臆病者はひた走る

「どお?見つかった〜〜〜〜〜〜〜〜?」

「もうひと息なんですが・・・・」

「奴らの放送はESPを使ってるから、通常の方法じゃ発信源を探知できないわ〜〜〜〜〜〜チルドレンをオトリにすれば、攻撃したあとスキができると思ったんだけど〜〜」



バベルの職員に困り顔で零す不二子。

返事をする職員も、困り顔だ。



「ESP念波に似た微弱な電波ノイズを発見はしましたが、東京は他にも電波が多すぎて・・・・、一時的にでも減らす方法があればいいんですが。」

「う〜〜〜〜ん。」

「・・・・電線切っちゃえば?」

「「え?」」



なまえの呟きに不二子と職員の驚きの声が重なった。

なまえは依然として拗ねているのか外を向いているが。



『そこで騒ぐと危ない!離れろ、薫!!』

「!」



通信機から鳴り響く皆本の声。



『暗くて見えづらいけど!』

『え。』

『そのすぐうしろに高圧電線が・・・!!都心部に送電するメーンとサブのラインだ!22万5千ボルトの超高圧なんだぞ!!』

「・・・・!!それなら!電線ってこれのことねなまえ!」



不二子の口元が、怪しく光った。

どうやら状況を打開する案を思いついたらしい。

なまえは不二子の発言には耳をかさず、じっとガラスの向こうを見ている。



「(どんな手を使ってもあなたの思い通りにはさせないわよ。兵部京介!!)」

「(・・・・・あとのことを予知するには、超度が足りない、とりあえず優先するのは、皆本の安全・・・・・もう少しだけ先の予知を・・・・・)」



強く瞼を閉じたなまえは、予知能力へと意識を集中させた。































「犯人と「ザ・チルドレン」が抗戦状態に入ったようです!」

「おっけー。桐壺くん!待機命令を解除。ただちに犯人の包囲にまわって!」

『了解しました!』

「ご苦労様。後はもう大丈夫ね。」



不二子は無線に指示を出し、少しだけ表情を緩めた。



「(・・・・いや、まだダメだ。薫の居ないチルドレンじゃ、二人同時に捕まえられない。しかも、やつらの能力を使えば、片方がエスパー錠を外すなんて造作もない。何か、対策を練らないと――――――)」



思考に埋もれていくなまえの目に窓から見える住宅街か目に入った。

































『!!うあああぁあぁ!!』

「(!しまった!皆本が無防備に・・・・!!)』



依然、不二子の元で待機を続けるなまえは精神感応能力で皆本の叫びを感じとった。

距離があるので全てがわかる訳ではなく、なまえは悔しさに唇を噛んだ。



「(薫はまだ時間がかかる・・・・・、葵たちは・・・・!)」

『どないするん!?』

『一端離れれば、能力は無効化するみたいね・・・・・』

『早うせんと、皆本はんが・・・・!?』



能力で葵と紫穂の様子を伺うなまえ。

なまえは皆本を救うため、二人へと声をかけた。



「(葵、紫穂!)」

『?・・・なまえか!?』

「(そうだよ。時間がない、皆本が――――攻撃を受けてる・・・・!)」

『なんですって!?』



焦るなまえの声につられるように紫穂と葵の表情にも焦りが浮かぶ。



「(精神的なものなんだ。・・・・早く助けてあげないと、)」

『せやかて、あの攻撃を防ぐ手立てが・・・・・、』

「(・・・・住宅地にあるアンテナを使って!)」



紫穂と葵の脳になまえに送られたイメージが浮かぶ。

丸い円盤状の、スタンドライトのような物だ。



『!なるほどね!わかったわなまえちゃん!』

『・・・?とりあえず、これを探したらええんやな!』

「(うん、あとは紫穂がわかると思うから、)」



なまえはそれだけ言うと、ゆっくりと目を開いた。

しかし次の瞬間には再び苦しげに目を閉じた。



「(万全じゃない状態じゃ、やっぱりダメだ、・・・・・・)」

「?なまえ、どうかしたの?」

「・・・・別に、あ、いや・・・・・少し眠いから、ちょっと寝てるよ。」

「は、?」



なまえはそれだけ言って歩き出した。

眠そうにあくびなんてしながら。



「・・・・・あの子、(最近は眠気があまりないから大丈夫だと思ったのに・・・・、)」









































「お疲れさーん!キリキリ歩けっ!」



電磁波義兄弟がバベルの職員に囲まれながら歩いていく。
毒電波で頭のおかしくなった兄は高笑いをし続けていた。

皆本は呆れたように横目で見てから不二子に話しかけた。



「・・・・・今の放送でかえって印象悪くなってませんか?ムリヤリなのバレバレですよ?」

「いーのいーの、映像がインチキだってわかればそれで。それより皆本クンさあ〜〜〜〜〜指揮官が捕まって、チームの足ひっぱっちゃダメじゃん〜〜〜」

「・・・・すいません。あんな攻撃は予想してなくて―――――――――」



申し訳なさそうな皆本。

不二子は静かに目を細めた。



「こんな場合のためにさあ、渡したじゃん、武器?」

「!!」



皆本の表情に動揺が走る。



「使わない気?まさか携帯してないってことはないわよね?」

「で、でも管理官、あれは――――――」



追求の手を緩めない不二子。

皆本は思わず言葉に詰まる。



「なーなーなんの話?」

「!!」

「捕まってしもたことやったら、もう気にせんとき!」



薫が皆本へと近寄ってくる。
それに続いて葵と紫穂も皆本に体を寄せる。

薫は皆本の左腕を掴むと笑う。



「皆本はあたしたちが守ってあげるから!」

「そ、安心して。」

「そりゃどーも。」

「話が逆でしょ!?」



薫と紫穂の言葉に皆本は苦笑いだ。

不二子だけは怒っていたが。



「(そのコたちを守ることは、他の何より重要な任務なのよ?わかってんのかしら、コイツ。)」



不二子はこっそりとため息をついた。




























「っはぁ、う、うぁ、」



暗い室内になまえの苦しげな声が響く。
頭を押さえ、必死に痛みに耐えていた。

その目には涙が光っている。



「(こんなんじゃ、ダメだ。もう、そこまで、未来は来ているのに、)」



なまえはゆっくりと床に転がると、目を閉じた。



「いか、なきゃ、」



つぶやきが部屋に熔けるころには、なまえの姿はもうなかった。











(僕が僕であるためには)(頑張らなくちゃいけないんだ)

2018.01.22

/

[2/13]

章一覧/失った花嫁/サイトトップ