偽善者は染まらない

「・・・ったくよ〜〜〜〜〜!!あいつらのせいでHR打つ瞬間が観れなかったんだよなーーーーーーー!!」



頭の後ろに腕を回し、机に足を乗せて椅子を揺らす東野。

その表情は憎々しげだ。



「何が「パンドラ」だよ!?エスパーってうっとうしい!!」



ちらりと、東野は窓側に居るなまえたちを見た。



「それは僕たちに向かって言ってるわけ?」

「エスパーをみんな一緒にしないでくれる?「パンドラ」は犯罪集団なのよ。」

「せや!それ差別発言やで!!」



なまえは静かに目つきを鋭くして、紫穂と葵が口調を強くして東野に反論する。



「阪神ボロ負けの試合なんかどうでもええやん!?巨人ファンってほんまにどいつもこいつも身勝手やな!?」

「待てコラ!?なんかおかしくね!?そっちが差別的で身勝手じゃね!?」



馬鹿にした葵の台詞に、東野は勢いよく立ち上がり、怒鳴る。

反動で倒れる椅子。



「やめて、東野くん!!ケンカしないで!!」

「・・・・・!!ちさと・・・・!!」

「本当にエスパーがみんな嫌い?私のことも・・・・・!?」



幼なじみのちさとの声に反応する東野。

しかしちさとの表情は困り顔だ。



「・・・・・ちょっと!?ひとを操らないでくれる!?やめてよ、明石さん!!」



体をかくかくと薫に動かされるちさと。

脱力した東野は顔から床に倒れこむ。



「へ!?あたしじゃないよ!?学校で超能力使うわけないじゃん!?」



ちさとに怒鳴られた本人の薫はケロッとした表情で言い返す。



「・・・でも東野にいちばん効くのは――――――――ちさとちゃんの泣き落としだよね!」

「たしかにー」



にっと笑う薫に、なまえも頷く。



「さ、ここで涙!!今すぐ!3、2、1、キュー!!」

「そんな自由自在に泣けませんっ!!」



人差し指をふって合図をする薫に、ちさとは顔を真っ赤にして否定した。



「あら、女の武器はいつでも使えるようにしとかなきゃ。大丈夫、練習すればすぐできるわ。」

「・・・あんたはできるようになってんねや?」

「流石だね!紫穂!」



左手をちさとの肩に置き、黒く笑う紫穂。
なにやら毒々しいオーラが出ている。

顔を青くした葵のツッコミと、若干ズレてるなまえの歓声。

薫の目が、怪しく光る。



「涙が使えないとなると、残る女の武器は――――――色気かあっ!?念動上昇気流ーーー!!」

「きゃーーーーーーっ!!」



ちさとの足元から勢いよく風が巻き起こり、スカートが大きくめくれる。

現れるちさとのパンツ。
ちなみに可愛らしくチェリー柄だ。

まともに目撃した東野は顔を真っ赤に染めた。

次の瞬間、鬼の形相の東野とちさとにどことなく嬉しそうな顔で打たれ、蹴られる薫。



「いいかげんにしろーーーーっ!!」

「明石さんのヘンタイーーーー!!」

「あたしじゃないよ?ほら、あれ?神風?・・・それはそうと、ずいぶんと仲がいいんだ〜〜〜〜〜〜?」

「「え、」」



地面に倒れながら、ニヤニヤと笑う薫。

視線の先には、ちさとを庇うように前にでている東野がいる。



「ちがっ、」

「これはお前が―――――」



慌てて顔を真っ赤にして否定する二人。

そんな姿を見てますます喜ぶ薫。
どうやら火に油を注ぐだけのようだった。



「ヒューヒュー!!結婚式はいつですかああーーーーーーっ!!」

「ちがうっつってんだろコラー!!」



教室の机を跳び箱のようにして、飛び回る薫。

それを叫びながら追い掛ける東野。

ちさとは最早呆れ返っている。



「さすが薫やな。一発で話すりかえてしもた。」

「本当だよねー。・・・若干ちさとちゃんが可哀相だけど、」

「え、あれ、計算!?」

「・・・・っていうか、本能?いろんな意味で。」



驚くクラスメイトの女の子に、苦笑いを葵と紫穂となまえ。

三人の表情が柔らかくなる。



「誰も薫ちゃんには敵わないのよ。男のコも女のコも・・・・・」

「エスパーも普通人も、「パンドラ」もウチらもな。」

「薫だから、ね。」

「(薫ちゃんて――――ううん、薫ちゃんだけじゃない。この四人、私と同じ「超度2」だっていうけど―――――時々もっと強力なんじゃないかって思うことが・・・・・もしかして何か・・・・)」



丸めた教科書で薫の頭を殴る葵。
それを笑う紫穂となまえ。

そこから目を離し、困ったように笑う、ちさと。

なまえはそんなちさとを見てから、疲れたとばかりにため息をついた。









































「・・・・で。」

「な、何かネ?」

「なんで僕だけ局長たちと待機なの?」

「これは上からの命令で・・・・・」



なまえは目を細めて局長のほうを見た。

腕を組んで態度の端々から不満であると感じられる。

視線になまえの不満を感じた局長と柏木は肩を縮こませた。



「あなた、自分がこの前まで何をしてたのか覚えていないわけじゃないでしょう?」

「そ、それは・・・・、そう、だけど、」



探知機械の調子を見ていた不二子が口を挟んだ。

口調はとても冷ややかだった。

それに勢いも萎んだのか、なまえが言葉に詰まる。



「しかも、小さくなったり大きくなったり暴走したりで、脳細胞へのダメージ考えてるの?」

「うっ、つ、使えるよ!れ、超度は落ちるけど・・・・!」

「超度が低くかったら意味ないでしょ。」

「うぅ・・・・・・」



だんだんと縮こまってゆくなまえ。

見かねた局長と柏木が、援護にまわる。



「ま、まぁなまえくん。管理官も君を心配しているんだヨ!」

「そ、そうですよ!今回の予知はパンドラなんですもの、万全な状態じゃないなまえちゃんが出動して怪我をしないようにって、管理官なりの気遣いなのよ。」

「でも、・・・・・(精神的ダメージを与えかねない「あの兄弟」の攻撃だからこそ、予知能力のある僕が・・・・)」



俯き、きつく拳をつくるなまえ。

不二子は短くため息をついてから、なまえへと向きなおり少しだけ表情を緩めた。



「・・・・「ザ・チルドレン」や皆本くんに危険が及べば、勿論、不二子が出動するわ。それでも納得できない?」

「・・・・そんなこと、ないけど、」

「なら、上官命令よ。なまえは不二子と一緒に待機。」

「・・・・・りょーかい、」



しぶしぶとばかりになまえは返事をすると、窓から見える東京の景色に意識を移した。

2018.01.22

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