえは無表情で壁に寄りかかっている。



「なまえ?・・・・っ!君もグルだったんだな!?」

「・・・・・・・・・・・、」



先程の怒りがまた浮かんできたのか、皆本の目付きがするどいものになってゆく。

なまえはピクリとほんの少しだけ眉を動かしただけだった。

それもほんの一瞬だったため誰も気付いていない。



「そう怒鳴らないでよ、」

「・・・真剣な気持ちを利用されたんだ。怒鳴らずにいられるか。」



静かななまえにつられたのか、声量を落とす皆本。

しかしその顔には不満がありありと浮かんでいる。



「・・・・・いい加減、しつこい。」



ぼそっと言ったなまえの言葉に皆本は眉を寄せた。



「そんな言い方ないだろう!」

「・・・・・そう。皆本もそーなんだね。」

「は?」



ふっと壁から背中を離し、軽やかに皆本と向き合うなまえ。

皆本は握りしめた手を僅かに緩めた。



「いつ、僕が、不二子ちゃん達に協力した、って言った?」

「え、あ・・・・・いや、」

「どうせ、僕のことを初めから信用していなかったんだろっ!?」



声量と共に吊り上がる眉。

ゆっくりと上昇する体。

ガタガタと鳴る物や壁。

怒りと共鳴しているのか、なまえの念動能力が働く。



「皆本なんか――――――だいっきらいだぁあっっ!!」

「、ぃっ!?」



皆本の体が地面に派手な音をたて減り込む。



「わぁあああっ!!!」

「ちょ、ちょっとなまえ!?」



今まで傍観を決め込んでいた不二子が慌てて声をあげた。

なまえはたたき付けていた念動能力を止めるとニヤリと笑う。



「・・・・連れてくんでしょう?「あそこ」に。なら、それまでいい夢見させてあげるよ。」

「やめなさい!」

「な、なにするんだ!?」

「・・・・ちょっとは痛い目見ればいいよ。」



地面に埋まっていた皆本を宙に上げると、なまえは催眠能力を発動させた。



「あっあぁ!?」



思わず頭を押さえる皆本。



「なまえっ!!」

「・・・・・すぐ解けるし、むしろ皆本にはいい夢なんじゃない。」

「何言って・・・・・」

「予知の一部を見せてるんだよ。じーちゃんの予知とは別な部分をね。」

「!?」



驚き言葉もでない不二子に背を向けるとゆっくり歩きだすなまえ。

どさっと皆本が床に崩れ落ちる。



「透視しても無駄だよ。起きたら皆本自身も忘れてるだろうから。」

「ま、説明しなさい!」

「・・・・・しばらく離れるよ。どうせ医療研究課は賢木一人で十分だろう?」



探しても見つからないよ、

止める不二子にまくし立てるように言ってなまえは消えていった。






























「ねぇ、お父様。日本にね、すごく人形にしたい子がいるの!」


「どんな子なんだい?」


「心がね、すかすかなの!私と同じくらいのーりょくが強い子!」


「名前はわかるのかい?」

「うん!みょうじ なまえちゃん!特別なお人形のお友達にするんだぁ!」


「そうかい、なら――――行っておいで。」




































「さ、着いたわよ〜〜〜〜」

「・・・・・・・ってどこまで行くんですか!?」



なまえの騒ぎから3時間。

沖縄県の某島に降り立つ不二子と皆本。



「ここの海――――――知ってるでしょ?伊号が好きだったわ。」

「そーいや――――――あっちでしたっけ。イルカのエスパー伊号中尉が駐留する島は・・・・・」



ネクタイを緩め、島を見渡す皆本。



「このあたりは激戦地だったの。彼の仲間が大勢戦死したわ。彼、無事だといいわね。」



少しだけ悲しげに伏せられる不二子の瞼。



「そうすれば・・・・・あの悲惨な未来も絶対じゃないと証明できるもの。」

「―――――!!そ・・・・・それじゃ――――全部ご存じなんですね!?」

「彼の使う思考透視プロテクトは私たちと一緒に編み出したものよ。解読キーも変わってなかった。あなたを透視てすぐわかったわ。」



淡々と事実を話す不二子。

足はゆっくりと飛行機から遠ざかっている。



「あの頃は・・・・・楽しかったな。私たちみんな、自分たちの能力が幸せな未来を作るって信じてた。」



口元を僅かに緩める不二子。

脳裏にあるのは共に戦を生き抜いた三人の友人のことだ。



「・・・・・管理官。それと僕をハメたことと、どう関係が?」

「・・・・ムードに流されない子ね〜〜〜〜〜カタいのもいい加減にしなさいよ。」



雰囲気をぶち壊す皆本に、思わず足を止めて皆本を軽く睨む不二子。



「そんなザマだから10年後に薫ちゃんを撃つハメになるってことがわからないの?」

「・・・・・・・!!撃ちたくて撃ったんじゃ―――――――じゃなくて、あんなことにはなりません!!それを防ぐために僕は毎日がんばって―――――――」

「10年後のあなたもそうだったんじゃない?お堅く真面目に一生懸命やって・・・・・・・」



不二子は皆本をちらりと振り返りため息をついた。



「あげく、あの四人は兵部少佐に取られちゃったのね。そう思わない?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・!!じゃあ、どうしろと!?」

「簡単よ〜〜〜 あなたが―――――――「チルドレン」とデキちゃえばいいのよ!」



キラキラと効果音でもつくそうなぐらいのいい笑顔の不二子。

悔しさに歯をくいしばっていた皆本は間抜けな顔をした。



「あ!?」

「お待ちしてました蕾見管理官っ!!」

「!!」



手を振りながら白衣(ナース服)をきた女性が二人に小走りで近づいてくる。

女性は腰よりも長い髪を耳の後ろで二つに結んでいて、にっこりと笑うとまるで花のようだ。



「末摘花枝一曹でーす!」

「ご苦労さま〜 じゃ、さっそく催眠能力でこのコを洗脳しちゃってくれる?」

「んな――――――――!?」



さらりと笑顔で放たれた不二子の言葉に皆本は驚愕を隠せなかった。





































人里離れた山の一角だ。

普通の人なら気味悪いと感じるだろう木々。

果てしなく林立している木の間を、迷よわせることなく進んで行く少女。



「久しぶり、みんな。」



少女―――――なまえはある洞窟の前で立ち止まる。

その場にしゃがみ込み小さな岩を見つけると、小さく微笑んだ。

様々な感情が入り混じった微笑みだった。



「しばらく任務で忙しくて・・・・・、 いま奇麗にするから。」



す、と 立ち上がったなまえは両手を前に突き出す。

かさかさと葉が揺れ、彼女を中心に静かに風が巻き上がる。

しばらくすると風は止み、現れる岩の全貌。


慈しむようになまえの指は岩の表面をなぞる。



「「陸軍特務超能力部隊」・・・・・僕らのハジマリ。」



そっと瞼を閉じたなまえ。

様々な思いのつもった行為だった。



「なにがかなしいの?」



子供特有の高い声。

音は全くなかった。

なまえは顔を上げ周りを見渡す。



「なにがにくいの?」



姿のない声。

見つからない子供。

煩いなまえの鼓動。



「なにが――――こわいの?」

「なに言って―――――――いるんだ!!」



精神感応能力で感じとった辺りに攻撃を放つ。



「わたしはてきじゃないよ、」



瞬間移動だろうか。

避けられたなまえの攻撃。



「わたしはあなたの「みかた」だよ。」

「なにいっ・・・・・・!?」



背後から静かに現れた声の主。

フードを被っているからわかりにくいが体格からして女の子だろう。

なまえの瞳は女の子を写す。

その瞬間、脳裏に浮かぶ過去(トラウマ)に目を見開くなまえ。



「あ、・・・・・・・あ゙ああ゙ぁぁ!?や、やああああ!!!」

「あなたの「なか」はよく見えないけど、」

「やめてっごめんなさいっごめんなさっい」

「1ばんわすれたいことはこれでしょう?」



膝をついて体を丸めるなまえに女の子は近づくと小さな手でそっと目を覆い隠す。



「苦しいよね、」

「あ、ぅ」

「悲しいよね、」

「ひぅ、う」

「なら、―――――――――――忘れちゃいなよ。」

「や、やだああああああ、あ!!!!!!き、ょ け――――――――京介ぇぇぇ!!!!!」

2018.01.22

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